手軽に暑さをしのげる「ハンディ扇風機」。使い方によっては目にリスクが高いことが実験でわかった。
目は“からだの中で最も小さな臓器”と称されるとても繊細な部位。黒目にあたる角膜はつねに外気にさらされている器官だ。そこがハンディ扇風機の風で乾いて傷ついてしまうと、涙の安定性が低下し、目の疲れ・かすみなどの不快症状に繋がるのだという。
風を浴びることで角膜がむきだしに
ハンディ扇風機の風が角膜に及ぼす影響の実験を行った眼科医・有田玲子先生は言う。
「角膜は水と油からできている涙に守られていますが、扇風機などの風を受けると涙が蒸発し、角膜がむきだしになって、傷がつきやすくなります。角膜が傷つくと、疲れ・かすみ・しょぼしょぼ・痛みが出る等の、様々な症状があらわれます」
ドライアイ症状のない3名に、固定したハンディ扇風機を使って使用シーンを想定して1分間顔に風を当て、1分後に「問診票による自覚症状の変化」と「目の表面の涙がどのくらいの時間で乾燥し始めるか」を観察。すると、3名全員が1~2秒で涙が蒸発し始め、涙の保持時間は半分以下に減少し、角膜の傷リスクが高まっていることが明らかに。
実験後の3名からは、「たった1分でも目が乾いた感じがした」「(結果を聞いて)こんなに乾いているとは」など、わずかな時間で涙が乾きやすくなっていることへの驚きの声が上がったという。
「今回の実験を受けて、短時間であっても直接目に風が当たるのは、目に良くない環境であることがわかりました。角膜が傷つくリスクには様々なものがありますが、風の影響が一番大きいとも言われています。風により涙が蒸発しやすくなり、角膜が涙によって保護されずに裸のような状態になってしまうのです」
夏は目にとって酷な季節だ。強い紫外線が差し込み、そこに額からの汗がしみる。汗は塩分を含み、目に入ると刺激となる。睡眠不足による新陳代謝の遅れやエアコンで冷えることによる血流障害などは、涙の量や質を悪化させ、目の免疫力の低下、健康回復をも遅らせてしまう。コンタクトレンズを使っている人は、とくに不具合を感じやすいので、目を休ませるケアが必要だ。
目の温め、目薬で休める、いたわる
ハンディ扇風機を使う場合は、風が直接目もとに当たらぬよう、なるべく顔を避けて首元に当てるなどの工夫を。
有田先生は「ただ目が疲れているだけ、と思っていても、実は角膜の傷が原因かもしれません。さらに、角膜の傷が治らないままでいると瞳のバリア機能が低下し、感染症リスクも高まってしまうため、適切なケアが必要です」と語る。目がゴロゴロする、ピリピリと痛むようなら要注意。
そこで有田先生が提案するのは、次の2つ。
(1)目を休める・いたわる
日常的に目を使い過ぎず、意識的に目を休める。具体的には、時々目をゆっくりと閉じ、スマホをずっと見続けることは控えて、まばたきも適宜行う。
(2)目薬をさして目の表面を潤す
目のチクチクや疲れ等の不快感を和らげるために目薬を常備している人もいるはず。角膜に有効なのは、ビタミンA入りの目薬。目薬はさしすぎると涙を流してしまい逆効果になるため、一日に3~5回を目安に、一回1滴のみ、さす。
医学博士 有田玲子先生(眼科医)伊藤医院眼科副院長 慶應義塾大学元眼科非常勤講師 東京大学眼科臨床研究員 医学博士
ドライアイ、またドライアイの中でも特に『涙のあぶらの専門家』として、TV・雑誌・講演会・ワークショップ等を通じて精力的に活動する。油不足ドライアイ関連の英論文は70本以上発表し、世界一となる。「多くのかたへドライアイの正しい知識を身につけてほしい」と、2021年にYouTubeチャンネル『眼科医 有田玲子先生のドライアイ診察室』をスタートし、難しいことをわかりやすく明るく解説することをモットーに、ためになる情報を配信中。
イラスト・写真提供:現代人の角膜ケア研究室