仲野太賀(29)の株が上昇の一途をたどっている。現在は日本テレビ系の連ドラ『初恋の悪魔』(土曜午後10時)に林遣都(31)とダブル主演している一方、NHK-BSプレミアムの連続ドラマ『拾われた男』(日曜午後10時)に主演している。
仲野の強みと言えば、自然な演技に加え、職場や近所に1人はいそうな親しみやすい風貌。美男、美女だけでドラマ、映画はつくれない。現実離れする。濱田岳(34)もその1人だが、物語に2.5枚目は欠かせない。
自然な存在感を持つ仲野太賀
仲野自身は地味キャラに悩んだ時期もあった。2020年10月1日の『ダウンタウンなう』(フジテレビ系)で明かしたところによると、自分が隣にいるにも関わらず、スタッフが「誰か太賀君を呼んできて」と声を張り上げることがあった。こりゃ確かに嫌だろう。
屋外でのロケ撮影中、通行人からスタッフに間違えられて、「撮影ですか?」と聞かれたことも。これも複雑な心境になるはずだ。
仲野は地味キャラから脱すべく、10代のころからの親友である菅田将暉(29)に向かって、こう決意を語ったことがある。
「オレはこれから売れたいんだ。だから浅草に住みたい」
芸能人の住まいは東京の港区か世田谷区、大田区と相場が決まっているから、あえて台東区浅草に住むことによって区別化を図り、個性を強めようとした。ちなみにこの計画は実行されなかった。大きな効果が見込めそうにないことに気づいたのか。あるいは菅田が止めたのかも知れない。
仲野はマジメ人間なのだ。親しい先輩の勝地涼(35)によると、仲野の台本には注意点などがびっしりと書き込まれており、真っ赤っかになっている。そこまでする俳優は知らない。仲野はこう説明した。
「何かを書いて芝居が良くなる訳ではないのですが。書き込むことが目的になりつつあることも。そういう時は最終的に『絶対に負けない』と書いてます」(『ボクらの時代』(フジテレビ系、2021年11月7日放送)
自分に負けないという意味である。典型的な努力型だ。売れるまでに長かったせいでもあるのだろう。
初めて演技をしたのは、2007年の映画『フリージア』だったが、セリフは一言。翌2008年には中学生の友情を描いた映画『那須少年期』で早々と主演を勝ち取ったものの、次の主演映画『壊れ始めてる、ヘイヘイヘイ』が2016年なので、8年も空いた。
ゆとり世代の権化である山岸ひろむ役を演じて、知名度を一気に上げた連続ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)の放送も同じ2016年。10代から20代前半の8年は長い。しかも神木隆之介(29)ら同年代の俳優が次々とスターになっていった。
仲野の演技力を認める同世代の俳優たち
仲野の演技力には早くから定評があった。それだけに売れるまでの間には歯がゆい思いもしたはず。くじけなかったのは、仲間の俳優たちが仲野の才能を認めていたせいでもあるだろう。
仲野は『初恋の悪魔』でお人よしの警察署総務課職員を好演しているが、素顔も陽気で心根がいいことで知られる。このため、親しい俳優が多い。林遣都、菅田将暉、神木隆之介、染谷将太(29)、柄本時生(32)、間宮祥太朗(29)――。みんな仲野の演技力を買っていた。
ホロリとするのが、やはり苦労が長かった中村倫也(35)の言葉。2018年11月、『日経トレンディ“2019年 来年の顔”』に選ばれたとき、中村はこう言った。
《太賀、賀来賢人と会ったとき、“倫也が売れてうれしい”と言われた。出会いを大事にしてきて良かった》
親や所属事務所からの言葉より、苦労をともにした仲間の喜びが一番心に染みたというのだ。仲野も賀来も心から祝福したからだろう。
映画界の重鎮・中島貞夫監督(87)によると、昭和期は違った。助演者同士は食うか食われるか。ライバル心が強かった。スターと非スターは最初から完全に区別されていたから、親しくなるどころか、対等な関係にすらなれなかった。
平成期に入ってからも同年代で同格の俳優同士は打ち解けにくかった。対抗意識からだ。1人の売れっ子を中心とする「●●会」もいくつか存在した。事実上の派閥である。また、「嫌いだから」という至ってシンプルな理由での共演NGもあった。
今の若手俳優は異なる。みんなで一緒にドラマ界や映画界を盛り上げようとしている。仲が良い。その中心にいる1人が仲野だ。所属事務所の垣根を越えて飲みに行き、演技論や作品論を語り合っている。
「太賀」から「仲野太賀」へ改名した理由
出演ドラマのタイトルの通り、仲野はゆとり世代(1987年から2003年ごろに生まれた人)。この世代は「組織への帰属意識が低い」など短所ばかり指摘されるが、「横のつながりを大切にする」などの長所も多い。俳優も例外ではないだろう。
仲野が改名したのは2019年6月。「太賀」から「仲野太賀」にあらためた。本名が中野であるにもかかわらず仲野にした理由は、「仲間との出会いが俳優人生の財産だから」。
ちょっとキザにも聞こえるが、ゆとり世代らしい本音に違いない。一方、先に売れた菅田も仲間思いで、スタッフらに向かって「太賀はいい」と讃え続けていた。昭和期なら考えられなかっただろう。
仲野の父親が『愛のいう名のもとに』(フジテレビ系、1972年) にチョロ役で登場した中野英雄(57)なのは知られている通り。今は仁侠もののVシネマ界の大御所だ。ヤクザの大親分をよく演じ、見た目は強面でコワイが、やはり仲野を支えた。
仲野のドラマの放送が終わると、すぐに感想が書かれたメールが中野から来る。毎回、絶賛される。仲野によると「オレの話はするなと釘を刺しているのにSNSで(PRを)流す」(フジテレビ系『ボクらの時代』2021年11月7日放送)。
迷惑そうな口ぶりだったが、顔は笑っていた。ありがたいと思っているのだろう。中野の愛情に恵まれたこともあって、仲野はいい奴に育った。
ゆとり世代の代表格である仲野とその仲間たちが、これからのドラマ界、映画界をどう変えてゆくのか興味深い。