※写真はイメージです

 8月5日は『タクシーの日』。どんな客でも、目的地に運んでくれる便利なものだが、ときには人ではない者が乗り込んでくることも。毎年『心霊スポット巡礼ツアー』を開催している三和交通のタクシードライバーが写真とともに振り返る恐怖体験を、今ここに─。

そこにいたはずの女性が……

「何があったのか知りませんが、乗車されている間、延々と“バカなの”“死ね”“殺すぞ”の3ワードしか言わないお客様がいました。そんな言葉を言い続ける方ですから、何をされるかわからない。やっぱり怖いですよ」

 苦笑いを浮かべながら語るのは、横浜を中心にタクシー・ハイヤーサービスを展開する三和交通の竹内乗務社員。タクシー運転手ならではの理不尽かつ恐ろしい体験は、枚挙にいとまがないという。

 さらには、こんな“怖い”話を続ける。

「深夜、まったく人けのない街道沿いを走っていると、信号付近でぼーっと立っている女性が見えたんです。タクシーを拾うために手を上げるかなと思って注視していたのですが上げない。ですから、そのまま通り過ぎたんです」

 タクシー運転手は、後方確認をすることが職業病になっているという。そのため、竹内さんもバックミラーをのぞき込んだそうだ。

「いないんですよ。まったく姿がなくなっていて……。ホントにあった話なんですけど、ベタですかね? ははは」

 いやいやいや。普通は、そんな体験なんて一生に一度あるかどうか。「私は霊感が強くないんです」と竹内さんは笑うが、昼夜問わず、いたるところへ乗客を運ぶタクシー運転手だからこそ、そんな不思議な体験も“あるある”話になってしまうのかもしれない。

 こうした体験を逆手に取って、竹内さんが所属する三和交通では、2015年から『三和交通タクシーで行く、心霊スポット巡礼ツアー』を開催。竹内さんも、昨年今年とツアーの運転手を務めるという。このツアー、夏の大人気企画として定着し、今年は2400件を超える応募があり、抽選倍率は60倍(!!)を超えるまでに。応募する約7割は女性で、カップルや親子で参加する人もいるという。

 一体どんなスポットを巡るのか? 三和交通広報部の小関正和さんは、「実際に乗務社員が過去に恐怖を感じたスポットを巡るようにしています」と説明し、その一例を披露する─。

「心霊スポット巡礼ツアーの1年目から運転していた乗務社員だったのですが、彼は霊感が強い人でした。その彼が教えてくれた体験です」(小関さん)

手渡された紙幣の感触もあったのに

 小関さんが静かに語り始める。

「真夜中の1時過ぎ、神奈川県・JR横浜線沿線にある駅でタクシーを止めていると、女性が乗ってきたそうです。全身、真っ白な服を着ていて、前髪が鼻近くまで垂れている……いわゆる貞子のような髪型をしていました」(小関さん)

 運転手が行き先を聞くと、その女性は横浜市内にある某斎場を指定した。

「その斎場の周辺に住宅地はないですし、斎場は閉まっている時間でした。しかし、タクシー運転手である以上、指定された場所にお客様を運ばなければいけません。アクセルを踏み込み、斎場へ向かったそうです」

 道中、一切の会話もなく、目的地へと走り続けた。20分ほどかけて斎場の前に停車すると、白い服の女性は何も言わず、運賃2800円を支払うために、3000円を差し出したという。

「200円を用意するため、10秒ほど目を離しました。そして、おつりを渡そうと後ろを振り返ると、すでに女性はいなくなっていました。この斎場は、一本道の途中にありますから、仮に女性がおつりをもらわずに降りたとしても、前後を確認すれば必ず視界に入るはずです。目を離したといっても、短い時間。ですが、その姿をとらえることはできなかったそうです」(小関さん)

 帰庫した運転手は、違和感を覚えながらも、その日の集計をするために机に向かった。ところが……。

「2800円分だけ合わなかったそうです」(小関さん)

 何度計算しても、白い女性を乗せた運賃分だけ合わない。つまり、実際には誰も乗せていないのに、運転手はメーターを回し、2800円分を走行させたということになる。手渡された3000円を含む、その数十分間、運転手は何を見ていたのか。

 もし、あなたが「賃走」状態であるにもかかわらず、誰も乗せていないタクシーを見たら、運転手は異世界の住人を乗せているのかもしれない。

 この話を隣で聞いていた、前出・竹内さんは「私も昨年、そこを案内したときに、総毛立った」と明かす。

「ツアーのお客様が降車すると、突然、“見られている”と言うんです。その瞬間、今まで体験したことのないような寒気を感じ、ゾワゾワッと全身の毛穴が開くような感覚が」(竹内さん)

 霊感がないと話す竹内さんですら、恐怖を感じるスポットを実際に巡礼ツアーで訪れるというから、三和交通のチャレンジ精神もある意味では恐ろしい……。

「もちろん、ツアー開始前には担当乗務社員はお祓いをするなど対策を講じています」と

 小関さんが説明するように、安全・安心のツアーを心がけていることも付記しておこう。

誰もいないはずの場所で写っていたのは

 その一方で、「心霊写真はよく撮れますね」と小関さんはあっけらかんと話す。

「心霊スポットとして有名な〇〇城跡を訪れたときのこと。ここにある鳥居は夜にくぐってはいけないといわれているのですが、4人組で参加されたお客様のおひとりがくぐってしまいました。そのときは何ともなかったのですが……」(小関さん)

 ツアーでは、記念として巡礼スポットで写真撮影をすることが決まっている。後日、その4人組が写った写真を見ると。

「鳥居をくぐった男性だけ、首から上が写っていなかったんです」(小関さん)

 また、写真や動画が撮れていないということも珍しいことではなく、運転する竹内さんは、「“撮れてない!”と驚く方も多い。でも、私は“またか”という感じです」と苦笑する。しかし、写ってはいけないものが写るケースもあるのだ。「ツアーに入っている場所なので細かくは言えませんが」と、声を潜めて小関さんは話す。

「女性が首つり自殺をしたといわれている螺旋階段があるんです。そこは立ち入り禁止になっていて、扉もしっかりと施錠されています。なので、ツアーで回るドライバーも離れた場所でタクシーを止め、その場所の“由縁”をお客様に話していました」

 そこで撮影した写真を見ると─。

「画像の真ん中、つるされた女性のような影が見えませんか? 撮影したとき、誰もここにはいないことをドライバーもお客様も確認しています。でも、これって……」

 こういった体験は、実際に心霊スポットを下見する広報担当の小関さんも遭遇すると話す。

「埼玉県の某所を試走したときです。実際の巡礼ツアー同様、夜中に向かい、“出る”という噂の建物を訪れました。周辺に、ずらっと住宅が並んでいるのですが、その一軒に、部屋の中が丸見えの住居があったんです」(小関さん)

 下見は小関さんを含む、広報担当者3名で訪れたという。

「その住居をふとのぞくと、般若のような仮面が見えて。でも、よく目を凝らすと、本当に怒っている人間の顔のように見えるんです」(小関さん)

 憤怒の表情で、宙に浮かぶ人の顔─。それがなんだか理解することはできなかったが、小関さんだけではなく、同乗していたほかの2人も、しっかりとこの世ならざる怒りの顔を見た。

「一目散に逃げましたよ(苦笑)。本当に恐ろしい顔でした。後日、昼間に訪れる機会があったので、おそるおそる、あの家をのぞいてみたんです。すると、怒りの顔は見えなかったのですが、ひらがなで“どん”と書かれた文字が貼ってあって。一層、不気味に感じました」(小関さん)

 人々は、身の毛がよだつ体験を求めているのか、はたまた非現実のオカルトに娯楽を求めているのかわからない。だが、心霊スポットを訪れたい人は後を絶たないのだ。

「いろんな人がいますからね」

 ポツリと竹内さんが口を開く。

「人様の命を預かっている職業ですから、いろいろなことが起こります。現実的なことも非現実的なこともタクシー運転手は体験します。でも、霊感のない私は、やっぱり人間のほうが怖いかな(笑)」(竹内さん)

 “幽霊の正体見たり枯れ尾花”という言葉もある。だが、説明できない現象があることも事実。信じる、信じないはあなた次第─。

〈取材・文/我妻アヅ子〉

 
“くぐってはいけない”鳥居をくぐった写真右端の男性。首から上が写っていない……
夜の螺旋階段に何やら人影が……。アップして見ると、女性らしき後ろ姿。階段を上っているのか、つるされているのか。ここは立ち入り禁止で、誰も入っていないことは確かだったという
夜の螺旋階段に何やら人影が……。アップして見ると、女性らしき後ろ姿。階段を上っているのか、つるされているのか。ここは立ち入り禁止で、誰も入っていないことは確かだったという