羽生結弦のプロ転向発表から、半月が過ぎた。
「7月19日に行われた会見では、今後について“頭の中にある構想を周囲に伝えたが、実現できるかはわからない”と話していました。“引退”ではなく“プロ転向”という前向きな表明に、ファンからは羽生選手の未来に期待が寄せられています。報道では、これまでの競技者としての経験を活かした指導者や解説者だけでなく、タレント活動や俳優業といった道まであげられています。それだけ、彼の注目度は高いということでしょう」(スポーツ紙記者)
羽生は“プロのアスリート”としての道を歩み始める。これまでは、カナダの『クリケットクラブ』を拠点としていたが、コロナ禍で日本に帰国。地元・仙台市の『アイスリンク仙台』で練習を重ねてきたが、今後の拠点はどうなるのか。スポーツジャーナリストの折山淑美さんに聞いた。
「練習がしっかりできる仙台が拠点となるのではないでしょうか。あとは、どこまでコーチを必要とするか。羽生選手は、先日のプロ転向会見の中で“プロになって、さらにうまくなりたい”と話していました。例えば4回転半の成功を目指すうえで、これまでのジャンプコーチであるジスラン・ブリアン氏に引き続き見てもらいたい点があれば、短期間でカナダに行くこともあるかもしれません。しかし、カナダではほかの選手と同じリンクでの練習になるので、思うように練習ができないことも考えられます。なので、基本的には1人で練習ができる仙台だと思います」
「アイスアリーナを仙台に建設する必要がある」
プロ転向後も、故郷・仙台を見捨てない可能性が高そうだ。とはいえ『アイスリンク仙台』での練習を続けることにも懸念がある。
「リンクの規格が少し小さいのです。通常、シニアの試合で使われるリンクは30m×60mですが、『アイスリンク仙台』は26m×56m。大きさが違うぶん、今までも練習で苦労することはあったでしょう。プロとしてさらなる高みを目指す羽生選手ですから、より練習しやすい環境を整えてあげたいですよね」(フィギュアスケート関係者)
仙台では、すでにそれに向けて動き出している人物がいる。仙台市議会議員の佐藤正昭氏だ。
「今年2月、北京五輪が終わった直後に、“アイスアリーナを仙台に建設する必要がある”と議会で提案をしました。
仙台の五色沼という場所は日本におけるフィギュアスケート発祥の地でもあります。その仙台から、羽生選手、荒川静香さんという冬季五輪の金メダリストが2人も輩出され、合計3個の金メダルがもたらされました。
そんな仙台の宝の1人でもある羽生選手は、仙台が好きだからこそ、偉大な挑戦をした北京五輪の直前も『アイスリンク仙台』で夜中に練習をされていました。彼に勇気をもらったわれわれが、今度は彼に恩返しをする番だと考えているんです。羽生選手のスケートを世界中の人に見てもらいたい。しかし、リンクがないと話にならないのです。
プロ転向の会見では、これまでの経緯はしっかりと話していましたが、これからのことは明言を避けていました。もしも故郷・仙台でアイスアリーナの建設の道筋がついていれば、“そこを拠点としてやりたい”と加えたかったのではないでしょうか」(佐藤議員、以下同)
建設費用は概算で50億円
では、いったいどんなリンクを考えているのか。
「例えば、スケートリンクに観客席があれば、そこで羽生選手のアイスショーやスケートを教える姿を見ることができるでしょう。また、『アイスリンク仙台』には荒川さんと羽生選手の活躍を写真やシューズの展示で伝えるコーナーがあるのですが、アイスアリーナの中にも“フィギュアスケート記念館”のような場所があれば、ファンのみなさんに来てもらえると思います」
アイスアリーナ自体を“ゆづプロデュース”なんてことは……?
「もちろん、それが実現すれればうれしいですが……。羽生選手にあまりプレッシャーをかけるようなことはしたくありません。
また、羽生選手が小さいころから練習してきて大好きであろう『アイスリンク仙台』とも連携をして、互いに協調していけるアイスアリーナができればいちばんいいと考えています」
そうはいっても、建設には費用も時間もかかるもの。
「現在、2000~3000席程度の規模で考えており、その建設にかかる費用は高く見積もると、概算で50億円程度だと考えています。それをすべて税金で賄うのではなく、企業が地方創生のプロジェクトに寄付をした場合に税額が一部控除される『企業版ふるさと納税』や、クラウドファンディング、ネーミングライツなど、費用を集める方法はたくさんあります。
仙台のみなさんが声を上げてくれたら、協力してくれる人や企業はたくさんいると思うんです。その第一声を、まずは市長や知事に上げていただきたいと思っています」
そこで羽生選手が後進の指導をして……
“ゆづリンク”でスケートをする姿が見られるまで、待ちきれないファンも多そうだが、いったい、いつになるの?
「早ければ早いほどいいですよね。プロ転向を発表したので、日本中のみならず世界中が彼に来てほしいと望んでいるはず。まず、仙台はアイスアリーナをつくる意思があるかどうかだけでも、方向性を打ち出すべきです。
もちろん、設計や場所の問題もありますが、今から1年以内に“つくる”という方針を示せば、3~5年以内には完成すると考えています」
佐藤議員は、その可能性に自信をのぞかせる。
「羽生選手が“故郷・仙台でやりたい”とハッキリと言えるような環境を整え、結果として、そこで羽生選手が後進の指導をして、彼に続くスケーターが輩出されればうれしいですよね。頂点を極めた羽生選手の一言一言は、そういった選手の力になると思うんですよね」
さらに、世界を巻き込んだ大きな夢もあって……。
「私の夢は、仙台から始まり、最後にまた羽生選手が仙台に帰ってくるような世界ツアーを実現させること。羽生選手がアイスショーのチームを持つことになれば、もちろん世界一のチームになるでしょう。
子どもたちや、彼のスケートを見たいという人たちの願いを叶えるようなリンクを、羽生選手の故郷・仙台につくりたいと思っています」
折山淑美 '90年代初頭からフィギュアスケートを取材し、'10年代からは羽生結弦を丹念に追っている。'21年には羽生との共著『羽生結弦 未来をつくる』(集英社)を刊行