ここ数か月電気料金の通知が来るたびに「こんなに高かったっけ!?」と驚く人も多いのではないだろうか。なぜここまで電気料金が上がっているのか。電気とガスの比較サイトを運営し、エネルギーデータの活用なども行っている、エネチェンジ株式会社の中田都季子さんに話を聞いた。
電気料金の仕組みにあり
「電気料金は、基本料金に加えて、電力量に応じてかかる『電力量料金』『燃料費調整額』、再生可能エネルギーの買い取り費用である『再生可能エネルギー賦課金』の合計で計算されています」
この要素のいずれかが値上げされれば電気料金も高くなる仕組みだ。今最も問題視されているのが、発電に用いる燃料の価格変動が反映される、燃料費調整額の高騰である。
「昨年9月ごろから、日本では燃料費調整額が上がっています。理由は石炭や液化天然ガス(LNG)などの輸入価格が高騰しているからです」
新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着いたタイミングで、世界中の経済活動が本格的に再開し始め、使用する電力量が増加。しかし一方で「どこまで燃料が必要とされるのか」が不透明なため、産油国が燃料の輸出を調整する動きが見られた。その結果燃料の需要に供給が追いつかず、燃料の輸入価格が上がっている、というわけだ。
「さらには、ここ最近の円安も影響し、燃料費が高止まりしています。その影響を受けて電気料金が、かつてないほど高騰しているのです」
では実際に、毎月の電気料金はどれくらい高くなっているのだろうか。
「電力会社は毎月、標準的な電気料金の目安になる『平均モデル』の電気料金を公開しています。例えば昨年8月では6960円だったのですが、今年8月は9118円。平均モデルの電気料金が9000円を超えたのは初めて。結果的に1年間で電気料金は約30%もアップしています」
燃料費調整単価は約8円アップ。ここに日々の電力量をかけると大きな金額差になる。
電気代高騰、いつまで?
では燃料費調整額の高騰はいつまで続くのだろうか。
「おそらく9月で頭打ちになるのではと予想されています。消費者保護の観点から燃料費調整額には上限値があり、高くなりすぎないよう制限されているんです」
日本はエリアごとに置かれた10の大手電力会社によって網羅されているが、このうち4つがまだ上限に達していない。このエリアの値上がりも9月には落ち着くだろう。
注意したいのは、燃料費調整額に上限がない料金プランを展開する電力会社だ。
「電力自由化により、大手電力会社以外の『新電力会社』が多数生まれました。この新電力会社や、大手電力会社で独自の料金プランの中には、この燃料費調整額の上限がないプランもあります。その場合、燃料費がさらに高くなる可能性があります」
該当する料金プランで契約している場合、早めに契約内容の見直しを。
また、この先も電力会社の財務状況の悪化は免れない。
「現在の燃料費調整額の仕組みができたのは10年以上前、まだ原子力発電所が動いていた時代です。当時と現在の電力構成は大きく変化しているため、燃料費調整額や電気料金の計算式が見直される可能性はあると思います」
2016年4月の電力自由化からはや6年。負担する電気料金を下げたいなら電力会社の乗り換えも有効だが、「注意が必要」と中田さんは言う。
「現在、新電力会社の中には燃料費の高騰に耐えきれずに撤退したり、新規契約の受け付けを停止している会社も多くあります。今は乗り換えを検討できる電力会社自体が少ない状況なんです」
とはいえ、電気料金を安くできる選択肢があるなら実行すべきだ。どんな電力会社を選んだらよいか。
「ガス会社や通信会社など、電力事業とは別に本業があり、その本業が黒字化しているような会社なら、燃料費の高騰にも耐えるだけの体力があるのではないでしょうか」
契約中の電気会社や料金プランを確認し、電気料金が過度に高くないか、比較サイトでシミュレーションを。
各社の加入契約&節電キャンペーンに注目
電気料金がどんどん値上がりする中、加入時キャンペーンなどはより注目したいサービスだ。新電力への乗り換えは慎重になるべきではあるが、「一度電力乗り換えをしたことがあるならば、よりよい電力への再乗り換えはあり」と中田さんは語る。
また、節電が声高に叫ばれる現在、大手電力会社や新電力会社では、各社独自の節電キャンペーンを実施している。例えば東京電力は「夏の節電チャレンジ2022」と称し、対象時間帯に節電した節電量などに応じて、節電ポイントをプレゼント。
さらに政府も「節電ポイント施策」の実施を検討中。
現在の情報では(1)参加する家庭に2000円相当のポイントを付与、(2)さらに節電をした場合には電力会社が実施する節電ポイントに上乗せしてポイント付与、という2つの計画を打ち出している(6月24日午前の記者会見内容より)。
今年の夏は、よりお得なプランを検討したり、無理のない範囲で節電して、少しでもポイントを集めてみてはどうだろうか。
『コスモでんき』の加入キャンペーン
〜電気をたくさん使う家庭やdポイントユーザーにおすすめ!〜
コスモ石油関連会社が供給する「コスモでんき」。「コスモでんきスタンダード」は、使えば使うほど割引額が高くなるプランなので、電気をたくさん使う家庭におすすめだ。「コスモでんきポイントプラス」なら、使用電力量に応じてdポイントがもらえる。
2022年8月31日までに申し込みを完了すると、初月電気料金を最大3000円割引き。エネチェンジ経由で新規申し込みをするとAmazonギフト券もプレゼント!
『シナネンあかりの森でんき』加入キャンペーン
〜電力量料金を最大10%割安に!〜
太陽光発電などの再生可能エネルギー事業や、石油・ガスの販売事業などを行う、老舗エネルギー企業・シナネン株式会社が提供する「シナネンあかりの森でんき」。電気量料金が最大10%割安になるように設定されているエリアも。
どのプランもCO2排出量実質ゼロの電気が使え、環境にも配慮している。新規契約から1年間継続して利用でキャッシュバックなど、キャンペーンを頻繁に開催中。
『ソフトバンクでんき』節電キャンペーン
〜キャンペーン参加でポイントがもらえる〜
新電力会社大手の「ソフトバンクでんき」。ユーザーが「エコ電気アプリ」をダウンロードして初回登録すると、100PayPayポイントが付与される。このアプリ内では月に2~4回程度「節電チャレンジ」が開催されており、チャレンジに参加して節電が成功すると、報酬としてポイントがもらえる。
『東北電力』節電キャンペーン
〜最大3万ポイントプレゼント!〜
東北電力「夏の省エネチャレンジキャンペーン」では、電気使用量−5%以上で、ポイントが当たるキャンペーンを実施中。1等なら3万ポイント(100名)、2等なら3000ポイント(1000名)、3等なら500ポイント(18900名)が当たる。期間は2022年10月31日まで。
『東京電力』節電キャンペーン
〜初めての節電で100ポイント付与!〜
東京電力の「夏の節電チャレンジ2022」では、節電チャレンジの対象時間帯に1kWhを節電すると5ポイントが付与される。また初めて0.01kWh以上の節電を達成した人には、100ポイントをプレゼント。本キャンペーンでは最大1500ポイントまで獲得できる。期間は2022年9月30日まで。
エアコンを制するものは節電を制する「節電アクション」
家庭での節電が重視される2022年。無理なく「電力使用量マイナス30%」を達成する方法は?
今年は家庭への節電協力を呼びかける声も多い。
「これは働き方の変化によるものなんです」と語るのは、消費生活アドバイザーや家電製品アドバイザーとして活躍する和田由貴さん。
「従来は企業のオフィスや工場などで多く電力を使用していたので、企業への節電要請が多く、電力使用量が高まるのも日中の時間帯でした。
しかしコロナ禍を経てオフィスが縮小したり、リモートワークが普及したためか、今年は家庭で消費される電力量が比較的増えている。電気が多く使用されるのも、夕方から夜の時間帯へと変化。家庭での節電は非常に重要です」
家庭で節電するなら、家電の使用方法を見直すべし!
そこで和田さんに、節約につながるアクションを教えてもらった。
「家電のうち、夏に最も多く電力を消費するのがエアコン、次いで冷蔵庫、照明の順。王道ですが、エアコンの使用方法からしっかり見直すと、節電には効果的です」
ただし節電を意識しすぎるあまり、熱中症による体調不良につながっては本末転倒だ。無理のない範囲で行おう。
【1】真夏の日中は窓の日差しをさえぎるべし
在宅している間は直射日光が当たらないようにするけれど、外出時はカーテンを開けっぱなし……これはNG!
在宅時・外出時問わずカーテンを閉めるようにするのがまず大切だ。そしてさらに重要なのは、窓の外にすだれなどの日よけを付けること。
「日よけによって窓の桟やガラスが熱くなるのを防ぎ、室内の温度が上がりにくくなります。まずは窓の外から対策していきましょう!」
【2】エアコンをつける前に部屋の空気循環を
エアコンは室内と設定温度の差が大きいほど、多くの電気量を消費する。特にエアコンをつけたときの消費電力は1000W近くなることも!
そこでエアコンをつける前に、まず部屋の換気を行い、室内にこもった熱気を放出してからエアコンをつけるのがベスト。比較的、室温が低い部屋でサーキュレーターを回せば、ほかの部屋も涼しくなりやすい。
【3】エアコンのフィルターは月2回掃除すべし
気づかぬうちにたまる、エアコンフィルターの付着ゴミ。フィルターが詰まっているとエアコンの稼働効率が悪くなってしまうため、月2回は掃除することをおすすめ。自動掃除機能付きのエアコンの場合は、ダストボックス内のゴミをこまめに捨てて。
しばらく掃除をしていないなら、思い切ってエアコンクリーニングを依頼するのもよいだろう。要注意なのが、内部のセルフ洗浄。
「スプレーなども販売されていますが、ドレンホースが詰まる原因になる可能性が。余計な出費につながってしまうこともあるので気をつけて」
【4】30分以上の外出時はエアコンを消して出かけるべし
エアコンは電源のオン・オフ時に多くの電力を消費する。では少しの外出ならば、エアコンをつけっぱなしにしておいたほうがいいのだろうか。「30分程度の外出なら、エアコンをつけたまま外出してよいと思います。それ以上は無駄な電力消費になりやすいので、消してから出かけましょう」。
またエアコンの効きが悪いからと複数の部屋のエアコンをつけていると、エアコンの消し忘れにもつながりやすい。エアコンを掃除して稼働効率を高め、より少ないエアコンだけで生活できるようにしよう。
【5】設定温度を1度上げる前に「風量」を変えるべし
エアコンは設定温度を変更した際にも多くの電力を使う。しかしエアコンが効きすぎた場合や、なかなか効かない場合はどうしたら?「設定温度ではなく、風量を調整しましょう。風量を調整するとエアコン内部のファンが稼働するのですが、ファンは電力消費とはあまり関係がないんです」。
例えば自動運転のエアコンで風量を「小」に設定していた場合、エアコンが風量以外の部分で温度調整をしてしまうため、消費電力が増えてしまいがち。風量は「自動」に設定しておくのがベスト!
【6】買って10年以上なら、買い替えを選択肢に入れて
物持ちがよい方の場合、エアコンをもう10年〜20年使っているという方も。しかしあまりに古いエアコンは省エネ性能があまりよくないため、結果的に過度な電力消費につながってしまうので要注意だ。
「エアコンの性能はここ10年ほどで飛躍的に向上しています。10年以上前の型のエアコンを使っている場合、買い替えることで節電につながる可能性は大。家電量販店などで相談してみるとよいでしょう」。
ただし夏場のエアコン価格は比較的高い。決算セールが開催されやすい9月や、最新モデルが出て型落ち商品が安くなる10月ごろに購入するのがおすすめだ。
差がつく家電アクション
エアコン以外の家電でも、節電につながるアクションはさまざまある。前述のように、冷蔵庫も高い電力量を占めるが、365日ずっと使い続けなくてはならないものなので、ある程度の電力量は仕方ない。近年はかなり改良が進んでおり、節電性能もアップ。
「冷蔵室は詰め込みすぎずに庫内の循環をよくする。冷凍室はなるべく詰め込んで冷却機能を高める。これに尽きますね。夏場は冷凍室で、隙間があれば水を凍らせておくこともおすすめです。急な停電時でも冷たいものがあると安心です」(和田さん)
ささやかでも節電効果のあるものはしっかり実行を。和田さんに以下のポイントを教えてもらった。
【7】「長時間」は保温する家電まめにオフ!
炊飯器や電気ポットなど長時間保温するような家電は、実は消費電力が意外と高い。炊飯して食事を終えたら、残りはすぐに小分けして保存しておこう。また電気ポットは使用せず、使うときに電気ケトルでお湯をわかすほうが、節電につながる。
【8】テレビはを明るさセンサーオンに
ここ10年ほどで格段に省エネ性能がよくなった液晶テレビ。「明るさセンサー」をオンにしておくと、周囲の照明に合わせて明るさを自動調整してくれるのでおすすめ。逆に「ダイナミックモード」などは、消費電力の観点からは使用を控えよう。
いまだにバックライトがLEDでないものを使っている場合は、買い替えると節電につながる可能性大。
【9】家中の照明はLEDに変更!
電力使用量が3位となる照明。白熱電球や蛍光灯を使用している家庭は、LEDに変更してみよう。白熱電球と比較すると、消費電力が約6分の1に抑えられるほか熱を帯びないので部屋の温度を上げることもない。
また蛍光灯はつけたり消したりすると早く切れやすくなるが、LEDなら使用可能時間が延びるので、購入コストの節約にもつながってお得だ。
【10】乾燥機能付き洗濯機がヒーター方式なら使わない
ドラム式洗濯機など乾燥機能付きの洗濯機を使用しているなら、乾燥機能に注意! 乾燥方式が「ヒーター方式」の場合、多くの電力を消費してしまう。使用回数を減らすなどの対策をしてみよう。
一方「ヒートポンプ方式」なら、本体の価格こそ高いものの電力消費は抑えられるので、最終的には節約にもつながる。
節電の近道!? アンペア変更に御用心
節電・節約のために契約アンペアを下げる方法もある。例えば60Aから50Aに変更した場合、基本料金は年間で3432円減少(東京電力の場合)。しかし安易なアンペア変更には要注意!「10A=1000W分使えるという意味。
例えば30A契約の家庭で、エアコンを起動させて電気ケトルと電子レンジを使ったら、約1000Wずつ消費しブレーカーが落ちます。不便さを感じるかも」と和田さん。
しかし子どもの独立などで家族構成が変わった人は、アンペア変更で電気料金が安くなることも。この場合はぜひ検討して。
中田都季子さん●電力・ガス比較サイト「エネチェンジ」の運営会社ENECHANGEの広報。電力自由化の正しい情報を届けるために電力会社の上手な乗り換え方から節電・節エネ術までを電力業界のイマとともに伝える。
和田由貴さん●節約アドバイザー、消費生活アドバイザー、家電製品アドバイザーなどの資格を持ち、暮らしや家事の専門家として多方面で活躍中。2人の子を持つ母で現役の節約主婦でもある。
(取材・文/金指歩)