7月8日、凶弾に倒れる直前の安倍晋三元首相(目撃者提供)

「あっ、ここや!」
「あそこに穴が開いとる!」

 奈良市の銃撃現場から北に約90メートル離れた商業施設の立体駐車場の外壁に、3人連れの中年男性がスマホのカメラを向け、さかんにシャッターボタンを押していた。撮影しているのは壁に開いた小さな穴。肉眼でどうにか確認できるレベルで、ズームして撮った画像を見せてもらうと穴しか映っていない。

安倍元首相銃撃事件の弾痕が残る立体駐車場

「現場に手を合わせてから、ここも撮影しておこうと思って。テレビで見たよりも小さい穴やった。画像は家族や友人に見せる用です」

 と大阪府から仕事で来た50代男性は話す。

 穴は銃撃事件による弾痕。奈良県警が7月13日に現場検証し、山上徹也容疑者(41)が手製の銃で撃った方角にある駐車場の壁面に3つの弾痕を確認した。銃は一度に6発発射される仕組みで、地上からそれぞれ約4メートル、約5メートル、約8メートルの高さから弾丸とみられるものが複数見つかっている。

多くの人が次々とスマホで穴を撮影

 駐車場関係者によると、

「若い世代から高齢者まで次々と来てスマホで穴を撮影していきます。いまや観光スポット化してますわ。さすがに大騒ぎするような人はおらず、マナー上の問題はない。撮影するとみな満足そうに帰っていきます」

 事件後、もうひとつ困った賑わいをみせているのがネット上の“陰謀論”だ。

立体駐車場の外壁に残っている安倍元首相銃撃事件の弾痕(青い丸部分)

 例えば、亡くなったのは安倍氏の影武者だとか、スナイパーは別にいるといった類いの説。

 安倍氏は2発の弾丸を受けたとみられているが、体内から1発が見つかっていないことが先ごろ判明。捜査当局は救命措置中などに体外に出た可能性があるとみており、不自然とは考えにくい。

 しかし、陰謀論者は“それ見たことか”とばかり根拠の希薄な独自見解をとうとうと述べている。

 なぜ、不謹慎な陰謀論が持ち上がるのか。

JFK暗殺との類似点

 ネット事情に詳しいジャーナリストの渋井哲也さんは「JFK暗殺との類似点が影響しているのではないか」として次のように話す。

「パレード中に狙撃されたケネディ米大統領は直前にコース変更しており、安倍元首相も急きょ変更した遊説先だった。それだけの共通点で事件後すぐ“真犯人は別にいて関西国際空港から逃げた”などと騒がれるようになりました。陰謀論が盛り上がるのは、ニュースで事件の動画などを見て不安な気持ちになり、それをかき消そうとする心理が働くことも一因と言われています。怖い現実から目を背けたくて陰謀論に乗り、悪意なく広めてしまう人もいるんです」

 人が命を奪われているのに面白がるなどもってのほか、慎重に判断するようにしたい。

 

立体駐車場の外壁に残っている安倍元首相銃撃事件の弾痕(青い丸部分)

 

 

 

安倍元首相銃撃事件の弾痕が残る立体駐車場
安倍元首相銃撃事件の現場周辺には随所に《お花やお供えなどは、故人へのお気持ちと共にお持ち帰りください》という貼り紙が