長嶋一茂

 今年も夏の甲子園が開催されている。コロナ禍とともに、懸念されるのが猛暑だ。

長嶋一茂、“甲子園”に提案するも

 高野連も将来、真昼を避けた朝と夕の2部制を導入することなどを検討し始めた。これについて、持論を述べたのが元・プロ野球選手の長嶋一茂(56)。コメンテーターを務める『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)で、こんな提案をした。

「熱中症のリスクをヘッジするために大阪ドームもありうるだろうし、例えば札幌ドームもあるだろうし、福岡ドームもあるだろうし、全国大会なんで日本のどこでやってもいいような気がします」

 実はこうした意見、以前から存在する。ただ、デーブ・スペクターが主張したときは「日本の野球文化、高校球児の気持ちをわかっていない」と反論されていた。が、一茂は日本の野球関係者で元・高校球児だ。にもかかわらず、なぜ、と不思議がる声もあがった。

 そこで考えてみたいのが、一茂と野球の関係である。この人ほど、野球に対して屈折した思いを抱いている人はいないのではないか。

 なにせ、父は球界最高のレジェンド・長嶋茂雄(86)。一茂は“ミスタープロ野球”の再来を期待されながら、応えることができなかった。通算本塁打の本数は、父の約25分の1にすぎない。

 子どものころには注目されすぎるのがイヤで、野球を4年ほどやめたりもした。プロを引退したのも、成績不振に加え、不安から来るパニック障害や過呼吸発作に悩まされたからだと告白している。

 そんな屈折を強く感じさせたのが「バカ息子」騒動だ。一茂の妻とママ友で当時タレントだった江角マキコが不仲になり、江角のマネージャーが一茂の自宅に「バカ息子」と落書きしたという騒動である。

 この件について、一茂は「あれ、面白いか?」と疑問を投げかけている。父親のようになれなかった男にとって「バカ息子」呼ばわりはそりゃ面白くないだろう。

長嶋一茂が父から受け継いだもの

 また、野球以外の魅力、たとえば天然ぶりでも一茂は父親ほどではない。むしろ、その被害(?)をこうむった側だ。

 子どものころ、父親に連れられていった球場に何度も置き去りにされたというエピソード。ミスターの忘れっぽさを示す笑い話として紹介されがちだが、子どもにとってはトラウマにもなりかねない。実は一茂、巨人の本拠だった後楽園球場について、隣接する場外馬券場の雰囲気が怖くて当時好きではなかったと回想している。

 父親が偉大すぎたせいか、財産や介護をめぐって、妹の長島三奈(54)とは確執状態にあることも報じられた。彼にとって、野球は必ずしもよい思い出ばかりではなかったように感じられるのだ。

 そういえば、パニック障害などの回復にも、大好きな極真空手に熱中したことがよかったと本人は言う。第の人生についても「(自分の成績では)説得力のある解説はできない」として、バラエティーやドラマに活路を求めた。野球からは意識的に距離を置いてきたのである。

 そこが夏の甲子園をめぐる「どこでやってもいい」という発言、ともすれば投げやりにもとれる提案につながっているのではないか。

 ただ、今回の発言、父親譲りの才能も発見できないわけではない。ミスターは「失敗は成功のマザー」をはじめ、英語をまぜてしゃべるのが得意だ。

 熱中症の危険を回避、ではなく「リスクをヘッジ」と言ってしまうあたりはまさに、長嶋家の伝統。バカ息子ではなく、立派な跡継ぎ息子と呼びたい。

宝泉薫(ほうせんかおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。近著に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)
 
子どもの手を引いて歩く長嶋一茂('10年)
長嶋一茂

 

 

 

若かりしころの高倉健と長嶋茂雄と。10年間、ともに除夜の鐘を聞きにいった
長嶋茂雄