「本当に濃密な2人芝居。それを、目の肥えたお客さんが集まるシアタートラムでやらせていただけるのは本当に光栄です。役者としてはすごくハードルが高いのですが、それに挑戦できる機会をいただけたことは少し認めてもらえたような気もしていて。演劇をやってきてよかったなと思いました」
舞台では精神性のエロスを表現
8月20日、東京・シアタートラムにて『毛皮のヴィーナス』の幕が上がる。同作は“マゾヒズム”の語源にもなったL・ザッヘル=マゾッホの自伝的小説に着想を得た舞台となっている。
「複雑なストーリーが、すごく緻密に計算されてできていて。2人芝居で、密室劇で、会話劇。セリフを入れる作業だったり、どう演技するかを考えるたびに、日に日にひるんでいます(笑)」
溝端が演じるのは演出家・トーマス。自らが脚色した戯曲『毛皮のヴィーナス』のオーディションに遅刻して来た女優・ヴァンダ(高岡早紀)はまったくのイメージ違い。しかし押し切られる形で読み合わせを始めると、その魅力にみるみる支配されていき……。
「肉体が触れ合って起きるような直接的なエロスではなく、精神性のエロス。主導権を握られているように見えたものが、実は握っていたり。それが二転三転、見え方がどんどん変わっていく。
何がエロスで、何がサディズムでマゾヒズムなのか、どんどん複雑化していく。最初は相手にしていなかったヴァンダに、トーマスの深層心理が丸裸にされ、解放されていくさまはすごく面白い。やっぱり振り幅のある役、ブレる役はやっていて楽しいんですよね」
ぶっちゃけSとM、どっち?
「この作品でいうと、どちらがマウントを取るかだけではない、深いものがあって。哲学的なものを感じます。え、作品じゃなく?わかんないなぁ(笑)。
以前先輩と仕事をご一緒したときに“溝端くん、絶対Sだよね。みんなにやさしい人間はだいたいドSなんだよ”と言われたことはあります(笑)。ドSかはさておき、ドッキリなんかはかけられる側はすごく嫌だけど、かける側はめっちゃ楽しいですね(笑)」
等身大でいられるように
'06年『第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリを受賞し、翌年俳優デビュー。フレッシュな好青年のイメージが強いが、そのキャリアは15年を超えた。
「“30歳を超えると役者業がちょっと変わってくる” “ちょっと楽しくなってくる”と先輩方に言われていたのはこういうことなんだな、という実感はあります」
20代のころは変にカッコつけていた部分もあったと振り返る。
「“自分はこういう人間だ”という意識も強かったし、結果をすぐに求めていました。でも今は人に染められて新しい扉が開くことや、その過程も楽しめるようになったかな。少しは余裕ができたのか、視野が広がって、等身大でいられるようになった気はしています」
大人の俳優へと歩を進める中、その恋愛観に変化も?
「そんなに変わってないんじゃないかなぁ。でも女性に対しての理解というか、ある種のあきらめと呼ぶべきなのか……みたいなものは増えましたよね。理想みたいなものは、もうあんまりないかな」
昔は理想があった?
「もっとキラキラしたものがあったかも(笑)。でもやっぱり年齢や経験を重ねるごとに、いろんなことが気にならなくなったかもしれませんね。っていうか、恋愛観とか久々に聞かれましたよ(笑)。33歳ですからね、好きなタイプとかもう聞かれないですよ(笑)」
年に1度は舞台に立つ
連ドラが重なることも少なくなく、来年の大河ドラマ『どうする家康』への出演も決定。しかし、年に1度の舞台は欠かさない。
「やっぱり舞台でしか得られないものもある。蜷川(幸雄)さんに厳しく指導していただいて鍛えられたので(笑)、逃げちゃいけないんだろうなって思っています。舞台って、舞台ならではの筋肉のようなものが必要で。2年3年とあけてしまうと、もう怖くて“立てるのかな?”と思っちゃう自分もいるんですよ。常にその筋肉は使える状態でありたいです。
もちろん、どのジャンルでももっと活躍したいという思いはあります。だけど人って急には成長しないし、少しずつ積み上げてきたものがいちばん信用できる。気づいたらこんな景色見えていた……というほうが、長い役者人生の中では楽しいんじゃないかな?」
『毛皮のヴィーナス』
8/20(土)〜9/4(日)、シアタートラムにて。全席指定7000円(税込み)
○世田谷パブリックシアターチケットセンター
TEL 03-5432-1515
https://setagaya-pt.jp/performances/202208venusinfur.html
〈ヘアメイク/菅野綾香 スタイリング/黒田領 衣装協力/エストネーション〉