親が亡くなると、病院への支払いや葬儀などで何かとお金がかかるもの。その費用はなんと100万〜200万円にも。このとき、少しでもお金のサポートがあると、安心してお別れができる。
申請しなければ受け取れないお金
「親が亡くなったとき、国や自治体や民間企業に申請するだけで『もらえるお金』や『戻ってくるお金』というのが結構あります。多い場合だと、60万円ほど受け取れることも珍しくありません」
そう話すのは、ご自身も2年前にお父さまを亡くされたファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さん。それらのお金は、私たちが納めている税金や保険料でまかなわれているので、当然の権利として受け取れるもの。しかし、申請しなければもらえないケースが多く、知らないともらい損ねてしまうことも。
また、申請には期限が決められているので、気づいたときには受け付けが終了していたなんてことにならないように、今のうちに知っておきたい。
親が亡くなって最初にすべき手続きは、7日以内に役所に死亡届を提出することだが、親が国民健康保険の被保険者の場合は、保険料を支払い続けることがないよう役所に14日以内に保険証を返却する。このとき払いすぎた保険料を取り戻す手続きを済ませることも忘れてはならない。
「手続きが遅れると、保険料が戻ってこなくなるケースもあるので要注意。また、この手続きを済ませることで、役所で行うその他の各種給付金の申請もスムーズに進めることができます」(風呂内さん、以下同)
葬儀をしたらもらえるお金
葬式の出費をカバーしてくれる「葬祭費・埋葬費給付金」というものもある。ただし、国民健康保険の場合、自治体によってはお葬式をしない「直葬」のケースでは支給されない可能性があるので注意。また、加入している保険によって申請先も異なり、国民健康保険以外の場合は、勤務先の健康保険組合や健康保険の窓口、年金事務所になることもあるので、事前に確認しておこう。
葬儀に関するその他の注意点としては、火葬費用についても知っておきたい。
「通常は故人の住民票がある地域の公営の葬儀場に依頼しますが、施設に入所していたなどの理由で住民票を置いていない地域で亡くなることがあります。自治体によっては、住民じゃない人の火葬料が割高(住民料金の数倍)になることもあります」
実録!家族が知らなかった「互助会の積立金」で葬儀費用が割安に
本誌ライターの場合
約10年前に父が亡くなったあと、病院が紹介してくれた業者と葬儀の打ち合わせをしました。直葬で簡単に済ませることにしたのですが、それでも安置費用、火葬費用、霊柩車の費用、棺代、骨壺代などがそれなりにかかることに驚きました。思わずため息をついたら、葬儀社の人が「念のために……」と、互助会にその場で確認してくれたんです。
すると、家族は誰も知らなかったのですが、父はこっそり20年以上前に互助会に支払いを済ませていたことが判明。葬儀費用を安く済ませることができました。
あのとき葬儀社の人が気を利かせてくれなかったら正規料金で支払っていたので、親御さんが亡くなった場合は念のために確認することをおすすめします。
扶養されていたらもらえるお金
「死亡一時金」も忘れてはならない、国からのサポート。「死亡一時金は、年金を受け取ることができなかった故人に代わって、遺族が国からもらえる香典のようなもの。年金事務所で申請できます」
そのほか、遺族(妻や子)が故人に養われていたケースでは、「遺族基礎年金」(故人が国民年金の被保険者の場合)や「遺族厚生年金」(故人が厚生年金の被保険者の場合)を受け取ることができる。
どちらも遺族の生活を支えるための制度なので、父親が亡くなり、扶養されていた母親や子どもが健在ならば、年金相談センターなどに行き、忘れずに申請しよう。
さらに、親が長く入院していたような場合には、死亡後に精算される医療費が高額になる場合がある。一定額を超えるとお金が戻ってくる高額療養費の払い戻しの対象にならないかも調べてみる価値ありだ。親が年金受給者だった場合は、親が受け取っていない「未支給年金」を受け取ることができる。期日までに忘れずに手続きをしよう。
実録!年金の申請は事前の準備が大切だと痛感
ファイナンシャルプランナー 風呂内亜矢さんの場合
一昨年、岡山県に暮らしていた父が亡くなったとき、コロナ禍だったので自主隔離後に3週間ほど帰省。母に代わっていろいろな手続きをしました。私はファイナンシャルプランナーなのでそれなりの知識を持ち合わせているつもりでしたが、やることが多く時間と労力がかかりましたね。改めて感じたのは、事前の準備が大切だということ。
特に年金の申請は、確認事項が多く、手続きの作業時間や待ち時間も長くかかりました。何度も窓口に足を運ぶことがないように、家族の年齢や収入、基礎年金番号などが記載された資料は、事前にまとめておくことをおすすめします。
親が生前に支払った見落としがちなお金
一時払いや貯蓄型の終身生命保険など、故人が民間の生命保険に加入していた場合も、もらえるお金が発生することがある。それには親が生前、どんな保険に加入していたかを知っておかなければならない。
「毎月払いであれば、通帳などを見て親がどんな保険会社と契約しているかがわかりますが、一時払いなどですでに支払いを済ませていると、親が亡くなったあと、契約状況がわからないことがあります。そんなときは生命保険協会の『生命保険契約照会制度』を使って、加入状況を調べるといいでしょう」
利用料は照会1件あたり3千円(税込み)だという。保険会社の保険金の受け取りの時効は3年。せっかく親が加入した保険をもらいそびれないようにしたい。
そのほかにも見つけにくいお金がある。例えば、脱退時に全額返還される団体や医療機関などへの出資金、親が生前に支払い済みの葬儀代やお墓をつくるための費用などだ。
また、すでに掛け金を払い終えている互助会なども忘れがち。親が互助会会員の場合、指定されている斎場で葬儀を行えば葬儀費用が割安になるので、心当たりがあれば互助会に問い合わせてみよう。
預金口座を見て各契約を解約すべし
もらえるお金ではないが、余計な出費を抑えるための手続きもある。
「継続して費用が発生するクレジットカードや通信サービスの解約、習い事やスポーツジムの退会手続きなども忘れがち。そのままにしておくと、余計なお金を支払い続けることになるので必ず解約を」
本人が亡くなった場合、家族などが代理で解約などの手続きをすることになるが、どんなサービスを受けているかは本人にしかわからないことも多い。その場合は、通帳の自動引き落としを確認しよう。
しかし、取引の内容が記帳されていないケースや、ネットバンクの利用で通帳がない場合もある。名義人が亡くなると口座が凍結されて、口座にログインできなくなることも……。
「銀行口座が止められると、多くは引き落としがされなくなるので余計なお金が出ていくことは防げますが、記帳をして家族がお金の支払い先を見つけるのが難しくなります。そのため、各種契約については親が元気なうちにリストアップし、家族で情報を共有しておくといいでしょう」
電子マネーやマイルも相続しないと丸ゾンだ。
「親が貯めたポイントは通常相続の対象にはなりませんが、一般的にスイカなどのプリペイド型の電子マネーは、事前にチャージした金額を相続できます。ANAやJALのマイルも相続できるので、忘れずに手続きをしましょう」
教えてくれたのは…風呂内亜矢さん
ファイナンシャルプランナー。お金に関する情報を発信。近著『「定年」からでも間に合う老後の資産運用』(講談社+α新書)
<取材・文/村瀬航太>