「このままでは同じような被害者が出る。徹底的に第三者に調査してもらって、厳正な処分と謝罪を望んでいます」
そう強く訴えたのは、元自衛官の五ノ井里奈さんだ。
彼女は去年8月、訓練中に複数の男性自衛官から性被害に遭ったと訴え、被害届を出したが、嫌疑不十分で不起訴処分になったため、検察審査会に不服を申し立てていた。そんな中、彼女はある行動に出た。それが週刊誌での告発だった。
その後、今月10日に立憲民主党の会合に出席し、冒頭の言葉を口にした。第三者による調査委員会の設置のほか、自衛隊でのセクハラ教育の充実など、再発防止を訴えたのだ。五ノ井さんの訴えに賛同する署名は6万8000に上り、今月末にはその集めた署名を防衛省に提出する予定だという。
大きなムーブメントになりつつある元自衛官による“セクハラ”告発。『週刊女性PRIME』でも、その生々しい詳細を伝えていた。
(以下は、2022年7月16日に配信した記事の再掲載 年齢は掲載当時のまま)
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「反響の大きさに驚いています。最近は雑誌などメディアのインタビューも受け始めました。これを機会に洗いざらい、自衛隊に今も浸透する“間違った体質”を変えてほしい。再発防止と謝罪が私の望みです」
震災をきっかけに自衛官を志したが…
6月29日、あるYouTube動画が話題になった。元自衛官だった22歳の女性が性被害を告発。みるみるうちに動画は拡散された。
女性の名前は、五ノ井(ごのい)里奈さん。今年6月まで、陸上自衛隊に所属。そこで受けたあまりにも酷いセクハラが重なり、療養期間を経た後に退職した。
「少しでも自衛隊の体質が改善されることを願っています。私のいた部隊は、隊員58人中、女性隊員は5人でした。
志を持って自衛隊に入った人が、業務外のセクハラが理由で辞めることになるって、こんなに悔しいことはない」
五ノ井さんが自衛隊を志し始めたのは、小学生のころ。
「2011年に東日本大震災があったとき、私は東北地方に住んでいました。避難所暮らしをしていたころ、そこに女性の自衛官が来てくれたんです。私たちが入るお風呂の準備をしてくれたり、避難民ひとりひとりの話を聞いてくれたり。
私は柔道をしていたので腕力には自信があったのですが、女性自衛官は腕相撲をしてくれたりして、とても頼もしく見えたんです」(五ノ井さん、以下同)
中学高校と柔道を続けた彼女は、自衛官が入校できる『自衛隊体育学校』に入りたいとも思った。
2020年4月、自衛隊に入隊。約半年間の研修を経て、配属されたのは、福島県にある『郡山駐屯地』のとある部隊だった。
「配属が決まったとき、先輩の女性隊員たちから“あそこはセクハラが多いから気をつけて”と言われていました」
入隊後ほどなくして、実態を知ることになる。
セクハラで笑いを取るのは普通
「入ったばかりでまわりには男性の先輩がほとんどの中、セクハラが待っていました。“おっぱい大きいね”とか“しゃぶってよ”と声をかけられたり。廊下を歩いていると、すれ違いざまに男性隊員が私に抱きついてきたことも。
“柔道やってるんでしょ”と声をかけられて、柔道技をかけられて、そのまま背後をとられて腰を振られるという。そういうことが日常茶飯事。ほかの部隊の人が見ていてもお構いなしでした」
その部隊では“セクハラで笑いを取るのは普通”という雰囲気だったという。
「セクハラの主犯格は『三曹(さんそう)』という役職付きの人たちでしたが、さらに階級が高い一曹や二曹からも被害を受けていました」
入隊から約1年後、2021年6月24日、山岳地で行う訓練の際にもセクハラを受けた。
「先輩の男性隊員たちのテントに入って、私が料理を作るという仕事があったのですが、そのときに2人の先輩から胸を揉まれ、頬にキスされ、下着の上から相手の股間を触らされました。これは長時間続き、消灯時間が過ぎても終わりませんでした。
先輩の女性隊員にLINEで助けを求めましたが、先輩も以前からセクハラを受けており、怖くて助けに来れなかったそうです」
このセクハラは上官に告発があり、問題になったというが……。
「誰が告発したのかという犯人探しが始まりました。“五ノ井が言ったんじゃないか”と思われて、部隊の雰囲気は悪くなるし、私も居づらくなりました。
ただ、当時の私には“体育学校に行きたい”という目標があり、9月に試験を受ける予定がありました。なので、上司からの聞き取りに“何もありませんでした”と答えました」
こうしてセクハラに耐えていた五ノ井さんだが、8月に決定的な事件が起きる。
部隊の誰もセクハラを証言してくれない
「2021年8月3日から、約1か月間の泊まり込みでの訓練があったんです。前回同様、宿舎にご飯を作りに行くと、先輩から“料理はもういいから、接待をしろ”と言われて、そこで格闘の話をしていた一曹が、三曹に“五ノ井に首をきめて倒す技をかけてみろ”と指示しました。
三曹はそのとおりに私に技をかけて、身体全体で私に覆い被さったところで三曹は暴走をし始めたのです。私の両脚を広げて、股間に自分の陰部をこすりつけて、正常位の体勢で腰を振りながら“あんあん”と喘ぎ始めたんです。
三曹がその行為をやっと終えたと思ったら、続けて2人目、3人目と別の三曹が私に覆いかぶさり、やはり股間を服の上から押しつけて、腰を振り続けて……。
私の両手首は、頭上で抑えつけられており、抵抗しようにもできませんでした。ただ、ただ時間がすぎればいいと……。その間、見ている人たちはずっと笑っていました。
ようやく終わると、私を押さつけていた三曹は“案外、力強いね”と言ったんです。私が抵抗しているのがわかっていたのに、やめてくれなかったんです」
それが終わったのも束の間、あの状況を見ていたにも関わらず、再び一曹は“あの技はどうやるんだっけ?”と話題を蒸し返す。
「はじめの三曹が来て、また同じことをされました。部屋には15人ほどいて、みんな見ていたのに、誰も止めてくれませんでした。
私の顔が引きつっているのを見た三曹は“誰にも言わないでね”と言って、私のとなりにいた先輩は“今さら何言ってんだよ”と笑っていました」
泊まり込みの訓練であり、すぐ抜け出せる環境ではなかった。その後2日間、訓練に参加したが、セクハラも続いた。
「もう限界でした。部隊の長である『中隊長』に泣きながら“これで私が死んだら責任とってくれるんですか?”と訴えて、やっと自宅に帰らせてもらいました」
後日、部隊内での取り調べでは、目撃していた人たちは、誰もセクハラを証言しなかった。
“あなたの話だけでは信用できない”
「口止めがあったと思います。まずは内部での聞き取りの上、自衛隊の秩序を守る部署である『警務隊』に問題があがりました。
警務隊は『強制わいせつ』で書類送検をしてくれたので、私はそのまま検察庁に被害届けを出し、それが受理され、審議となりました」
しかし、検察庁の回答は厳しかった。
「検察庁では“五ノ井さんの証言は真実だと思うけれども、目撃者全員が見ていないと証言する中、あなたの話だけでは信用できない”と言われました。
結局、検察庁は不起訴と判断したので、今は異議申し立てをして結果待ちです。でも、やはり不起訴は変わらない可能性もあるので、自分からとにかく発信しようと思ったんです。
現在所属している人たちはもちろんですが、今までのセクハラで辞めてしまった人の想いも汲んでほしい。現在、過去含めて再調査をしてほしいというのが私の願いです」
五ノ井さんが所属していた郡山駐屯地に問い合わせると、
「今回の件の再調査を行っています。具体的な進捗や予定については答えられないが、加害者とされる者には再度、事実確認を行っている」
とのことだった。
こうした声に、自衛隊が真摯に立ち向かう日は来るだろうか。
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五ノ井さんの勇気ある行動で、国をどこまで動かせるのか。『週刊女性PRIME』もその後押しをしていきたい。