在宅勤務などによって、家で料理をする人が増えたのではないでしょうか。料理の腕を上げるために、まず作れるようになっておきたいのが、飽きのこない定番の料理です。料理初心者でも無理なくおいしく作る方法を、作家で料理家でもある樋口直哉さんが紹介する連載『樋口直哉の「シン・定番ごはん」』。
今回は「豆腐丼」と「ザーサイスープ」です。
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味の秘密は「ザーサイ」にあり!
暑い日が続きます。こういう時期に食べたくなるのが冷奴。豆腐にしょう油を垂らすだけでもおいしいですが、ちょっと気分を変えて、中国風の拌豆腐という冷たい豆腐料理をアレンジした豆腐丼をご紹介します。
味の秘密は「ザーサイ」です。
ザーサイはからし菜の一種の野菜を塩漬けにした後、香辛料などにさらに漬け込んだもの。中国でも歴史の浅い漬物ですが、日本では日本橋に本社を構える桃屋が1968年(昭和43年)に『桃屋のザーサイ』を発売したことで広まり、今では日本の食卓のおなじみに。
味付けザーサイは桃屋の製品がおなじみ
普通に売られているザーサイは塩抜きしてから味付けし直す必要がありますが、瓶詰めの味付けザーサイであればその手間も不要。買っておくと幅広く使える食材です。
豆腐丼の材料(2人前)
絹ごし豆腐 1/2丁
ザーサイ 15g
長ネギ 20g
ごま油 大さじ1
塩 小さじ1/4
しょう油 少々
卵黄 好みで
この料理には絹ごし豆腐を使っていますが、もめん豆腐でも同様に作れます。ごま油と塩で味付けするのがポイント。
長ネギとザーサイはみじん切りにします。
そのまま切った豆腐に乗せて、ごま油としょう油を垂らせば中華風冷奴になりますが、今日は豆腐を潰していきます。
あまり混ぜすぎずに塊を残したほうがおいしいですが、潰すことで豆腐にクリーミーさが出ます。そこで半分は丁寧に潰し、もう半分はざっくりと崩して、全体を和えるようにするとうまくいきます。
炊きたてのご飯に乗せたら出来上がり。このままでもおいしいのですが……。
卵黄を乗せて、好みでしょう油を少し垂らすと味に厚みが出ます。豆腐の味わいは温度が重要です。豆腐を口に含むと、まったりとしたクリーミーさが口に広がりますが、それは大豆に含まれる脂肪分に由来します。脂肪は温度が高いほどよく溶けるので、冷たい状態よりも温かいほうが感じやすいのです。
ここでは炊きたてのご飯とあわせることで、豆腐の味をより強調していますが、冷奴などを食べるときも冷蔵庫から出したての豆腐を使うのではなく、少し常温に戻しておくとおいしく味わえるでしょう。
ザーサイは塩気とうま味を含んだ食材で、そのまま食べるほか、スープのベースにもなります。
次に紹介するのはきゅうりとザーサイのスープです。
きゅうりとザーサイのスープの材料(2人前)
ザーサイ 20g
きゅうり 1/2本
水 300ml
しょう油 小さじ1/2
塩 小さじ1/8
胡椒 少々
作り方はかんたん。きゅうりはマッチ棒くらいの太さの千切りにします。
鍋に水とザーサイを入れ、中火にかけます。沸いてきたら火を弱火に落とし、1分煮ます。
きゅうりの千切りを加えて、火を止めましょう。しょう油と塩、胡椒で味を整えます。好みでうま味調味料や顆粒の鶏ガラスープの素をごく少量加えると町中華風の雰囲気が出ますが、ザーサイから味が出るのでそこまでしなくてもいいかもしれません。
暑い夏は冷たい料理ばかり食べたくなりますが、体(主に胃腸)への負担を考えると温かい料理も摂りたいもの。前回紹介した(『猛暑乗り切る強い味方「きゅうり」おいしく食す技』)ようにカリウムが豊富で水分補給にもなるきゅうりは夏にぴったりの野菜です。温かい料理を上手に食べて、夏バテを防ぎましょう。
樋口 直哉(ひぐち・なおや) Naoya Higuchi
作家・料理家
1981年東京都生まれ。服部栄養専門学校卒業。2005年『さよなら アメリカ』で第48回群像新人文学賞を受賞しデビュー。著書に小説『スープの国のお姫様』(小学館)、ノンフィクション『おいしいものには理由がある』(角川書店)、『新しい料理の教科書』(マガジンハウス)、『最高のおにぎりの作り方』(KADOKAWA)などがある。