チャンネル登録者数は約480万人(2022年8月現在)、国内でトップクラスの人気を誇るカリスマYouTuber・ヒカル。その言動はプラットフォームの枠を飛び越え、たびたびネットニュースで取り上げられるなど高い影響力を誇る。彼の視聴者でない層からは“炎上イメージ”を持たれがちなヒカルの、YouTuberとしての“才能”に迫る。
YouTube作家の肩書きをもち、ヒカルやヒカキン、東海オンエアなど数多くの大物クリエイターの企画を手がける『株式会社こす.くま』代表取締役のすのはら・たけちまるぽこの両氏に、ヒカルについて解説・分析する。実際にスタッフとして企画会議に参加、動画に出演もしている“身近な存在”からみたヒカルの素顔とは──。
『パワプロ』のゲーム実況でブレイク 当時は音声でのみ出演
まずはその歴史から紐解きたい。ヒカルは2013年6月1日に自身のチャンネル『Hikaru Games』を開設し、ゲーム実況者としてYouTuberのキャリアをスタートした。当時はまだ音声のみの出演だったという。
「ゲーム実況としてもかなり人気のあるチャンネルでした。というのも、他の実況者が取り上げないいわゆるマイナーなゲームを取り扱いだしたのはヒカルさんが初めてで。それも偶然ではなく、戦略的に“そのポジションは誰もいないからやってみよう”と考えてやっていたようです。『実況パワフルプロ野球』(通称:パワプロ)が大人気ゲームにも関わらず、当時はYouTubeで検索しても競合が少なかった。単に好きなゲームをプレイするのではなく、ブルーオーシャンのジャンルを狙って登録者を伸ばしたかたちです」 (すのはら氏)
ゲーム実況から2年半経った2016年3月18日『ヒカル(Hikaru)』としてチャンネルを開設。顔を出し、いわゆる“企画”動画を制作するように。半年後にはチャンネル登録者数10万人を達成、同年12月20日にはチャンネル登録者数100万人を突破し、一気にスターダムにのし上がった。
「おそらく当時最速で登録者が100万人を達成しました。はじめしゃちょーらが登録者数を伸ばしていた時代で、YouTuberの企画のトレンドは、うまい棒1万本買うとか、大量消費系の企画が主流。ヒカルさんはそれを見て『これだったらマネできるし超えられる』と考え、高額なお金を使う企画を次々と世に出していきました」(たけち氏)
そんななかヒットしたのが『当たりはなかった?祭りくじで悪事を働く一部始終をban覚悟で完全公開します』という動画。Nintendo Switchやゲームソフトといった高額景品が並ぶ祭りくじに“300万円”を持参し、果たしていくらで当たるのかを検証した。テキ屋の闇を暴いてみせたこのコンテンツは現在4800万回再生を超えている。
企画力ばかりではない、“視聴者に見てもらう”ための努力も欠かさないのだという。ヒカルが動画外でのぞかせるストイックな一面とは?
男性視聴者は“ファンなりやすいが、離れやすい” 打った施策は
「いまでこそ当たり前になっていますが、動画内の喋り“すべて”にテロップをつけたのはヒカルさんが初めてです。喋るだけの“トーク動画”も彼の主力コンテンツ。電車などの公共の場でイヤホン、音声なしで見るシチュエーションを想像してつけたのだと思います。編集作業はスタッフがやっていますが、いまでも最終チェックはご自身でされていますね。また、動画においてかなり重要なタイトル付けやサムネイルづくりもヒカルさんの担当。
常に世に出ているYouTubeコンテンツを研究し尽くしている印象です。たとえばコメント欄の雰囲気だったりとか、伸びるYouTuberの分析ですとか、時代の移り変わりをうまくキャッチしているなと感じます」(すのはら氏)
YouTubeをあまり視聴しない層からすれば、炎上を起こしているイメージを持つ者も多いだろう。かつてはYouTube界最低の20万超えのBadがつけられた動画もあった。しかし、その度に不死鳥のごとく蘇り登録者を伸ばし続けた。
「炎上して登録者がどんなに減ったとしても『チャンネルを伸ばすには? 見てもらうためにはどうしたらいいのか』と試行錯誤しています。一時期の炎上は風当たりがとても強く、実家が特定されたりなど色々ありましたが、その状態でもまだ勝ち筋を見出して、この状況から伸びるにはどうしたらいいかを諦めず考え抜いたからこそ今のヒカルさんがあると思いますね。
例えば、炎上後に男性ユーザーについて“ファンなりやすいが、離れやすい”という経験則から、女性ファンを獲得するための施策を積極的に行っていた時期もありました。同じ登録者数でも女性向けチャンネルの方が多い“高評価数”と“コメント数”が多い傾向があり、ヒカルさんはそれに気づいた」(たけち氏)
2018年にはYouTuberの怪盗ピンキーとユニットを組んで楽曲を発表。現在は動画に出るときは毎回ヘアメイクをし、美容化粧品の開発まで行っている。女性ファンもかなり増えたという。そのようにして、炎上するごとにアップデートを重ねていった。
「女性ファンを獲得する際にも動画でそのことを視聴者にあえて公言するのがヒカルさん。ほかにもこれから再生数を伸ばしに行くぞという意思表示をするときに必ずカメラに向かって喋る動画を撮っています。視聴者に自分の気持ちを共有し、一緒にに盛り上げよう! と気持ちを高めるのが上手ですね。ファンが応援したくなる気持ちがわかります。今ではたとえ炎上が起ころうとも“それがヒカルだし”で済むというか、あまりダメージを受けなくなった印象です。ブランディングの賜物(たまもの)ですよね」(すのはら氏)
“新世代YouTuber”の動向もチェック、テレビ進出は捨てる?
そんなヒカルの動画はどのような過程で作られていくのだろうか? 月に1度行われるという企画会議の模様はというと、
「僕たちが用意した30個ほどの企画を持って、ヒカルさんのご自宅で会議をするっていうのが主流です。日によっては企画を見ずに、ヒカルさんの今後の戦略を聞いてブレストをする時もあります。企画や戦略は僕たちも提案しますが、彼も常に考えています。ストイックに数字を追いかけて本当に日々、チャンネルを伸ばすためにはどうしたらいいかを毎分毎秒考えている一面ももちろんありますが、会議を共にするようになってイメージが変わったのは、“自分が楽しむことを一番大事”にしているところでした」(すのはら氏)
たけち氏も続ける。
「“面白い”に対してストイックなんだと思いますね。今、好調の“新世代YouTuber”のことも知っていて、年齢でいえば7~8歳ほど違う彼らの動向もチェック、『最近のYouTubeの流れはこうだから、こうしたほうがいいと思っていて……』といった意見はとても参考になります。僕たちの企画も『こうアレンジして出します』とか、『こういう風にします』と自身のエッセンスも加える。常に動いているので一体いつ寝てるの? と思うときもありますね」
また、ヒカルはグループYouTube 『NextStage』のリーダーとしての顔も持つ。『みきおだ』のみっき〜とおだけい、元『へきトラ劇場』の相馬トランジスタ、ラファエルといった人気YouTuberに加え、ヒカルの会社の従業員で編集を担当していた名人、ロケマサや、ヘアメイク担当の捧(ささげ)さん、ヒカルの実兄のまえっさんと元々裏方だったメンバーも加えグループとして活躍している。日本の上位YouTuberはグループが多く、月間の再生回数・時間もグループのほうが高いというデータが出ているのだという。
「グループ作るときもそうでしたが、ヒカルさんのチームは彼の意思決定に絶対従うというのが強み。そして、行動に移すまでがとにかく早い。これは個人活動のときもそうですが、集まって打ち合わせをしているときに何か新しいことを起こそうと決まったとき、その30分後には動画で“宣言”する。これは他のYouTuberさんとの大きな違いですね」(すのはら氏)
たけち氏は『NextStage』の旅行企画『泥酔したら即帰宅の旅』(2021年)という企画にスタッフ・司会進行として参加した。一定時間ごとに用意されたミニゲームの敗者が酒を飲み、メンバーが酔っていく姿を収めた動画だ。そのなかでみたヒカルとは──。
「48時間耐久というルールだったのですが、ストイックに寝ないですし、この場を楽しんで面白い撮れ高を作ることを徹底されていました。カメラのオン・オフでも変わらない人だなと。疲れた姿をみせない。それこそ、この『泥酔旅』もYouTuberの流行りのスタンスの動画ではなく、“みんなと楽しみたい!”というヒカルさんの希望だったりします」(たけち氏)
トップYouTuberとしての地位を確固たるものにして久しいヒカル。そんな彼の今後の活動はどうなっていくのか。2022年に入ってからはテレビ進出も口にしていたが、
「う〜ん、わからないですね(笑)ヒカルさんって変わるんですよ。その変われるところがすごいなと思っていて。“今までの自分は間違っていた”って明言して、全然違う方向へとドンと舵を切れる。今年の3月の時点と今の時点で全然目標が違いますから。それが彼の凄さですね。
テレビに関しても別軸で動いてはいるようで、レギュラーの枠を作ろうとしていたりとか、そういのは今後あるだろうなとは思います。ただヒカルさんはYouTubeが第一優先。なので、YouTube界をもっと盛り上げなきゃいけない、そこに時間使わなければならないとなればテレビ進出はすぐに捨てるのでは」(すのはら氏)
ただ、唯一変わらないものがある。
「ヒカルさんのファンを大切にする姿はYouTuberのなかでもかなり上位のほうだと思います。というのも、握手会とかイベントにいったときにファンの顔とか名前を憶えているんですよ。相手が名乗らなくても『〇〇って名前でしょ?』『(SNSの)アイコンこんな感じだよね!』とか、とか。それは本当にすごいなと。自分についてきてくれるファンを大事にする気持ちがあるからこそ、トップランナーでいられるのでしょうね」(たけち氏)
世間が知らないカリスマの知られざる素顔がここにある──。
こす.くま(Kosu.Kuma)
すのはら・たけちまるぽこによるYouTube作家チーム。個人、企業を問わず、YouTubeチャンネル運営におけるブランディング・企画制作・マーケティング支援を行っている。制作協力した動画に『ウ”ィ”エ” ヒカキンVer.(HikakinTV)』、『この動画は再生回数0回を目指します。(東海オンエア)』、『泥酔したら即帰宅「地獄の48時間」ネクステ初旅行(ヒカル)』などがある。