黒髪ロングヘアに淡いパープルのワンピース姿で現れたえみっくすさんは、“デブ業界の橋本環奈”の愛称で今、人気を集めている。取材開始早々、記者が「今の身長と体重を聞いてもいいですか?」と恐縮しながら問うと、「もちろん♪」と笑顔を見せてくれた。その愛嬌のある表情は噂どおり、タレントの橋本環奈にそっくりだ。
「身長は155cm、体重105キロです。昨日、しゃぶしゃぶ食べ放題に行っちゃったんで……。顔のコンディションのベスト体重は95キロなんです。デブにしては小顔ってよく言われるので、小顔マッサージとか、お手入れは頑張ってます!」
体型を活かしたライブ配信の活動を中心に、プラスサイズ服のモデルやSNSでも注目を浴び、ファンを増やしている。
今年3月には、多様な女の子のロールモデルを発掘するオーディション『ミスiD』でアイドル賞を受賞。玉城ティナや菅本裕子(ゆうこす)と同じ登竜門をくぐり、幼いころから憧れていたアイドルになる夢を叶えたばかりだ。
バラエティー番組への出演など、活躍の場を広げる彼女に3歳下の弟から苦情の連絡がきた際は、こう切り返したと明かす。
「弟に“お前がデブとしてテレビに出てるのをいじられてる”って言われて。私もカチンときちゃって。普通のアイドルやモデルさんと同じことを発信してるだけなのに、“ただ太ってるだけでバカにするような友達しか作れなかった浅っい人生を送ってきた自分に、自分で反省しな!”って、つい言い返しちゃって(笑)。でも、今は“ちゃんと信念を持ってやってるなら、いいんじゃない?”って、弟も応援してくれています」
こうしたサバサバと潔いトークも魅力のひとつだ。ライブ配信でファンの書き込みを読みながら、「誰がデブや!あ、デブかぁ」とノリツッコミする余裕も見せ、大勢のファンを盛り上げている。
だが、そんな彼女にも、過激なダイエットとリバウンドを繰り返し、誹謗中傷に苦しんだ時期がある――。
アイドルに憧れて『アクターズスタジオ』へ
北海道旭川市生まれ。物心がついたころからアイドルに憧れていた。モーニング娘。や鈴木亜美が大好きだった。
AAA・西島隆弘、w-inds.・涼平・龍一などを輩出したタレント養成所『アクターズスタジオ』に通い始めたのは高校生のときだ。2年半、ローカルアイドルとして活動し、ライブもこなした。
「スクールの選抜ではいつも落とされて。選抜レッスンを眺めながら親が迎えにくるのを待つ時間はつらかったです。親はあまりよく思っていなくて、もっとダンスを習いたいとか言い出せなかった」
大学生になると、メイド喫茶で働き始めた。スクールを辞めた後も、アイドルになる夢が諦められなかったからだ。
華やかな衣装をまとい、お客さんを元気にする仕事にアイドルと似た魅力を感じた。
ところが、ネット上の誹謗中傷に悩まされるようになる。
〈働くお店間違ってる〉〈デブすぎ!〉〈メイド服パツパツだったww〉
「すごく傷つきましたね……。見なければいいのに、見ちゃうんです。ローカルアイドルのときも、メイド喫茶のときも、周りは細い子が多くて…。当時、私は58キロくらい。でも、普通体型じゃダメなんです。
1週間飲み物だけで何も食べず、3キロやせたとか喜んでました。でも、限界がきて食べて、また元どおり!その繰り返しでした」
大学卒業後はIT企業に就職。東京でエンジニアとして働き始めた背景には複雑な想いがあった。
「地元では有名な進学校に通わせてもらったのに、レベルの高い大学には行けなくて、後ろめたさがありました。親も親戚もみんなお堅い職業で、いとこも高学歴……。長女なので、私も親のためにならなきゃ!って気持ちがずっとあった。それで、親と同じエンジニアの仕事を選びました」
仕事のストレスで過食、婚約を理由に退社
大学では英米文学を学んでいたため、理系の同僚がこなす仕事のスピードについていけない。遅れを取り戻すため、深夜まで残業する生活が5年続いた。心身ともにボロボロになり、ストレスによる過食で80キロ、90キロと体重も増えていく。
「毎日終電で帰って、家の近くでラーメン食べて帰ったり、コンビニでカップ麺2種と新作弁当を全種類買ったり。とにかくお腹いっぱいの状態にして、すぐ寝る。朝も早かったので、睡眠対策のために食べて寝る感じ。常に仕事辞めたいって考えちゃって……」
限界を迎えたとき、当時の恋人と婚約をして会社を辞めた。そして、東京から逃げるように相手の故郷である離島へ移住する。
「結婚すれば、会社を辞められると思った。逃げですよね。でも結局、3週間で婚約破棄して、東京でやり直そうと決めました」
仕事も結婚も上手くいかないのは自分のせい。“逃げる選択”で、欲しい人生は手に入らないとようやく悟った。
やり直すための「休養」をとろう。そう決めて、半年ほど無職の生活を続けていた。
そんな矢先、ローカルアイドル時代の友人が『ライブ配信』を始めたことを知る。ライブ配信とは、映像と音声をリアルタイムで配信すること。視聴者から“投げ銭”などの応援金をもらうことで報酬も得られる。
一度は諦めたアイドルのような活動がライブ配信ならできるかもしれない――。当時の体重は80キロ。顔や身体がカメラの加工機能で隠せることも魅力だった。
「アプリの小顔加工は常に100%設定、細くしたうえで、さらにカメラは上方向から撮影していました。当時は自分が太ってることを頭ではわかっていても、受け入れられなくて。バレたくなかった。断食もしたけど、リバウンドを繰り返してました」
加工しないほうが個性出ていいよ!
ところが、ある日、アプリ上のトラブルで加工設定ができなくなってしまう。必要に迫られ、そのまま配信をスタートすることに……。
「加工した自分の顔のほうが見慣れていたので、画面にうつる自分がものすごく太っていて、ショックでした。また誹謗中傷されるのか、って怖かったですね。でも、いろんな視聴者に『こっちのほうが個性出ていいよ!』って言われて。意外な反応でした。このままでいいの? って。
それまでは、アイドルぶって面白くない雑談を配信して、人気も全然なかった。でも、加工無しにすると、少し開き直ったキャラにもなれて、トークも盛り上がったんです」
その日から、少しずつ加工を薄くしていった。突然、加工無しにする勇気が持てなかったからだ。
えみっくすさんの体型を先に受け入れたのは、画面越しの視聴者たち。その声に励まされながら、加工を減らし、自分の心を慣らす期間が必要だった。
「めっちゃ太ってるけど、顔は橋本環奈だよ!似てる!」
視聴者の一人がそう言い始めると、配信は大盛り上がり。
コンタクトレンズを茶色に変え、ナチュラルメイクを意識した。美少女の代名詞であるタレントに似せることで自信もわいた。いつしか、「デブ業界の橋本環奈です♪」と名乗るようになっていた。
「デブ!と言われると1週間頭から離れないほど落ち込んだのに、今は街中で『デブ!』と揶揄されても、『それを職業にして食べてますから』としか思わなくなりました」
見た目で人を判断したり、容姿を理由に差別したりする『ルッキズム』を見直す動きが今、世界に広がっている。えみっくすさんは、その風潮をどう捉えているのか。
「私自身、デブだけど顔が橋本環奈という外見で評価されているので、ルッキズムの考え方を完全に否定はできません。だけど、私が『職業=デブ』と自称することで、言葉の印象は変えていけると思っています。
痩せるとあか抜けるみたいに語られる風潮があるけど、私は太った今のほうが、あか抜けましたから。髪の毛を手入れしたり、メイクしたり、あか抜ける方法は痩せることだけじゃない。髪の毛が生えるように、ほくろがあるように、太っていることも、ただの“状態”になればいいと思ってます」
体型を肯定できている今の自分が好き
ボリューミーな量と脂の多い豚系スープが特徴の『ラーメン二郎』が大好き。1日お米を3合ほど食べるというが、健康には気を遣っている。
「デブ=不健康って思われちゃうんですよ。例えば、睡眠不足が原因で体調を崩したとしても、“デブだから”って言われる。Yahoo!コメントにも『可愛いけど、健康が心配』と書き込まれたり……(苦笑)だから、野菜はたくさん摂ります。あと、最近は歩数計アプリの『ピクミン』にはまってて、1日3万歩くらい歩く日もあるんですよ!」
100キロ以上の人をレンタルできるサービス『デブカリ』に所属し、1時間2000円で「一緒に食事をしたい」「買い物に付き合って」「恋愛相談に乗ってほしい」など、いろんな要望に応えている。
まさに、新しい形の「会いに行けるアイドル」として、多くの人を元気づけている。
アイドルを夢見たことで、「細身体型」をシビアに求められ、嫌というほど周囲と比較された。だが、その夢にしがみついたことで、彼女の価値観は大きく変わった――。
現在の収入は、「アルバイトを毎日する大学生より少ない」というが、いまの生き方を気に入っている。
「100%体型を肯定できている今の自分が好き。人からの意見も卑屈に捉えず、明るく受け止められるようになったから。
でも、実はまだ両親にちゃんと話せていないんです。もっと売れたら、自分から報告したい。ちゃんと仕事していれば、きっと認めてくれると思います」
長年の夢を叶えたいま、その眼差しにもう迷いはない。