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 何となく調子が悪いときに、「念のため」「のまないよりは」と軽い気持ちで市販薬をのむことはよくあるだろう。だが、そんな軽い気持ちで手を伸ばした薬で依存症になったり、多剤併用で高齢者が健康被害に遭ったりといった社会問題が増えている。薬と上手に付き合うには、どうすればいいのか。

医師が教える薬と手術の必要性

「薬はのまないに越したことありません。いま薬をのんでいるなら、その薬をやめるにはどうすればいいかを常に考えることが重要です」と口をそろえるのは、医師の谷口恭先生と寺田武史先生だ。

 また、薬と並ぶ治療法である手術についても「手術はある意味、人工的に大ケガさせていることになります。いくら技術が進歩しても、リスクはゼロにはなりません」と医師の水上治先生は言う。

 また、同じく医師の秋津壽男先生も「手術の必要性が50%なら、外科医は迷わず手術をすすめます。そのため、内科医のセカンドオピニオンが欠かせないのです」と助言する。

 出されるがままに薬をのみ、言われるがまま手術を受けていればよかったのは昔の話。今や、薬や手術を受け入れるかどうかは自分で決める必要がある。いざというときに正しく判断するためにも、名医4人に本音で話してもらった。

病気になってものまない薬:抗生物質

 風邪をひいたから抗生物質をもらおうと考えて医者にかかったことのある人もいるだろう。これについて、谷口先生は警鐘を鳴らす。

「抗生物質は結核菌などの細菌を殺す抗菌薬の一種。あくまで細菌にしか効きません。風邪などのウイルスには一切効果がないのです。

 抗生物質が必要なのは、40℃以上の発熱があって肺炎を起こしているなどの重症の細菌感染を起こしたときだけ。ちなみに私が医師になってからの約20年で抗生物質を使ったのは、たった3回です」

 抗生物質をとりあえず服用して様子を見てはいけないのだろうか。

「抗生物質を使えばその作用は全身に行き渡り、腸内や、女性だと膣内の細菌叢ががらりとかわってしまいます。軽症の細菌感染なら、自然治癒力に期待して抗生物質を使わないほうが賢明です」(谷口先生)

 寺田先生も同じく、抗生物質のむやみな使用は控えるべきと主張する。

「抗生物質は特に善玉菌を殺し、腸内環境を荒らします。多くの場合、使う必要のない薬なのに、何でもかんでも抗生物質の処方を希望する患者さんが多いです。医師もメリットとデメリットを考えて、必要最低限の処方をしなくてはなりません」

この使い方、意味ありません!
・風邪に抗生物質
・インフルエンザに抗生物質
・ノロウイルスに抗生物質

病気になってものまない薬:風邪薬

 市販薬としてもっとも身近な薬のひとつ、風邪薬。仕事を休まずにすんだなど、助けられた経験のある人は多いだろう。

「風邪薬は、実は非常に危険です。医師でのむ人はまずいないでしょう」と谷口先生は言う。どうしてそこまで危険なのか。

「風邪薬は薬物依存症の患者を大量に生み出しています。厚労省が危険な成分に指定している麻薬成分や覚醒剤の原料となる成分、つまりきわめて強い依存性を持つ成分が微量ながら風邪薬には入っているからです」(谷口先生、以下同)

 麻薬や覚醒剤に使われるものと同じ成分が風邪薬に入っているとは驚きだ。

「例えば、CMでもおなじみの人気の市販薬には、危険な成分のうち、麻薬成分であるジヒドロコデインと覚醒剤の原料となるメチルエフェドリンが含まれています。

 こうした風邪薬を知らずにのみ続ければ、いつの間にか服用をやめたくてもやめられない身体になります。それにそもそも、市販の風邪薬では根治できず、症状を抑えることしかできません。風邪を治すには、身体の自然治癒力に頼るのがいちばんです

厚労省が指定する6つの危険な成分
​□エフェドリン
□メチルエフェドリン
□プソイドエフェドリン
□コデイン
□ジヒドロコデイン
□ブロムワレリル尿素

病気になってものまない薬:睡眠薬

 風邪薬と同じように、強い依存性が社会問題となっている薬がある。

「ベンゾジアゼピン系と呼ばれる睡眠薬には強い依存性があり、依存症から抜けられなくなっている人が大勢います。それなのに、あまりにも簡単に処方されすぎています」と、谷口先生は危機感を募らせる。

 ベンゾジアゼピンおよびその類似品にまつわる恐ろしい事件や事故は、山ほどあるという。

「2012年に東京都の目黒区で、『マイスリー』という睡眠薬を内服していた42歳の母親が、薬のせいで意識のないまま5歳の息子をビニール袋に入れて窒息させて殺すという痛ましい事件がありました。にもかかわらず、この薬は日本国内で最も多く処方されている睡眠薬といわれています。

 中には『いちばん弱い睡眠薬だから』などと説明されたという患者さんもいて、医師が危険性を十分に説明して処方しているのか、はなはだ疑問です」(谷口先生)

お笑いコンビ「インパルス」の堤下敦は2017年、睡眠薬の影響で交通事故を起こし書類送検された。また、今年6月にも物損事故を起こし、事故発生時は意識がもうろうとした状態だったという

病気になってものまない薬:コレステロールの薬

 多くの中高年の心配のタネとなっている、コレステロール値。しかし、寺田先生によると、健康診断などで使われるコレステロール値の基準自体がそもそも疑問だという。

「LDLコレステロールの値を下げるスタチン系の薬をのむのは避けたいですね。LDLコレステロールは悪玉コレステロールと呼ばれますが、胆汁酸やホルモン、ビタミンDなどの大事な原料になるからです。

 実際、アメリカでは2015年にLDLコレステロール値の上限が撤廃されています。日本では140mg/dL以上で脂質異常症と診断されますが、私は高齢や持病などのリスクのある患者さんを除いて、160~170mg/dL程度を上限値に設定しています」

 水上先生も、寺田先生の意見にうなずく。

「ある日本人の追跡調査によると、総コレステロールが250mg/dL程度がいちばん長生きだったという結果も出ています。なので、私だったら抗コレステロール薬はのみたくないですね」

病気になってものまない薬:糖尿病の薬

 糖尿病の患者数は、予備群も含めると1000万人を超えるともいわれている。身近な病気なので、薬を常用する人も少なくない。

「糖尿病薬の中でも、血糖を下げるインスリンというホルモンを膵臓から分泌しやすくするSU剤という薬は、安価で血糖値も下がりやすいといわれます。一方、強い空腹感に襲われるため肥満につながる場合も。

 また、膵臓を雑巾のようにギュッと絞ってインスリンを出させる働きがあるため、長期間の服用で膵臓がボロ雑巾のようになってしまう可能性もあります。もともと糖尿病で過労状態の膵臓に、さらにムチを打つようなことになるからです」(寺田先生)

 では、血糖値が高くて何らかの薬をのむ必要に迫られたときには、どんな薬をのめばいいのだろうか。

「GLP-1製剤はわりといいですが、ひどい吐き気と食欲不振に襲われることも。糖を尿とともに出すSGLT-2阻害剤は、膵臓への負担も少ないので、私ならそちらをのみたいですね」(寺田先生)

病気になっても受けない手術:食道がんの手術

「食道がんの手術は大きく胸を開いて食道を切除し、大きくお腹を開けて胃を用いて再建するという大手術で、8~10時間くらいかかります。手術自体のリスクが高く、後遺症も重い場合が多いです」と語るのは水上先生だ。

 がんができた食道を手術で切除し、その代わりに胃を管のように引き延ばしたり、腸を使うこともあったりと、身体への負担が大きい手術だ(下図参照)。

「手術自体は無事に済んでも、術後に合併症が発生する確率は胃がんなどの治療に比べて高くなります。また、生活の質の低下も否めません。

 胃が十分に働かなくなるため、食事の量は大きく減り、食事が飲み込みづらくなることも。また、食事や逆流した胃酸が肺に入ることで、誤嚥性肺炎になる可能性も高くなります」(水上先生、以下同)

 歌舞伎役者の十八代目中村勘三郎さんは、2012年7月に食道がんの手術をしたものの、同年12月に57歳の若さで亡くなった。術後に誤嚥性肺炎を起こし、その肺炎がきっかけで重い呼吸不全に陥ったのだ。

「勘三郎さんの死因となった急性呼吸窮迫症候群という重い呼吸不全は、死亡率が約40%と非常に高いもの。食道がんの手術には、こうしたリスクもあるのです」

食道がんの手術、こんなに大変!(1)胸部食道がんの場合、のど、胸、お腹と3つの領域にわたって切り開き、食道を切除する(2)胃を管状にして残った食道とつなげる。管は大腸や小腸で代用も(イラスト/小島サエキチ)

病気になっても受けない手術:膵臓がんの手術

 女優の八千草薫さんや元プロ野球監督の星野仙一さんなど、膵臓がんで亡くなった有名人は数多い。膵臓がんは見つかったときには手遅れというイメージが根強く、一刻も早く手術したい気持ちもわかるが、一度立ち止まってよく考えてほしいと水上先生は言う。

「膵臓がんの7割ほどが、十二指腸にもっとも近い膵頭部にできます。その膵頭部のがんを切除する膵頭十二指腸切除術という手術は、お腹の手術では最も大がかりな手術のひとつで、リスクが高いです。

 また、膵臓から液が漏れて周りの臓器や血管を溶かしたりする『膵液漏』など、合併症の発生率は40~50%にも上るといわれ、術後死なども考えられます。さらに、手術して何とか落ち着いたと思ったころに肝臓転移が見つかり、死に至るということもざらにあります」(水上先生、以下同)

 せっかくつらい手術から回復したのに別のがんが進行してしまっていては元も子もない。手術をしたくない場合、どうすればいいのだろうか。

「手術の代わりの方法としては放射線と抗がん剤を組み合わせる方法があり、『メリディアン』のように放射線治療とMRIが一体化した特殊な装置もあります。無理に手術しなくても、今はいい治療法があるので、私ならそちらを選びます」

女優の八千草薫さんは亡くなる2年前に膵臓がんが判明し手術をしたが、その後、肝臓に転移したことが原因で帰らぬ人に

病気になっても受けない手術:心臓弁膜症の手術

 心臓弁膜症の中でも比較的多いのが、心臓内の弁のひとつである大動脈弁が開きづらくなる大動脈弁狭窄症だ。

 心臓の病気となれば、手術を急ぎたくなる。秋津先生によると、「近年、外科医からよくすすめられるのが、TAVI(タビ)と呼ばれる経カテーテル大動脈弁留置術という最新技術を使った手術です。身体への負担が少なく高齢者でもできる一方、実績がまだ乏しい。無理にカテーテルで行わなくても、開胸手術で安全に弁置換を行ったほうがいいと個人的には思います」

 実績が乏しいとはいえ、身体に負担の少ないタビのほうが開胸手術よりも安全そうだが、どうなのだろうか。

「患部を切り開いて医師が自分の目で見て行うのではなく、レントゲンとエコーで見ながらの手術なので、カテーテルの正確な位置合わせがとても難しいのです。あと、これは声を大にしては言えませんが、外科医の先生というのは、最先端の技術をすぐに使いたがる風潮はありますね」(秋津先生)

病気になっても受けない手術:難聴の手術

 会話中に聞き返すことが増えてくると、年を取ったなと実感する。加齢による難聴の始まりで、やがて生活に不便を感じるようになってくると補聴器に頼ることが多い。しかし、補聴器ではどうにもならないような難聴には、唯一の治療法として人工内耳を埋め込む手術がある。

「人工内耳埋め込み術は、難聴の最新の治療法なのですが、実際に埋め込んだ患者さんの話を聞くと、術後時間がたっても聞き取れない人が多いです。もう少し技術が熟成するまで待ちたいですね」(秋津先生)

 手術費用が総額400万円ともいわれており、本当に手術をすべきかは慎重に判断したいところだ。

お話を聞いたのは……

谷口恭先生●太融寺町谷口医院院長。文系大学卒業後、社会人を経て医学部入学。どんな人のどんな症状も診察する総合診療にこだわりながら、ウェブなどで情報を発信している。

寺田武史先生●アクアメディカルクリニック院長。精力的に情報を発信し、新著『なぜ、人は病気になるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)はAmazonで発売中。

秋津壽男先生●秋津医院院長。テレビ東京系『主治医が見つかる診療所』では、「何でも解決スーパー町医者」として初回からレギュラー出演。出版物や講演、テレビ出演など多数。

水上治先生●健康増進クリニック院長。がん・難病・アンチエイジングを中心に、皆がより健康になる運動を展開。『世界一受けたい授業』などへのテレビ出演も多数。

(取材・文/高宮宏之)