「回転ずし大手各社は、これまでなんとか値上げをせずに我慢してきました。本来であれば、とっくに限界を迎えていたんです」と話すのは、テレビ番組の『回転寿司通選手権』で優勝経験もある、回転寿司評論家の米川伸生さん。
値上げを決めた回転寿司各社の悲鳴
大手4社の中で最初に値上げを発表したのはスシロー。同社が100円のすしを値上げするのは創業から38年の歴史の中で初めてのことで、長年守ってきた100円ずしが、10月以降は110円(税込み120円)になる。これに続いたのがはま寿司。くら寿司もメニュー改定で実質的な値上げに踏み切った。かっぱ寿司は現段階で値上げの予定はないが、置かれている状況は厳しい。
「ロシアによるウクライナ侵攻などの影響で、原材料費や運送費が値上がりして、どこも本当にギリギリです。いっせいに値上げの発表をしたということは、各社とも値上げをするタイミングを見計らっていたのでしょう」(米川さん、以下同)
各社の値上げに共通するのは最低価格のメニュー数がぐっと少なくなること。例えばくら寿司。価格は100円のままだが、メニューの8割弱を占めていた100円ずしを約6割にまで縮小し、200円のメニューを増やした。こうした実質的な値上げは、今後も増えていく見込みだ。
「100円のネタの利益はもともと少なく、一皿5円程度。仕入れ価格の上昇により1円とか2円になってしまっては、企業としてやっていけません。今後、100円で食べられるメニューは、どんどん減っていくでしょう」
回転ずし=100円ずしの時代は終わりそうだ。円安の影響で生活必需品が次々と値上がりしている昨今、ハレの日の楽しみである回転ずしまで値上がりしてしまうと家計にはかなり痛手。
それでも、安く楽しむためには、いままで以上にコスパが大切。家計に優しく回転ずしを満喫するには、いったいどうすればいい?
値上げを発表した大手回転寿司チェーン
スシロー 100円→110円(10月1日から)
くら寿司 100円商品縮小(7月8日から)
はま寿司 平日寿司一皿90円を終了(7月1日から)
期間限定フェアを見逃すな!
「回転ずしの値上げはたしかに痛いですが、悪いことばかりではないかもしれません」
今後さらに充実していくと米川さんが予想する、期間限定フェアがお得のカギらしい。
「短期間しかない特別なメニューで他社との差別化を図り、リピート客を増やしていくというのが今後のフェアの戦略です。実は大手以外ではかなり以前からその方向にシフトしていて、今後、この流れは大手チェーンでも加速していくと考えています」
そのため、一部の人気商品だけを残し、いつでも食べられるグランドメニューは極端に減ると米川さんは予測している。実際、4、5年前とメニュー数を比べると、すでに半分ほどになっているという。
期間限定商品は、いかにいい品を安く仕入れたかの工夫が出やすい。そこにどんなネタをいくらで出すのか。各社の力量が試されるのだ。
フェアの見極め方
コスパよく回転ずしを楽しむ最大のコツの限定フェア、選び方も大事だと米川さん。
「フェアに大ハズレはほとんどありません。というのも、フェアの計画は1年単位で決まっているので、前もって準備ができます。フェアに合わせて、いいネタを安いタイミングで仕入れられるのです。ただ、店ごとに得意なフェアは違います。大手4社の特徴を知って、賢く回転ずしを満喫しましょう」
大手4社それぞれの押さえておきたいフェアを米川さんに教えてもらった。
◆スシロー 倍盛りなどのボリューム系。中でも厚みが2倍になる「倍トロ」は見た目も圧巻。
◆くら寿司 中トロのフェア。普段は1貫200円と大手の中では比較的高額な商品が半額になることも。
◆はま寿司 「100円祭」のほか、他社よりも力を入れている肉握りも魅力。
◆かっぱ寿司 「カニ祭り」など、カニを使ったフェア。カニカマを使ったサラダ軍艦が代表ネタだが、実は本物のカニにも強い。
スシローのおとり広告騒動が記憶に新しいが、本当にお得なのだろうか。
「あの騒動は、安くおいしく提供しようとしすぎたために起こったもの。予想を超える売れ行きになり、店がパンク状態になったのでしょう」
今後は改善されるはずだという米川さん。では、行かないほうがいい、コスパの悪いフェアはなんだろう。
「“100円のメニューが少ないフェア”です。値段が高くてうまいのは当たり前。どんな高級食材が目玉のフェアでも、お得でなければ意味がない。フェアの良しあしは安さです」
また、メニューにないレーン限定商品を逃さないことや、アプリやLINE登録でゲットできるクーポンを使うなどのお得術も駆使すれば、コスパアップは間違いなし。前ページで紹介したお得術5選をぜひチェックしてほしい。
安い時期にネタを仕入れ、保管しておいて安く提供する。これが実現できているのは、冷凍技術の賜物だ。ひと昔前は選んではいけないネタの代名詞だったアジやイワシなどの青魚でさえも、格段においしくなっている。
ただし、それだけ技術が発達した現代でも、選んではいけない要注意ネタがある。それが、ウニだ。
「ウニの性質上、仕方がないことなのですが、大手チェーンの価格で出せるレベルのウニは、解凍する際に溶けてソースのようになってしまうんです。粒の立ったおいしいウニは、まず味わえません」
回転ずしは原価率だけでは測れない時代。お得なフェアやお得なネタを見極め、積極的に“使いこなすこと”が、満足度を上げるカギ。工夫しだいで、回転ずしはまだまだコスパよく楽しめる。コツを知って、お得をつかもう。
知っておきたいお得術5選
【1】とにかく「期間限定フェア」が狙い目
大手チェーン店では、約2週間おきに期間限定商品を提供するフェアを開催。新しい客を獲得するために、通常のメニューには並ばない高級ネタをいかに安く、もしくはボリュームをもって提供するかを各社が競う。
その結果、原価率60%近くになるネタも登場するというお得な状態に。飲食店の一般的な原価率は30%前後といわれている中、これはかなり異例。このお得なチャンスを逃すわけにはいかない!
【2】「レーン限定商品」を見逃さない
最近は卓上のタッチパネルや自分のスマートフォンから注文できて、すぐに運ばれてくるため、レーンに流れている皿を取らなくなった、という人も多いだろう。実はそれ、損をしているかも。
柵をカットしているときに出た高価な魚の端材を使ったお得な軍艦や希少部位など、メニューにも載っていないすしがレーンに流れることもあるのだ。運とタイミングしだいでは超お得なネタに出合えるかも。
【3】アプリやLINE登録でクーポンゲット
席の予約に便利な公式アプリやLINE公式アカウントに登録しておけば、一皿無料や30円引きなどのクーポンが手に入る。特にLINEは利用する店舗独自の「雨の日クーポン」などを発行していることも多いので近所の店舗はぜひ登録を。
【4】サイドメニューでお得に味変
メニューを組み合わせれば、おいしさとお得感がアップ。米川さんのオススメは、くら寿司のくら出汁とうなぎずしでできるひつまぶし。うなぎずしを浸すだけで上品になるのだとか。ほかにも、卓上のあまダレと七味をかければ、ジャンクな風味になってグッド。
【5】「うどん先食べ」でお会計を抑える
とにかく安く抑えたいなら、まず最初にうどんを食べる。それでお腹をある程度満たし、そのあとで好きなすしをつまむのがおすすめ。実はこれ、大阪ではポピュラーな食べ方。あまりお金をかけたくない平日の昼食などに実践してみては。
絶対食べるべきおすすめネタ
【1】マグロの赤身
回転ずしに限らず、圧倒的な人気を誇るマグロの赤身。それゆえ、各社ともに自信を持って提供している商品でもある。
「定番の人気商品なので、できるだけ安く提供しています。これを食べないとソンですよ」
【2】ハマチ
マグロに並ぶ人気を誇るネタといえば、ハマチ。こちらも仕入れ値は高騰しているが、各社ともなんとか100円を維持している。しかし、限界は近いかもしれない。
「値上がりまでに時間はないでしょう。100円で食べられるのは今のうちです」
【3】はま寿司・大トロサーモン
大トロサーモン2貫を100円で提供しているのは、はま寿司だけ。ほかのチェーン店に比べて半額ほどお得でありながらおいしさは同じ。
「この安さで食べられるのは異例です。サーモン好きにはたまらない一皿でしょう」
要注意したいネタ
【1】ウニ
スシローの“品切れ”おとり広告問題でも話題になったウニだが、おいしい状態で提供するのが技術的に厳しいのだ。
「特に夏場は難しいでしょう。今後の技術の進歩に期待したいですね」
【2】ボイルえび
「蒸した海老は、本来ジューシーなもの。でも回転ずしではパサパサなものばかりですよね」。それならば、同じ値段の生えびのほうが魅力的。わざわざボイルえびを選ぶ理由が薄い、という点からランクインだ。
【3】ホッキ貝
冷凍技術が及ばないという点では、こちらも要注意。
「同じ貝でもおいしいものは増えてきましたが、ホッキ貝はまだまだ。ただし、スシローの期間限定ネタの生ホッキ貝など、店内で捌いているものは別格です」
(取材・文/石井 良)