「特別に仲の悪い親子でもなかったんですけどね。どうしてこんなことになってしまったのか、わからなくて……」
と近所の住民は突然の訃報に困惑していた。
石川県警大聖寺署は18日、同県加賀市の東谷直人容疑者(54)を自殺教唆の疑いで逮捕した。全国紙社会部記者が説明する。
「東谷容疑者は16日の朝6時ごろ、同居していた母親(78)のそばに包丁を置いて、“はよ、死ねや!”などと暴言を吐いた。すると、母親はその後、納屋で自ら命を絶っていた」
暴言を吐いてから3時間後の午前9時ごろ、容疑者が母親の変わり果てた姿を発見。だが、自宅から200メートルほどの駐在所には駆け込まず、勤務先の運送会社の同僚に電話をしている。
「母親が首を吊っているので、仕事を休みたい」
不審に思った同僚が110番通報したのは、10時24分であった。
「当初は事件性のない単なる自殺だと思われたが、捜査員が容疑者に事情聴取を行い、現場の状況などから不審な点を突くと、“母親に自殺するように言った”と供述しました」(捜査関係者)
容疑者は母親とふたり暮らし。自宅は60年以上前からある一軒家だという。
「以前は祖父母と両親、長男の直人くん(容疑者)、弟と6人で住んでいましたね。父親は市役所の職員、母親は近所の水産会社で働いていました」(近所の主婦)
そんな両親のもとで育った容疑者だったが、幼少期から少々きかん坊だったという。
「弟さんと比べると、ずいぶん、やんちゃな子でしたね。大人になると、酒癖が悪いという評判もありましたよ」(同・近所の主婦)
容疑者は成人して間もなく家を出たという。
「近隣の町に住むお嬢さんと結婚、婿入りしたと聞いています。奥さまとの間に女の子2人も生まれて幸せに暮らしていたようですが、6年前に離婚。それで、容疑者だけ実家へ戻ってきたんです。お母さんとしては、長男坊が戻ってきて嬉しいやら、離婚して悲しいやら、複雑な心境だったんじゃないかな」(近所の別の住民)
容疑者はトラックのドライバーをしていて、早朝に出勤して帰宅は夜中という生活。そのため、近隣住民たちは“(容疑者の)顔を一度も見たことがない”と口を揃える。
一方、母親は70歳まで水産会社で働いて退職。最近は自宅に植えた植物の世話をしたり、近所のお年寄りとコーヒーを一緒に飲んだりして悠々自適な生活を送っていたという。前出の近所の主婦によると、
「本当にしっかりした、几帳面な人。事件の10日前にはカレーをお裾分けしてくれましたよ。畑でとれたキュウリもときどきくれるし、優しい人です」
だが、めっきり耳が遠くなったという話も。
「みんなとなかなか会話できないようになってきたんです。それで近所付き合いもだんだんしなくなっていたし。加えて、近ごろは認知症の気配もあって……」(同・近所の住民、以下同)
こんな愚痴もこぼしていたという
「ときどき“長男(容疑者)が酒を飲むと喧嘩になる”と言っていましたよ。あの子もふだんは悪い人じゃないんだけど、酒が入るとね」
酒に酔った勢いで放った“暴言”か
事件のあった日も酒を飲んでいたのでは、と近所の主婦。
「お盆の最中だったし、きっと酒を飲んでいただろうね。それで母親とまた口論になって、ついあんなことを口走ってしまった。“お盆でお父さんも帰ってきているし、一緒に天国に連れていってもらおう”とか、思っちゃったんじゃないかな」
実は、容疑者の父親も70代半ばでみずから命を絶っていた。しかも、今回の事件現場となった同じ納屋で……。
容疑者が暴言を吐いてから、母親の死体を発見するまでの「空白の3時間」。酔い潰れた容疑者がふと寝た3時間のうちに母親が首を吊ってしまったのか−−。捜査関係者は「その辺りは今後、捜査して明らかにしていきたい」とのことだった。
静かな町で起きた悲しい事件だった。容疑者は警察の取り調べが続いているなか、母に言ってしまった暴言をしきりに後悔し、反省しているという。