老いた親にとって家の片づけは大作業。衰えるいっぽうの気力体力を振り絞って捨てたり整理したりは、もはや無理だ。子世代もいつかやらねばと思いつつ目を背けがち。片づけを急ぎ、親にとっては大切なモノを勝手に処分してもめることも。話題のキーワード「親家片」を難なくこなすテクとは?
モノに支配された家
社会問題となっている空き家の増加。全国の空き家は8軒に1軒の割合にものぼる(総務省統計局「住宅・土地統計調査」の最新結果、2018年)。そこに潜むのが、老いた親の家の片づけが進まないというもうひとつの問題だ。
いわゆる親家片(親の家の片づけ)に詳しい実家相続介護問題研究所代表の江本圭伸さんは、現場で見聞きする事情を踏まえて語る。
「相談を受けてお客様の実家に行くと、モノであふれ返りゴミ屋敷と化しているケースは少なくありません。高齢になるにつれて親は片づけの体力を失い、家がモノに支配されていく。
同時に、通販などで手軽に買い物することが増え、輪をかけてモノは多くなります。いざどうにかしたくても、ゴミの処分方法が複雑になって対応できない……。一方、子は子の立場で、実家の片づけの前に立ちはだかる幾重もの壁が存在します」(江本さん、以下同)
いま始めなければ自分の子どもに迷惑が
親の施設入居や他界後、実家は空き家になりがち。片づけを余儀なくされるわけだが、わかっていながら手をつけられないという人もいるだろう。
「理想は、できるだけ早く取り組むこと。そうしないと自分自身の体力、気力も衰えて、片づけが困難になるからです。加えて、孫世代からの相談が増えている現状を鑑みると、将来お子さんに迷惑をかけることにもなりかねません」
しかし、急ぎたくても現実は思いどおりにいかない。
「実家の片づけは、生前整理(生きている間に、資産や身の回りのものを整理し、見直すこと)と遺品整理(故人が遺した生活用品や思い出の品を整理し、処分すること)に分けられます。望ましいのは親の生前に取り組む前者なのですが、私たちの経験上、それは1割以下。9割以上が親亡き後の遺品整理となっています」
それはなぜなのだろうか?
「子にはガラクタに見えても、親にとっては大事なもので捨てられない。意見の衝突から親子ゲンカを招き、仕分けが進みません。そもそも生前整理は親が死ぬ前提と捉えられ、老いた親からすれば受け入れ難いもの。結局、挫折してしまうのが常なのです」
うまく進めるには、誰がどう行うかなど片づけの方法をリサーチ。そのうえで話を持ちかけるタイミングが重要だ。
「親の入退院や身内の葬式などの際、『そろそろ、家を片づけておくべきでは』と提案するのがいいかもしれません。自分では言いにくいなら、片づけや家の査定を担う専門業者に見積もりついでに相談し、第三者の意見として伝えるのもひとつの手でしょう」
業者に任せた結果“実家ロス”に
ハードルは親の説得だけではない。子自身が片づけ=親の生きた証しの処分と感じ、罪悪感から躊躇する場合もある。実際、親の死後も実家を片づけられず、空き家の維持に年間数十万円を支払い続けている例は少なくない。
では、プロに依頼するのが正解なのか。費用は賃貸か一戸建てかで変わるものの、相応の負担は必至だ。
【片づけ業者の費用の目安】
賃貸/2LDK 15万~20万円
賃貸/3LDK 30万円
一戸建て 20万~100万円
「業者に頼めば片づけは1~3日で終わります。その代わり、気持ちを整理する時間が持てない。“実家ロス”に陥りやすいのです」
大変な作業でも、片づけに向き合うこと。するとそこで数々の品に出会い、親の思いを知ることができるのだ。
「最近、写真など思い出の品が散乱する現場によく出くわします。多くは孫世代のお客様で、『すべて捨ててください。自分のものではないので』とドライな対応をされる。なんだか寂しいですよね」
はたして、親の家の片づけは子の義務なのか。後悔なく片づけるにはどうしたらいいのか。
【親家片・実家じまい】
理想的な進め方
家の査定をする
事前準備として、不動産業者に実家を売却した場合の価格査定を依頼する
親やきょうだいを説得する
実家の片づけを親やきょうだいに打診。売れることがわかっていると協力を得やすい
荷物の仕分け、処分
荷物を必要なもの、不要なもので仕分け、整理。片づけの専門業者に依頼するのも手
家の売却を業者に託す
空き家となる場合、売却も検討。不動産業者に託して売れれば実家じまいできる
教えてくれたのは…
江本圭伸さん
くらしの解決研究所にて、高齢者の住まいの相談を受けている。親の家の片づけ、実家じまいの事情に精通し、その相談およびサポートを行っている。全国各地の実績も多数あり。https://kurashi-2020.jp/