2人に1人ががんになる時代。患者を治療する立場の医師ががんになることも少なくない。今回話を聞いたのは大腸がんと腎臓がんを経験した垣添忠生先生。生き延びるために、どんな手立てをうったのか。
大腸がんと腎臓がんを早期発見、筋トレを始めて血糖値も正常に
垣添先生は、国立がんセンター研究所でがんの基礎研究に携わった経験に加え、泌尿器がん専門医として、長年がん治療の最前線で活躍。同時に、国のがん対策推進や、患者や遺族の支援活動にも尽力してきた。
一方で大腸がんと腎臓がんの経験者であり、最愛の妻を14年前にがんで失った遺族でもある。妻の闘病と、遺された苦しみを綴った著書は大きな反響を呼んだ。
まさに「がんのあらゆる局面を経験した」という垣添先生。自身のがんに対しては、どのように向き合ったのだろうか。
「22年前、大腸がん検診の便潜血検査で陽性になり、大腸内視鏡検査で3つあったポリープを切除。そのうちの1つに大腸がんがありました。結局、1日も仕事を休みませんでした」(垣添先生、以下同)
腎臓がんは、自ら設立に携わった「がん予防・検診研究センター」で見つかった。検査を体験しようと、一受診者として自費で申し込んだ検査項目の1つの超音波検査で、モニター画面に映った左腎臓に小さな影を認めたのだ。
「“ああ、あそこにがんがあるな”と、すぐにわかりました。さっそく妻に、“腎臓にがんがあったよ”と報告したら、うれしそうな私の顔を見てあきれていました(笑)。早期で見つけることができてよかったと思ったのでね」
開腹手術で左腎臓を部分切除。3週間後には、スイスで行われた会議に出席した。
「どちらも初期でしたから、動揺もなかった。がんは初期にはまったく症状がないこと、早期発見なら身体の負担も少ないことを身をもって体験しました」
がんになって、やったことは、まず運動だった。
「糖尿病や肥満は、がんのリスクを高めます。私は少し糖尿の気があって、家族に糖尿病もあるので、予防を考えて生活しています」
朝は1時間早く起きて筋トレとストレッチ。通勤時はひと駅分を歩く。夕食後、血糖値が上がりやすい時間には、踏み台昇降を400歩上り下りした。すると血糖値は正常化。大腸がんの手術後もたびたび見つかっていたポリープもできなくなった。
「亡くなった妻は、最期は希望どおり自宅に戻れて、とても喜んでいました。私も高齢単身者ですが、家で最期を迎えるためにも身体を鍛えておきたいですね」
がんになったら、まずやめるべきは喫煙だと専門医の立場からも口調を強くする。
「たばこに含まれる発がん性物質は、肺はもちろん、唾液にまじって食道や胃にも悪影響を与えます。吸収されて血管に入れば、発がん性物質が全身にまわることに。私は若いころに少し喫煙していましたが、もし今、たばこを吸っていたら、絶対にやめてほしいですね」
先生は今後も取り組んでいきたい目標として、(1)がん検診の受診率向上、(2)がんサバイバーの支援、(3)在宅医療・看取りの支援、(4)遺族の心のケアの4つを柱としている。
「検診で早期発見すれば、がんは怖くない。なのに、日本のがん検診受診率は50%以下です。大腸がんの便潜血検査で陽性でも、精密検査を受けなくては意味がない。放置したばかりに、がんが進んでしまった悲劇を、私は多く目にしてきました」
また、がん患者に対する偏見や、就労上の差別も問題だ。2人に1人ががんになる時代、「普通の病気のひとつなのに、隠さなければいけないような社会はおかしい」と強調する。
「10数人が集まったとある会議では、半数ががん経験者でした。ドラマでは“がん=死”のような描かれ方をしますが、実際は違う。元気に暮らすがん患者は大勢います」
がんサバイバー支援活動として、のぼりを掲げて九州から北海道まで歩いたことも。
「私は今年81歳。残りの人生でやりたいことをやるには、やはり足腰を鍛えないといけません。身体を張らないと、口先だけでは人は動いてくれませんからね(笑)」
始めたこと「食後の踏み台昇降」
がんのリスクを高める糖尿病を予防しようと、血糖値の上がる食後に踏み台を上り下り。「太ももや臀部の大きな筋肉に血糖が吸収されるので効果大。足腰の筋トレにもなります」
(取材・文/志賀桂子)