緊張した面持ちで『全国戦没者追悼式』に出席された天皇皇后両陛下(8月15日・千代田区)

 東京都内では最多の猛暑日を観測するなど、とりわけ厳しい気候が続いた今年の夏が終わりを迎える─。

「行動制限を伴わない夏休みは3年ぶりでしたが、天皇ご一家は変わらず“おこもり生活”を継続されています」(皇室担当記者)

オンラインならではの“副産物”

 皇太子時代からご一家は、例年8月に栃木県の『那須御用邸』などへお出かけになっていたが、一昨年と昨年に続き、今年も見送る形に。

「当初は実施する方向で進められていたものの、随行する職員の感染対策が難しいことや、ご静養中に感染者が出ると地元に迷惑をかけてしまうことを考慮し、中止を余儀なくされたとか。かねてコロナの猛威によって苦しむ国民に心を寄せ続けてこられた両陛下と愛子さまは、“自ら感染を広げるわけにはいかない”とのお考えだといいます」(同・前)

 一方、秋篠宮家をはじめとする皇族方は、今春から地方訪問を再開。この夏も、秋篠宮ご夫妻が『全国高等学校総合体育大会』のために徳島県を訪問されたり、佳子さまが北海道で開かれた『全国都市緑化祭』へ臨席されたりと、遠方に出向く機会は多かった。

「両陛下は依然として都内で行われる公務のみに出席されています。昨年12月に成年皇族となられた愛子さまのお出ましは、まだありません」(皇室ジャーナリスト)

 コロナ禍が皇室に与えた影響は甚大だ。天皇誕生日の一般参賀や、毎年春と秋に各界の功労者たちを招いて催されてきた『園遊会』は令和になってから1度も行われていない。

「ただし、オンラインを活用した公務は、未曾有のパンデミックによる“副産物”ともいえるでしょう」(同・前)

 東京都の小池百合子知事が「第7波に入った」と発言した翌日の7月8日にも、両陛下は青森県にある幼保連携型認定こども園『よしのこども園』をリモートで訪問された。例年は東京都内の施設が選ばれることが多かったが、

「オンライン形式でなければ、本州最北端の『下北半島』に位置する当園の様子を両陛下にご覧いただくご縁に恵まれなかったと思います。スタッフたちにとって、本当に励みになりました」

 そう話すのは、園長を務める真手めぐみさん。

子ども食堂や学習支援などの活動を説明すると、両陛下は地域との交流やコロナ禍での苦労について質問されたという。
 こども園を利用している小学生や、ボランティアの高校生・大学生と懇談した際には、こんな出来事もあった。

「両陛下とやりとりする中で、小学生が言葉に詰まってしまうことがありました。黙って間を置くべきか、別の子に話を振るべきか私が悩んでいたところ、雅子さまが“こういうところが楽しいのかな?”と、子どもの目線に合わせて、答えやすいようにお声がけをしてくださいました。優しい眼差しとあたたかいフォローが画面越しに伝わり、子どもたちの緊張もほぐれていきました」(真手園長)

“大事な夏を乗り切った”ことに安堵

 ノーマスクでの会話は、リモートならではのメリットだ。 7月27日、雅子さまは約2年7か月ぶりの“皇室外交”をまっとうされた。

「インドネシアのジョコ大統領夫妻をお住まいに招かれました。淡いピンクの着物をお召しになった雅子さまは、大統領夫人に出身地を質問されたりしたといい、お見送りの際には、両手を合わせたインドネシアの挨拶を披露されました」(前出・記者、以下同)

 8月に入ってからは、皇后としての“重要公務”を立て続けにこなされた。

こども園をオンラインで視察された両陛下は、ブルーのシャツを合わせた装い(7月8日)

「8月10日には優れた看護師などに贈られる『フローレンス・ナイチンゲール記章』の授与式へ。日本赤十字社の名誉総裁として出席し、3年ぶりに受章者に記章を手渡されました。この式典は、皇后さまが単独で出席される数少ない公務のひとつで重みもありますが、緊張を感じさせない柔和なご表情でした」

 翌週の終戦の日、8月15日には天皇陛下とともに『全国戦没者追悼式』へご参列。

「雅子さまのご体調はいまだに波があり、公務に出席するかどうかは基本的に直前までお決めになりません。ですが、雅子さまのご臨席なしには成り立たないこれらの式典には、前もって出席のご意向を示し、準備してこられました。

 追悼式を終えて会場を後にされる際、沿道で手を振る人々に対して会釈を繰り返される雅子さまは、“大事な夏を乗り切った”ことに安堵されているようにも見えました

 国民の前にお出ましになる機会は多くなくとも、“今できること”を着実に遂行しておられる雅子さま。そんな中、ついに地方公務再開の兆しが見えた─。

“四大行幸啓”のひとつである『国民体育大会』が10月1日に栃木県で開幕するのに合わせ、両陛下も足を運ばれる方向で準備を進めておられます。国体の開催地は毎年、各都道府県の持ち回りで、栃木県であれば公共交通機関を利用する距離ですが、駅頭や沿道に人が集まることでの感染リスクに配慮し、車での移動が検討されているそうです」(宮内庁関係者)

 宮内庁OBで皇室ジャーナリストの山下晋司さんは、こう話す。

雅子さまの不安は常に隣り合わせ

「『お召列車』を使用される場合は、列車ダイヤの関係で1か月前には発表する必要がありますが、車の場合は比較的直前でも関係各所は何とか対応できます。実際に訪問されるかどうかは感染状況次第ですが、常に“現地に行く”前提で準備を進められていると思います」

 両陛下が東京都外の行事に直接参加されたのは'20年1月が最後だが、“移動解禁”の日は刻一刻と迫っている。

「10月に沖縄県で始まる『国民文化祭』や、11月に兵庫県で行われる『全国豊かな海づくり大会』は、国体、植樹祭と並ぶ両陛下の四大行幸啓です。令和になった'19年、皇后陛下は四大行幸啓に合わせて体調を整えられた結果、すべての行事に出席されました。訪問先で多くの国民に歓迎されたことは、皇后としての自信につながったことでしょう」(山下さん)

7月27日、マスク着用などの感染対策を講じ、会見されたインドネシア大統領夫妻と天皇皇后両陛下

 今秋に控える各行事に期待が集まる一方で、どうも雅子さまには畏縮されているご様子もあるようで……。

「実際の訪問に向けて準備されても、結局はコロナ次第でオンラインになりうるというのは、数か月前から照準を合わせる雅子さまにとっては非常に難しい環境といえます。

 責任感がお強いからこそ、出席するからには、前回同様かそれ以上のパフォーマンスを発揮しなくては、というお気持ちもおありでしょう。さまざまな場所を訪れ、できるだけ多くの国民と接したいという気概と、万全の状態で臨めるかという不安は常に隣り合わせなのです」
(前出・宮内庁関係者)

 とはいえ、国母としての自信を取り戻す機会もまた“リアル公務”なのだろう─。


山下晋司 皇室ジャーナリスト。23年間の宮内庁勤務の後、出版社役員を経て独立。書籍やテレビ番組の監修、執筆、講演などを行っている