《六本木クラスの唐揚げめちゃ食いたいんだけど…ドラマ見ながらいつも思う笑》
《長屋の唐揚げと、二代目みやべの唐揚げ両方とも食べてきました。美味しかったです》
'20年にNetflixで配信された韓国ドラマ『梨泰院クラス』のリメイク版として放送中の『六本木クラス』(木曜21時、テレビ朝日系)。25日に放送された第8話の視聴率は10・0%となり、第3話で7・0%まで落ち込んだもののV字回復を見せている。冒頭のコメントのようにドラマ内で登場するから揚げがSNS上で話題だ。
物語の鍵になるメニュー
ドラマ内のから揚げとは巨大外食企業側である『長屋ホールディングス』の出発点となった『しょうが味噌から揚げ』。それにちなんだ商品が『から揚げの天才』とコラボして誕生した。ドラマがスタートした7月7日の翌日から発売され、放送後から約1か月で例年の期間限定品に比べ3倍の10万個を売り上げた。『から揚げの天才』の各店舗で売り上げ第1位、過去最速販売数となっている。
コラボ第2弾の『にんにくコーラから揚げ』も登場し、第1弾を上回る勢い。ドラマ内では、このから揚げは宮部新(竹内涼真)が経営する居酒屋の看板メニューだ。マネージャーとなった麻宮葵(平手友梨奈)がダメ出しを繰り返しつつ、料理担当の綾瀬りく(さとうほなみ)が試行錯誤の末に作り上げたというストーリーが描かれている。
大反響を呼んでいる『六本木クラス』のから揚げだが、『梨泰院クラス』ファンからは疑問の声が上がっている。本家『梨泰院クラス』では、から揚げではなく、チゲだったからだ。ドラマ事情に詳しいフリーライターの田幸和歌子さんはこう解説する。
「本家『梨泰院クラス』における純豆腐チゲは、外食産業大手『長家』が業界トップにのし上がったという物語の鍵になるメニューです。チゲは韓国の歴史と伝統を受け継ぐ料理。コチュジャンを使ったメニューで、発酵食品であり作り手の体温や菌により味が変化するので、日本版で置き換えるなら、漬物などの発酵食品だとよかったのかも」
『梨泰院クラス』内では『長家』オリジナルのコチュジャンと、それを使った料理が『長家』を救ったというストーリーがある。それをから揚げに置き換えるのは無理があると思う人は多いのかもしれない。
から揚げになったのは、『から揚げの天才』とコラボの話があったためだろうか。『から揚げの天才』を運営するワタミ広報に聞くと、
「お声がけいただいた際には、から揚げでやることはすでに決まっていました。そのうえでドラマに起用するから揚げの考案と、コラボ商品としての販売を行わないかというお話でした。当社以外にも候補はあったと思いますが、スピーディーに対応できる点で選んでくださったのかもしれません。『梨泰院クラス』は以前から社内で見ている人も多かったので、トントン拍子で決まりました」
プロデューサーにも話を聞いてみた
ワタミ創業者であり代表取締役会長兼社長の渡邉美樹氏も『梨泰院クラス』を全話見ていたという。自身が仲間たちと店を大きくしようと頑張っていた若いころを懐かしく思ったそうだ。社員の方にドラマを見るようおすすめもあったとか。今回のコラボから揚げは、ワタミ側からさまざまな案を出したという。
「第2弾のから揚げは平手さんが演じるインフルエンサー役の葵も考案に関わっている設定だったので、見た目にもこだわりたいという話になりました。それで、駄菓子店で売られているようなシュワシュワする白い粉を振ったものに。メニューのアイデアはこちらが提案させていただきました」(同・ワタミ広報)
『から揚げの天才』にコラボ商品の話があった段階で、ドラマ内で使用するメニューもコラボ商品にすることは決まっていたようだ。だが、チゲがから揚げに変わった経緯はコラボありきというわけではなさそう。
さらに真相を探るべくテレビ朝日に問い合わせると『六本木クラス』の番組プロデューサー西山隆一さんに話を聞くことができた。
「本家『梨泰院クラス』の純豆腐チゲですが、最初から日本が舞台の『六本木クラス』でやるには違うよねとスタッフの間で話していました。メニューはいろんな候補が出ていて、ラーメンや蕎麦にしようという案もありました。ただ、麺類がメインだと、お店の業態自体も変わってきますよね。『梨泰院クラス』が飲み屋だったことから、いわゆる“日本の居酒屋”でいこうとなり、その中でのメニューをと考えました。
実際ドラマにも登場しましたが、もつ煮込みがいいんじゃないか、という意見は有力でした。ただ、結局、から揚げになったのは、一般家庭の味でありながら、日本では特化した専門店もある。そして大手チェーンもやっているのがこのドラマの設定にぴったりだったから。竹内さん演じる宮部新という個人がお店で名物料理としてやっていてもおかしくない。そうした理由でから揚げになりました」
さまざまなメニュー候補があったものの、から揚げがドラマの設定として合っていたようだ。から揚げであれば、専門店もたくさんあるため、せっかくならタイアップができたらいいとワタミに声をかけた。
「ワタミさんの本社に6、7回は通いました。熱心に取り組んでいただき、毎回10種類以上、試作品を出してくれて。キッチンのある場所で、試食やディスカッションを重ねました。肉をやわらかくする効果のあるコーラを仕込みの段階で使うというアイデアは昔からあるようですが、最近、専用コーラも発売されたそうですし話題性としてはいいですよね」(西山さん)
チゲでなく“からあげ”にしたことで深まるストーリー
専用コーラとは6月にサントリーから発売された『PEPSIからあげ専用』のこと。から揚げとコーラの組み合わせはちょっとしたブームなのかも。ドラマはクライマックスに向け、新たなから揚げメニューが登場するが、それに合わせて第3弾のコラボから揚げも企画されている。
チゲ鍋が日本版でから揚げになるなど変更点はあるものの、前出の田幸さんは『梨泰院クラス』を忠実に再現している点に目を見張る。
「会長の部屋のセットなどもそうですが、画作りも本家とそっくり。新の店の上から撮影するカメラワークなども日本版をやるうえで、忠実にやれと言われているのかと(笑)。そういった意味で注目なのが中尾明慶さん。『梨泰院クラス』の俳優さんと見た目は似てないのに、なぜかそっくりに見えて。中尾さんの器用な演技やカメラワークの賜物ですね」
竹内の髪型も『梨泰院クラス』のパク・セロイに寄せているなど、忠実な再現は話題だ。そんな中で純豆腐チゲをから揚げに変更したことはストーリーとして意味が深まった部分があったと田幸さんは分析する。
「『六本木クラス』1話目のラストですが、香川照之さんが演じる長屋茂が、息子である早乙女太一演じる龍河に鶏を絞めさせるシーンがあります。“この鶏は宮部新だ、わたしの息子なら、長屋の後継者ならやるんだ”と。香川さんと早乙女さんの熱演も相まって非道さが伝わったシーンでした」
本家『梨泰院クラス』にもあるシーンだが、純豆腐チゲよりから揚げのほうが腑に落ちる人が多そう。今後のシーンでも、香川がチゲをすするより、から揚げに食らいつく姿のほうが迫力があるだろう。から揚げがドラマ後半の盛り上げの鍵を握りそうだ。