中学時代の山本巧次郎容疑者(SNSより)

「彼女に初めて会ったのは2年以上前。引っ越してきたときに“よろしくお願いします。学生です”と礼儀正しく挨拶してくれたのをよく覚えています。ひとり暮らしというので“困ったことがあったら言いなさいよ”と声をかけると、“ありがとうございます!”とにっこり笑っていました。感じのいいお嬢さんなのに、どうしてこんな目に遭わなければならないのか。まだ20歳ですよ……」

 と同じマンションの男性住人はやりきれない表情で話す。

 事件は8月26日午後10時40分ごろ発生。大阪府堺市西区にあるこのマンション脇の路上で「男が女性を刃物で刺している」と通行人から110番通報があった。

 府警西堺署の警察官が駆けつけると、若い女性が血を流して倒れており、そばにいた男が「刺した」と認めたため殺人未遂の疑いで現行犯逮捕。女性は病院に搬送されたが、死亡が確認された。

事件のあったマンション。4階から転落したとみられる(写真は編集部で一部加工)

 男は自称大学生の山本巧次郎容疑者(23)。亡くなったのはマンション4階に住む大阪物療大学3年・大田夏瑚さん(20)だった。

 西堺署によると、山本容疑者は「交際相手だ」と話し、刺したことを認めながら「殺そうとしたかは動転していて覚えていない」などと供述。現場から刃渡り約15センチの包丁を押収した。

被害女性は複数回刺され、心臓に達する深い傷も

「被害者は胸など上半身を複数回刺され、心臓や肺に達する傷もあった。司法解剖の結果、失血死でほぼ即死状態だった。両足の複数箇所にも刺し傷や切り傷があるほか、肋骨や骨盤、右上腕骨、右ひじ部に骨折があり、転落によるものと考えられる」(捜査関係者)

 事件当夜、若い女性の「助けてー」という声やキャーキャーと叫ぶ声を聞いた近隣住民がいる。

 容疑者は取り調べに対し、

「(大田さんが4階から)飛び降りた」

 と話しているという。

「被害者が飛び降りたのか、突き落とされたのか、追い詰められたのかなど転落の経緯を調べる必要がある。部屋で何があったのか、トラブルのきっかけはまだ供述がとれていない」(前出の捜査関係者)

 同署は容疑を殺人に切り替え詳しい経緯を調べている。

大田夏瑚さんは放射線技師を目指していた(大学のホームページより)

 冒頭のマンション住人は憤りを隠さずにこう言う。

「4階から地上まで十数メートル以上の高さがあり、自分の意思で飛び降りるのは相当怖いはず。私は犯行時刻の直前、男の“おうっ!”という怒鳴り声を聞いています。週末の夜だったので、近くの飲食店の酔客などが騒いでいるのだろうと思って気にせず寝てしまいました。真夜中にインターホンが鳴って“大阪府警です”というので外に出てみたら、マンションの通路や階段に赤黒い血痕が点々と残っていました。路上で刺される前に、部屋でも出血を伴う激しいやりとりがあったのではないか」

 築約30年のワンルームマンションで家賃は月3万円台。容疑者は大田さんと「同棲していた」と話しているという。ふたりのあいだにどのようなトラブルがあったのか。

酒に酔うと“DV男”に豹変!

「大田さんから悩みを相談された知人女性の話が報じられている。約2年前から交際して同棲に至ったものの、最近、山本容疑者は酒に酔うとDVをはたらいていたらしい。大田さんは顔が腫れ、からだに青アザがあり、知人女性は“別れたほうがいい”とアドバイスしたという。事件の数週間前、山本容疑者のほうから切り出して交際関係を解消したとする話も出ている」(在阪記者)

 前出の捜査関係者によると、犯行時、山本容疑者が酩酊していた様子はなかったという。

 大田さんは放射線技師を目指していた。9月末から総合病院などで10週間の臨床実習をする予定だった。

「いつも授業中は最前列に座り、わからない点があればすぐ質問に来る熱心な学生でした。先生がたは“あんないい子が……”とショックを受けています。サークル活動や部活動はせず、4年次に控える国家試験合格に向け、さあこれからという時期だったので、その気持ちを考えると非常につらいです」(大学関係者)

 大学のホームページで大田さんは、

《日々の授業の中で、わからないところを作らないように着実に学んでいき、将来診療放射線技師として働く未来のために備えていきたいと思います》

 と語るなど有言実行の模範学生だった。

「一部で誤解があるようですが、山本容疑者は本学の学生ではありません。これは否定しておきます」(同・関係者)

山本巧次郎容疑者は中学時代、剣道の全国大会に出場(SNSより)

 近隣住民によると、大田さんと山本容疑者とみられる男が一緒に外出する姿は何度か目撃されている。

「男は大田さんのうしろを歩き、すれ違うとき頭を少し下げる。痩せていておとなしそうに見えました。日曜日の朝、一緒にスーパーに買い物に出かけるときなんか楽しそうでした。裏切った男が本当に許せない」(前出の住人)

 将来に向かって歩みを進める大田さんとは対照的に、山本容疑者はくすぶった日々を過ごしていたようだ。

 前出の在阪記者は言う。

「山本容疑者とみられる男はSNSで競馬のAI予想などに関心を示していた。約2年半前には、実業家の前澤友作氏による1000人に100万円を贈呈する企画に反応しており、勉強よりも金に目が向いている。昨年11月には“病みそうや”と綴っており、大田さんとは人生観が異なっていたとも考えられる」

目立ちたがり屋だった容疑者も…

 山本容疑者は府内の貝塚市出身。小学校の同級生はその素顔をこう語る。

「明るいキャラクターでよく笑い、あえて人前に立って誘い笑いするほど目立ちたがりでした。まじめに剣道に打ち込んでいて腕前もなかなか。キリッとした眉毛が印象的でしたが、女子にモテたかどうかは記憶にありません」

 礼に始まり、礼に終わる剣道で鍛えられたのか、別の同級生の保護者は「スポーツ万能で礼儀正しい子だった」と評する。

 剣道は小・中学と続け、中学3年のとき大阪代表として全国大会にも出場。所属していた剣道クラブ関係者に人物像を尋ねると、

「褒めるのも、けなすのもできない。巧次郎どうこうで言うのではなく、被害者の親御さんの気持ちを思うとつらくて私の立場からは言えない」

 とだけ話した。

 命を救う現場で働くことを夢見た大田さんはどれほど無念だったか。山本容疑者はすべてを思い出す必要がある。

大田夏瑚さんは放射線技師を目指していた(大学のホームページより)
亡くなった大田夏瑚さん(大学のホームページより)

 

 

 

 

山本巧次郎容疑者は中学時代、剣道の全国大会に出場(SNSより)