日本におけるガム製造メーカーは大手を含めてわずか数社と、縮小の一途をたどっているガム市場。そんな中で、『オレンジマーブルガム』や『フィリックスガム』でお馴染みの『丸川製菓』は、ガムひと筋で安定した業績だとか。その理由を探るべく『丸川製菓』を取材すると、愛され続けるための試行錯誤の数々があった!
フルーツが描かれた小さな箱と丸いガム。お小遣いで買える『マーブルガム』は、『週刊女性』読者にとって、なじみ深いお菓子ではないだろうか。
その製造販売元である丸川製菓の歴史は古い。創業はなんと1888年(明治21年)。134年もの歴史を誇る老舗企業で、ガム製造を始めてからは、ほかのお菓子に見向きもせず、ガムひと筋だという。今も昔も子どもから愛されるガムを作り続ける、老舗ガムメーカーの軌跡とは。
「創業時は飴や落花生のお菓子を扱っていた弊社が、ガムを作るようになったのは戦後から。当時、アメリカからチューインガムが入ってきたのを機に、日本全国で数百社がガム製造に参入。その中の1社が弊社でした」と話すのは、丸川製菓・企画課の森学さん。
しかし乱立したガムメーカーは、品質の差や時代の流れによって淘汰。現在は数えるほどしか残っていない。
「弊社が生き残れたのは、『マーブルガム』という看板商品があったからではないでしょうか。1959年(昭和34年)の発売以来、形、味、パッケージ、価格などを変えながらも長く続けてきたので、今では親、子、孫の3世代から愛されるガムとなりました。このような商品は他にはありません」(森さん、以下同)
『マーブルガム』といえば、ボールのような丸い形が特徴だが、これは逆転の発想から生まれたものだという。
当初はブロック状のガムだった
「弊社でまず製造したのは、ブロック状のガムでした。この形はもうひとつの看板商品である『フィリックスガム』に受け継がれています。一方、これとは別に長方形のタブレット状のガムを作ろうとしたのですが、これがなかなかうまくいきませんでした。砂糖をコーティングする段階で、どうしても形が丸くなってしまうのです」
それなら、いっそのこと丸いガムに、と発想を転換。
「丸い形にすることによって、以前に作っていた和菓子のノウハウも生かすことができました。また、丸いガムが入る容器は当時、紙箱しかなかったため、現在ではおなじみとなったあのパッケージで包装することに。ちなみに、最初のころは内職の方がガムを手詰めしていたんですよ」
当時の丸川製菓では、内職のおばあちゃんたちが荷物を載せるための乳母車を押して、行列をつくっていたという。昭和ならではの、のどかなエピソードだ。
「その後、包装機械を自社で開発。これによって、子どもがお小遣いで気軽に買える低価格ガムを作り続けることが可能となりました」
今のように物流が整っていない時代。販路はどのように確保したのか。
「弊社の近くには、菓子の問屋街があります。そこに旅問屋と呼ばれる全国を回る問屋さんがあり、積極的に弊社のガムを売ってくださった。そのおかげもあり、『マーブルガム』や『フィリックスガム』が、日本全国で知られるようになったのです」
子どもが喜ぶガムを作りたい、という思いから、ガムの種類はどんどん増えていった。
「『マーブルガム』は、オレンジ、イチゴ、グレープ、ソーダなど数種類。『フィリックスガム』と同じブロック状ガムにも、コーラ、ヨーグルト、ソーダ、ブドウなど、数多くのフレーバーがあり、現在では約60アイテムのガムを製造しています」
ガム市場は縮小、少子化も進むが…
多彩な商品ラインナップが魅力の丸川製菓。しかしガムひと筋でずっと順風満帆だったかというと、そうではないという。
「実はガム市場は近年、落ち込む一方となっています。日本チューインガム協会の統計によると、2004年のピーク時に1881億円あったガムの小売額は、2021年には755億円と、半分以下に縮小。グミやタブレットの台頭などで、ガムを食べる人はかなり減っているのです」
それに加えて、少子化により子どもの数も減っている。
「子どもの数が多かった平成初期と比べると、弊社の売り上げも減少しています。しかし、少子化が進むにつれて、業績も低下しているかというとそうではなく、横ばいを維持できている。これは子どもだけでなく、大人の方が懐かしさで弊社のガムを食べてくださるからでは、と考えています」
この推測に従い、家族で食べることを想定した商品も売り出した。
「袋入りやボトル入りのマーブルガムやフィリックスガムを販売したところ、大好評でした。これらは、ドライブ時の気分転換など、いろいろな用途で大人の方も食べてくださっているようです」
丸川製菓のガムは海外でも愛されている。
「世界の子どもにもおいしさを伝えるために、弊社では1959年からアメリカや南米、アジアなど世界中の国への輸出を開始しました。業績は好調で、今では約3割が海外での売り上げです」
日本と海外で味に違いは?
「海外向けのガムは、より甘く作られています。実は、日本のガムもかつては甘かったのですが、時の流れとともに、濃い甘みが好まれなくなりました。ですから、海外向けのガムを食べると、昔の日本のガムを味わうことができます」
中東で人気のクマのキャラクター
特にウケているのはどこ?
「サウジアラビアなどに代表される中東地域です。輸出歴がかなり長いので、日本と同じように『懐かしい味』として知られています。中でも中東向けのオリジナルのガムで採用されているクマのキャラクターは大人気で、そのグッズが制作されるほど。ちなみに、このキャラクターには正式な名前がなく、現地の方が勝手にさまざまな愛称をつけて呼んでいます。弊社の社員は『チャッピー』と呼ばれているのを聞いたそうです」
キャラクターが人気となるのは、もちろん日本も同じ。
「いつの時代も子どもはキャラクターにひかれるもの。ですから、子どもたちにガムを食べてもらう工夫の一環として、その時代に合ったキャラクターをパッケージに採用しています。現在、ヒットしているのは、人気漫画でアニメ化もされている『SPY×FAMILY』がモチーフの『スパイファミリーガム』。ピーチ、青りんご、ヨーグルト、コーラの4つのガムの組み合わせで、味の変化が楽しめることもあり、子どもたちから大人気です」
インスタ映え狙いで、注目されるようになったガムも。
「弊社では『おもしろ商品』というカテゴリーで、遊べて楽しめるガムを販売しています。その中で近年、売り上げがアップしているのが、『あおべ~ミドリベ~ガム』など食べると口の中の色が変わるガム。Instagramでの「映え」を意識する、若い世代の方にウケています」
YouTubeで『マーブルガム』が話題に
昨今は、昔懐かしい駄菓子のひとつとしても、丸川製菓のガムに注目が集まっている。
「雑誌やYouTubeなどで、『マーブルガム』や『フィリックスガム』を取り上げていただく機会が増えました。ばんそうこうや巾着などにデザインを使用したコラボ商品も発売されています」
時代に合わせた試みも。
「『まいガム工房』というサイトでは、オリジナルパッケージの『マーブルガム』を作成することができます。手持ちの写真や絵をデザインできるので、ペットの写真を入れたり、気軽なご挨拶として配りたいときにおすすめです」
このようにあの手この手で、ガム業界の縮小にも、少子化にも負けずに、売り上げを維持しているという。
「『子どもが手軽に買える商品』がマルカワのコンセプト。その基本を守って、堅実にガムを作り続ける一方で、こまごまと新しい試みも取り入れてきたことがよかったのでは、と思っています」
子どもたちを喜ばせたい。その思いが詰まったガムは、日本、世界を問わず、今後も愛され続けていくだろう。
取材・文/中西美紀