野外で使うキャンプギアが災害時に役立つことは、知っている人も多いだろう。加えて、チャック付きビニール袋、ガムテープやラップといった自宅にある日用品も防災グッズになるという。防災とアウトドアに関する知識やスキルを広めている寒川さん夫妻に、緊急時に役立つ道具の使い方・選び方を聞いた。
アウトドアスキル=防災スキル
寒川さん夫妻がアウトドアの道具が災害時に役立つ、という考えを広めようと考えはじめたのは、2011年の東日本大震災のとき。
「あのような大きな自然災害に際しては、現地で被災した人々は、救援が到達するまで自力で生き延びるしかない。そういうときこそ、キャンプの経験が活躍できるのでは? 災害時に備えて道具を揃えるのではなく、手元にあっていつも使っているキャンプ道具こそ、災害時にも役立つはず、と考えたのです」(一さん、以下同)
キャンプは「独立型の避難スタイル」。自分たち自身で衣食住を確保し、生き延びることができれば、被災地域全体の負担を減らすことにもつながるという。
「知識と経験がなければ、救援を待つしかありません。ひとりでも多くの人が自立的に水や食べ物、避難場所を得られるようになれば、そのぶんの救援資源をほかに回すこともできます。救援が必要な誰かを救うことにもつながるんです」
道具自体よりも使いこなせる知識とスキル
「アウトドアの道具を本当に必要なときに役立てるためには、ふだんから慣れていなければだめ。わが家の道具には日常用とアウトドア用の境目はありません。長年使ってきたなかで、防災にも活用できるものと、その役立て方を見つけてきたんです」(せつこさん、以下同)
まずはアウトドア経験のない人に向けて、自宅に常備してあるものを野外で上手に活用する方法を教えてくれた奥さまのせつこさん。
チャック付きビニール袋
「チャック付きビニール袋や密閉できるコンテナは、食品の小分けや保存、野外への持ち出しにみなさんもよく使われると思います。加えて、乾麺を入れて、ゆでる前に水につけておけば時短料理もできるし、食材以外にどちらも濡らしたくない道具を持ち運ぶのにも役立ちます」
非常食になる軽い食品
「非常食として、レトルト食品や缶詰よりもかさばらなくておすすめなのは、フリーズドライ食品やカップスープ、乾物、ドライフルーツやナッツなど非常食にもなる軽い食品ですね。キャンプにも自宅の常備品を持って行き、食べながら補充して賞味期限切れを防ぐ“ローリングストック”を」
ラム酒やウイスキー
「ラム酒やウイスキーもキャンプに持って行きます。料理の風味付けにもなるし、蒸留酒は傷口や道具の消毒にも使えますよ」
日用品もあなたを救う防災グッズに!
「電池を必要とする道具を選ぶときは、販売場所が少ない規格のボタン電池などを使用するものより、単3、単4電池を使うタイプを。電池切れのときも国内外どこでも手に入りますし、ラジオ、懐中電灯などいろいろな製品で多用できるので、同じ電池を使う道具を選ぶこともポイントですね」
さらに緊急時の対応についても、知っていることでの差は大きい。
「日用品で、もしもの時に役立つのは、ラップと布ガムテープです。アウトドアや災害での負傷は絆創膏程度では覆えない場合が多々。ラップなら広い範囲を覆えて、雑菌の侵入を防げます。処置する人間の手に巻けば、除菌手袋の代わりにもなり、ガムテープも止血用にきつく巻く、骨折には添え木をして巻くなど用途多彩。知識があれば、どこのお宅でもある日用品が救急にも確実に役立ちますよ」
では、日常生活で使いながら、アウトドア、そして災害時にまで役立つものとは?
保冷バッグ
「軽い素材で、使わないときはコンパクトに折りたためる高性能の保冷バッグは、「シアトルスポーツ」のソフトクーラー。ふだんの買い物に使うほか、旅行のときもたたんで携帯します。家にいて停電で冷蔵庫が使えない場合でも、これで当座はしのげるはず」
口が広いボトル
「飲料水を持ち歩くのには、アメリカ・ナルゲン社の広口ボトル。鍵や眼鏡などを収納しても暗いなかで見つけやすい形状。熱い湯を入れて靴下などかぶせれば朝まで温かな湯たんぽ、水を満たして懐中電灯と組み合わせればランタンにもなります」
一つで何役もこなせることも道具を選ぶ際の大切なポイントだという、せつこさん。
「新しいキャンプギアはたくさん生まれるんですけど、大切なのは使いこなせる知識をもっていること。小さなお子さんのいる家族と大人だけのキャンプでは、必要なものも違ってくる。だからこそ、“これでなくてはならない”というものよりも、“あれにもこれにも使える”という道具がいいんです。それは、家と外で使うものに区別がないのと同じなんです」
最も重要なのは、水と火
「人が生き延びるためには、まず水がなくては」と、一さん。最後は、常備しておきたい防災グッズをうかがった。
「必須の飲料水以外に、料理用、緊急時にはケガの傷口を洗い流す……。けれど水道が使えず、ペットボトルの水も買えない状況となった場合に備えて、ぜひとも常備しておきたいのが浄水器です」(一さん、以下同)
浄水器を使うのはどんなシーンがあるのだろう。水道以外から水を得る方法は?
「水は、意識を向ければ街のなかでもあちらこちらにあるものです。河川が近ければ汲めますし、住宅街にも水路や池があり、雨水を器に受けて溜めるという方法もあります」
しかし、こうした水はそのまま飲むのは危険。そこで、浄水器の出番だ。
100年以上使えるポータブル浄水器
「名水と言われるような見た目は澄んだ湧き水でも雑菌や藻、ゴミなどが混ざっている場合は多く、まして上流に工場や農地があれば、化学物質に汚染されている可能性もあり、飲めばお腹をこわす結果になりかねません。トイレの水も流せない状況でそうなってはとても困りますし、赤ちゃんや基礎疾患をもつ人には、ことに危険です」
一さんがすすめるのは、ソーヤーの「ポータブル浄水器」。ペットボトルにも装着できる。毎日10lを浄水しても100年以上使える耐久性がある。
「高性能の浄水器を通した水は、煮沸すればより安全性の高いものになりますよ」
では、ガスや電気が使えない状況で、どうやって湯を沸すのか。カセットボンベや鍋も持っていない、あるいはボンベを使い果たしたときは、火熾しのスキルが活きる。
雨に濡れても使えるメタルマッチ
「マッチやライターはキャンプ用でも防災用でも必須のものです。でも、それだけでは心許ない。第3の方法として、雨に濡れても使えるメタルマッチでの火熾しを知ってほしいですね」
「切れ味はもちろん、ナイフとしての性能も優れているし、ふだんの調理にも充分活躍します。僕たちはアウトドアにも必ず持って行く必需品。初めてそろえるなら、おすすめの1本です」
防災グッズになるキャンプギアは、使いこなす経験が大切
防災の備えに必要な道具を選ぶうえで重要なのは、いろいろ道具をそろえることよりも、使いこなす知識。寒川さん夫妻がすすめるのは、アウトドアに出かけて実際に使って体験すること。
「わざわざ遠い場所へ出かける必要はなく、自宅の庭でも近所の河原でもいい。そこで培った経験を、防災のスキルに活かしてほしい。難しく考えず、自分たちに合った方法を身につけてほしいですね」
アウトドアを楽しむスキルが災害時の備えにもなる。この機会に眠っている防災グッズも見直したい。
(取材・文/秋川ゆか)
寒川 一(さんがわ はじめ)
災害時に役立つアウトドアの知識をキャンプ体験、防災訓練、書籍などを通して伝えるアウトドアライフアドバイザー。テレビ・ラジオ・雑誌のメディア出演など、幅広く活躍中。近著『「サボる」防災で、生きる』(主婦と生活社刊)。
寒川せつこ
北欧ソト料理家。「NHK 趣味どき!/たのしく防災!はじめてのキャンプ」、「メスティンレシピ」、「ソトレシピ」など、多くのメディアにレシピ提供をしている。