宮内庁がSNSで情報を発信していく方針を決めた。
「来年度予算の概算要求の中に、SNS担当の参事官ポストの新設と職員2名の増員が盛り込まれていました。宮内庁は'99年にホームページを開設して以来、皇族の写真やお言葉などを紹介していますが、もっと積極的に情報を発信する必要があると考えたようです。その根底には、眞子さんへのバッシングが相次いだ“小室事変”への対応に後悔があるのでしょう」(全国紙社会部記者)
SNSの炎上リスク
'17年9月に婚約内定を発表し、4年後の'21年10月に眞子さんと小室圭さんは結婚。ふたりはNYに移住した今も注目を集めている。
「移住から10か月以上がたちますが、現地での生活ぶりは、海外のネットニュースでも報道されています。この7月に小室さんは3度目の司法試験を受けており、10月の結果発表は日本でも話題になるでしょう」(同・社会部記者)
小室家や秋篠宮家に関しては、ネットを中心に批判の声が相次いだ。秋篠宮さまは昨年の誕生日会見で「人を傷つけるような言葉というのは、雑誌であれネットであれ、私としてはそういう言葉は許容できるものではありません」と不快感をあらわにされた。
「SNS開設の背景には小室夫妻による“騒動”の教訓があるのです。あれだけ大騒ぎになったのに、宮内庁側は定例会見とホームページ以外には、自ら発信する手段を持っていなかった。結果として、眞子さんは『複雑性PTSD』という診断を受けることに。
小室さんとふたりで臨んだ結婚会見で、事前に用意したコメントを読み上げましたが、自らの思いを発信できない悩みを綴られていました。ただ、SNSにより情報の発信はしやすくなりますが、炎上のリスクもある。特にコメント欄は炎上のきっかけになりがちですが、もし閉鎖したら“国民の声を聞く気がない”と言われる可能性もあります」(宮内庁担当記者)
海外では、SNSアカウントを持つ王室は珍しくない。
「中でもイギリス王室の発信力は別格です。ツイッター、インスタグラム、ユーチューブのアカウントを持ち、それぞれフォロワー数は482万、1116万、96万(9月3日時点)。ツイッターでは毎日のように活動内容をアップしています」(前出・社会部記者)
英国王室に詳しく、皇室に関する著書もある関東学院大学の君塚直隆教授によると、
「'97年にダイアナ元妃が亡くなったとき、イギリスの特に若い世代が“税金で食っているのにチャリティーをやっているのはダイアナだけだ”と王室を批判したのです。実際には、王室は300年近く前からチャリティー活動を行っていたのですが“ひそかにやるものだ”というのが当時のイギリス王室の風潮でした。その反省から広報に力を入れるようになり、SNSを活用した結果、今日のイギリス王室、特にエリザベス女王の絶大な人気につながったのです」
コメント欄の扱いも懸念点
'20年、エリザベス女王の公式ツイッターアカウントが突然、何の前触れもなく《Thanks》とだけ投稿。即座に削除されたが、それに対する批判はなく「エリザベス女王が投稿ミスをした(笑)」とむしろ好意的に受け取られたことがあった。
ただ、日本の皇室が同じことをできるとは限らない。
「イギリスでは18人の王族で3000以上の団体の支援をしており、毎日SNSに活動をアップしてもネタはつきません。日本の場合は15人で90団体だけ。天皇皇后両陛下や高円宮久子さまは精力的ですが、それ以外の方々は公務が空いている日が目立ちます。SNSで現状の活動をアップしたとしても、“何もされていないのでは”と思われれば逆効果になってしまいます」(君塚教授)
SNSで起こる炎上の心配については、ITジャーナリストの三上洋さんは、このように指摘する。
「炎上を起こさないためには、投稿前のチェックを複数人で行うことが必要です。内容はもちろん、 現在の皇室の状況なども含めて、事前のチェックは欠かせません」
そのためには、手間とコストがかかる。
「運用自体は一般職員でも大丈夫ですが、SNSの特性、パスワードの扱いやセキュリティーに関するリテラシーは持っていなければいけません。加えて、詳しい専門家の定期的なチェックも必要です」(三上さん、以下同)
SNSでは“コメント欄”の扱いも懸念点だ。
「基本的なSNSの運用自体には問題がなくても、誰でも書き込めてしまうコメント欄が、何かの商品などの宣伝に利用されてしまうおそれがあります。そういったことを防ぐ“コメントコントロール”が必要になるでしょう」
こうした課題をクリアすれば、公式“皇室SNS”への期待は高まる。前出の君塚教授は、次のような効果を挙げる。
「皇室の正しい情報、発信したい情報を国民に伝えられます。特にSNSを使いこなしている若い世代が皇室に関心を持つことにつながります。現状では“皇族は普段、何をされているのだろう”と、その日常が正しく伝わっていません」
皇室に適したSNSとは
そこでSNSを使い、まずは皇室の日常を知らせる。
「最新の情報を写真と一緒にアップして、高頻度で更新すれば“これだけ大変なことをなさっているんだ”ということを国民にわかってもらえる。そうすれば“皇室は大切なんだ”“自分たちや世界のためにこれだけのことをされているんだ”と思ってもらえるはずです。
現状は皇位継承や皇族数の確保の問題も、さほど盛り上がっていません。政治家や有識者がやみくもに会議を開くより、老若男女、とりわけ若い世代に皇室の現状を理解してもらうべきです」(君塚教授)
前出の三上さんも、皇室SNSのメリットを挙げる。
「海外へのアピールにもなります。英語などで発信すれば、日本の皇室を海外に知ってもらうことができます」
さらに重要なのは、アナウンスが“公式”であること。
「報道やネットの書き込みに反論するわけではなくても、ちゃんとした公式のアナウンスができるようになります。今までのアナウンスは、あくまでメディアを通じたもの。SNSであれば、国民に直接的なアピールができます」(三上さん、以下同)
具体的な運用はこれから検討されるのだろうが、どのSNSが使われるのだろうか。
「写真の投稿がメインとなるインスタグラムなら、これまではメディアを通して公開してきた普段のお姿や公務の様子を“公式”として発表できるので適していると思います。フェイスブックやツイッターもありますが、いざというときにコメントをオフにしづらい点がちょっと心配です。なんにせよ、国民と直接向き合えるツールとしてSNSを利用することは、皇室にとっても日本にとってもいいことだと思います」
皇室の投稿が、国民1億3千万人の「いいね!」を獲得する日は来るのか?
君塚直隆 関東学院大学国際文化学部教授。イギリス政治外交史などを専門とし、著書は『立憲君主制の現在─日本人は「象徴天皇」を維持できるか─』ほか多数
三上 洋 ITジャーナリスト。セキュリティー、ネット事件、スマートフォン、ネット動画が専門で、守備範囲はウイルスからネット炎上まで多岐にわたる