近年、日本では認められていない「やせ薬」を処方する医師が増加。保険のきかない自費診療なので高額なのだが「ダイエット効果が抜群」と、求める患者が後を絶たないのだ。だが、吐き気や便秘などの体調不良や、もっと危険な副作用のリスクも! 医師からもらう薬だからといって安全とは限らない、と現場の医師が告発する。
簡単にやせる新しい飲み薬、登場
女性の一生のテーマであるダイエット。これまで減量を試みては失敗を繰り返してきた、という人も少なくないだろう。
しかし今、1日1錠のむだけで効果が期待できる夢のような「やせ薬」が話題になっているのをご存じだろうか?
驚くべきは、1日1錠という手軽さに加え、その効果の高さ。「食欲が減退して食べる量が大幅に減った」「3か月で10キロ減」など、絶大な効果があるというのだ。
実は海外ではとてもポピュラーな肥満治療薬で、アメリカやヨーロッパでは臨床試験で安全性が確認されている。日本でも、糖尿病治療薬として厚生労働省から承認されており、医療現場でも使われている薬だ。
薬の一般名は、GLP-1製剤。「GLP-1 ダイエット」でネット検索すれば、多くの医療機関がヒットする。注射での処方が主流だが、最近ではのみ薬も流通しはじめ、より手軽に使えるようになっている。
実際に試している人も増えていて、今回の記事を作成するにあたって体験者を探したところ、すぐに2人の協力者が見つかったほどだ。病院が出す薬だから安全だと思う人も多いのだろうが、安易に手を出すとリスクもある、とアクアメディカルクリニック院長の寺田武史医師。
「GLP-1とは体内にある消化管ホルモンの一種で、上がりすぎた血糖値を下げるインスリンの分泌を促す働きをしています。GLP-1製剤は、ホルモンのGLP-1より持続効果が長く、体内で効率的にインスリン分泌を促して、血糖降下をサポートします」
血糖の上昇が抑えられることで余った糖が脂肪として蓄えられることも防げ、さらに脂肪の代謝も高めるため、2型糖尿病だけでなく、減量にも高い効果が期待できる。
「しかし、日本ではダイエットの薬としては認められていません」(寺田医師、以下同)
「日本は遅れている」わけではない
なぜ海外ではダイエットの薬として認められているのに、日本では認められていないのか。
「アメリカではBMI30以上の肥満症患者4000人に、GLP-1製剤を投与する臨床試験を行い、9割の人に減量が見られたため肥満治療薬として承認されました。それなら日本も早く肥満症の臨床試験をやればいいのにと思うかもしれませんが、BMI30以上というのはかなりの太っちょ。
アメリカでは国民の40%もいますが、日本では5%程度にすぎません。対象患者が少ないため臨床試験がやりづらいのです」
実際、日本やアジアに多い糖尿病の治療薬としては認可が下りているため、ダイエット薬としての日本の承認が単純に遅れているわけではないのだ。
「ダイエットでの使用は日本では認められていませんが、保険のきかない自由診療でなら使うことができます。ただ、国内ではダイエット薬としての臨床試験は行われていませんし、海外で行われているのはBMI30以上が対象。
日本でその薬を使っている人の多くは30以下なので、30以下の人に使った場合にどんな危険な副作用があるかわからないところがいちばんのリスクです。
また、糖尿病患者への処方でわかっている主な副作用は、胃腸の働きが緩やかになることで生じる吐き気など。やせるためなら我慢できるという人もいるかもしれませんが、この薬はのむのをやめると高い確率でリバウンドするので、薬の力だけでダイエットしたいのなら一生吐き気を我慢し続けることになります」
問診票の提出だけの処方は避けるべし
使用が認められていないのに、なぜこの薬は入手可能なのか。
「GLP-1は2型糖尿病の治療薬として承認されているため、国内でも自費なら簡単に手に入ります。また、副作用がわからない反面、目の前の患者のやせたいという希望を叶えたいという思いで処方している医師が多いのも事実です」
いわゆる「やせ薬」には、ほかにもBMI35以上で保険適用になる食欲抑制薬「マジンドール」や、巷で販売されている「ダイエットサプリ」などがあるが、GLP-1とは比べものにならないほど効果が薄いという。未認可でもGLP-1の需要が増えるのは当然なのだ。
「効果の高い薬なので、ダイエットでの使用が広まった以上、いまから全面禁止にするのは難しいと思います。できればアメリカに倣ってBMI30以上の肥満症患者には保険適用で認可するのもひとつの手だと思います。登録制にすれば、不正処方も減らせるはずです」
リスクを認識したうえで、どうしても試したい場合はどうすべきだろうか。
「問診票をオンラインで提出するだけで処方するようなクリニックは避けるべき。見抜けるはずのリスクを見逃したり、やせる必要がないのに減量に固執する精神疾患など、別の病気が隠れていたりする場合もあるためです。せめて医師がきちんと話を聞いて、ほかの病気が隠れていないかしっかり確認してくれるようなクリニックに行ってほしいと思います」
やせ薬が効くワケ
GLP-1は膵臓に作用して血糖値を下げるインスリンの分泌をよくし、脂肪の代謝を促してくれる。さらに、胃に作用して胃の動きを鈍らせ、脳にも作用して食欲を抑える働きも。
3か月で9kg減!好物のラーメン食べたくなくなる/50代男性・Oさん
GLP-1ののみ薬「リベルサス」を最初は3mg、2か月目から7mgのんだところ、3か月後には9kg減に成功したOさん。ラーメンが大好きでそれまでは大盛りを頼んでいたが、リベルサスをのみ始めるとラーメンへの欲求はほぼなくなり、好物の揚げ物も少量で不快感を覚えるようになったという。
「体重も減って効果に驚いています。吐くほどではないですが軽い胃の不快感があり、食べるとすぐに満腹になるので、食べる量が減りました。その分、本当にパワーが必要な場面で疲れやすくなることも。趣味のテニスをやる前にはおにぎりを食べています」
電話で医者とひと言話して簡単に入手/40代女性・Yさん
美容クリニックでこの薬を知り、処方を希望したYさん。最初に行ったクリニックで服用中の潰瘍性大腸炎の薬を問診票に正直に記入したところ、重度の胃腸障害があると出せないとの判断で処方されず。その後、オンライン処方を行う医療機関で問診票に服用中の薬を申告せずに提出したらスムーズに処方されたとのこと。ちなみに3mg1か月分で1万円ほど。
「医療機関によってまったく対応が違い、驚きました。人からは太っていないと言われるのですが、自分的にはこれ以上体重が増えるのはNGなので、体調に注意しながらのみ続けようと思います」
こんなダイエットは要注意!
●薬の個人輸入はNG
個人輸入は安価で手軽に薬を入手できるが、ニセモノの可能性や品質、有効性、安全性の保証がなく、リスクが大きい。副作用や不具合などトラブルが起こった場合も対応が不明で危険なので絶対に避ける。
●あくどいクリニックは避けるべし
きちんと話を聞かずに処方するクリニックや必要以上に高額な価格で販売するクリニックはNG。自由診療で薬をたくさん処方する、儲け優先のクリニックだと考えよう。
●ダイエットサプリに注意
インターネットで「GLP-1」と検索するとサプリが出てくるが、これはGLP-1の分泌を促すEPAのサプリメント。GLP-1製剤とはまったく別物のため、要注意だ。そのほか、やせるサプリメントもほとんど効果はないので、手を出さないほうが無難。
教えてくれた人……寺田武史医師 ●アクアメディカルクリニック院長。精力的に情報を発信し、著書『なぜ、人は病気になるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)がアマゾンで発売中。
〈取材・文/井上真規子〉