朝の情報番組『ZIP!』(日本テレビ系)内で放送されているショートドラマ『泳げ!ニシキゴイ』が、注目を集めている。同作は、史上最年長で『M-1グランプリ2021』王者に輝いたお笑いコンビ・錦鯉の半生を描いた自伝的ドラマ。ボケの長谷川雅紀(51)をSixTONESの森本慎太郎(25)が演じ、ツッコミの渡辺隆(44)をミュージシャンの渡辺大知(32)が好演する、笑いあり涙ありの人情派コメディーだ。
お笑い芸人の壮絶貧乏エピソード
今でこそお茶の間の人気者になった錦鯉だが、注目を浴びるまではアルバイト生活を送る“売れない芸人”だった。特に長谷川は“貧乏芸人ナンバーワン”を決める番組のオーディションに行くための電車賃がなかったというほどの貧乏っぷりだったとか。そんな彼が五十路でつかんだ中年ドリームは、多くの芸人に勇気を与えたはずだ。
錦鯉だけでなく、日本の顔になっている芸人たちの多くは、仕事もなければカネもないといった、貧乏暮らしを経験しているケースが多い。そこで今回は、人気芸人の下積みエピソードから、彼らが売れた理由をひもといていく。
タモリ(77)、明石家さんま(67)と並ぶお笑いBIG3のひとり・ビートたけし(75)。彼が芸人人生をスタートさせたのは「浅草フランス座」というストリップ劇場だった。
「当時は劇場の屋根裏に住み込み、エレベーターボーイとして働いていた。そこで師匠となる深見千三郎に出会い、コントやタップダンスをはじめとした、さまざまな芸事を身につけました。その後、1972年にビートきよしさんとツービートを結成しましたが、なかなか芽が出ず、キャバレーで漫才をしたら客席からおしぼりが飛んできたなんてことも」(芸能ライター)
'21年、Netflixで彼の自伝的小説をベースにした映画『浅草キッド』が製作されて話題に。芸の道の厳しさを丁寧に描いた作品だ。
そして、この『浅草キッド』で監督を務めたのが、お笑いだけでなく監督業などマルチに活躍する劇団ひとり(45)だ。
「彼はビートたけしさんにあこがれて16歳でお笑い芸人を志し、夜間高校に進学しました。日中はファストフード店の調理担当や、ゴミ回収、汚物処理など、約30種類のアルバイトで生計を立てたそうです。
そんなひとりさんがブレイクしたきっかけは、地方のヤンキーやドMの男性など個性的なキャラクターを演じる憑依ネタ。彼が生み出したキャラクターの多くが、バイト先で出会った人がモデルになっていると聞きました」(放送作家)
自分の経験をすべてネタに昇華する、まさに芸人の鑑だ。
今売れっ子の若手芸人にもあった苦労時代
『キングオブコント2021』で優勝を果たしたお笑いコンビ・空気階段の鈴木もぐら(35)。彼は駆け出し時代に多額の借金をつくり、ギリギリの生活を送っていたという。
「借金を抱えた理由は、ただ収入が低いだけでなく、競馬やパチンコ、風俗にお金をつぎ込んでいたからで、いわゆる“クズ芸人”。
彼らがパーソナリティーを務めているラジオ番組『空気階段の踊り場』では、もぐらさんのリアルな貧乏クズエピソードが毎週飛び出すので、一部のお笑い好きの間では無名時代から話題になっていました。
ネズミが出るボロアパートに住んでいたときは、ネズミしかかからない病を発症して入院するも、1日で回復して退院したのだとか」(同・放送作家)
そんなもぐらも、現在は2児の父。借金をコツコツ返済しているという。
同じく、『キングオブコント』の2010年準優勝者で、いまや芥川賞作家でもあるピースの又吉直樹(42)も、売れないころは借金と生きづらさを抱えていた。
「バイトをしようにも社会的適応力がないから面接に落ちまくっていた。お金がないから三鷹から当時NSC(吉本養成所)があった赤坂まで歩いて通い、その途中ずっとお金が落ちていないか探していたとか」(芸能記者)
一方、ブレイク後に一気に借金を返済したのが“国民的地元のツレ”こと、ピン芸人のヒコロヒー(32)だ。仕事がない時代につくった借金は総額250万円。
2020年にはYouTubeで『ヒコロヒーの金借りチャンネル』を開設し、芸人仲間に借金をする様子を動画で配信していた。しかし'21年から、彼女のやさぐれ芸が人気を博し、仕事が激増。今年6月の月収は98万円に達したと自ら明かした。
プライベートもあけすけに語るヒコロヒーの芸人魂は、そのまま彼女の魅力にもなっている。
ここまで、新旧人気芸人の貧乏エピソードを紹介してきたが、今まさに貧乏ど真ん中で夢を描く若手芸人はどんな生活を送っているのだろうか。
「私は、28歳のときに芸人を目指して地元の広島から上京しました。それからずっとお金に余裕はないですね」
そう話すのは“似ていないのに似て見えてくるものまね”を持ちネタに活動するものまね芸人・きのこちゃん(32)だ。上京したてのころは弟の家に住んでいたが、ささいなケンカをきっかけに同居を解消。しかし、家を借りるほどの手持ちがなかった彼女は、1か月家賃5万円の“レンタルルーム”で新生活をスタートさせたという。
男女共有、ゴキブリ大量発生、隣人トラブル
「そこは、Wi-Fiとシャワーはある、簡易宿泊所のような場所でした。自分のスペースは畳1畳ほどしかなく、壁は薄い仕切り板のみ。ドアには申し訳程度にカギがついていましたね。
男女共用のレンタルルームだったので、間違えて隣室のドアを開けてしまったときは、自室でくつろぐおじさんの全裸を見てしまいました」
1か月ほどそのレンタルルームで過ごした後、次に移り住んだのは、ひと部屋2畳の女性専用レンタルルーム。ベッド付きで住環境が改善されたように思えたが「隣人トラブルがつらかった」と、きのこちゃん。
「音に敏感な人が隣に住んでいて、少しでも私の物音が気になると壁を“ドン”と叩かれました。
またあるときは、私が芸人をしているという情報をどこからか仕入れて『芸人のくせにブス!』と、壁越しに直球の悪口を言われたことも。芸人ならブスでもいいじゃん!と思いましたが(笑)。
そこには5か月ほど滞在し、次は4畳がパーソナルスペースのシェアハウスにグレードアップ!……したのですが、ほどなくゴキブリが大量発生。毎晩彼らと格闘していました」
過酷な上京物語を経た現在は、先輩のものまね芸人が所有する8畳の衣装部屋を月2万円で借りているという。
「図らずも、転居するごとに広さが倍になっているので、芸人仲間からは『ヤドカリ女』と呼ばれてるんです(笑)。
いつまで続くかヤドカリ人生、という感じですが、部屋を貸してくれている先輩には本当に感謝しています。
私も売れて独り立ちしたら、困っている後輩をサポートしたいですね。最初に住んだ1畳のレンタルルームは自分の原点。あそこに戻らないように、これからも芸を磨いていきます!」
彼女の夢は“庭付き一戸建てで犬を飼うこと”。芸人のハングリー精神は、貧乏生活の中でこそ育まれるものなのかもしれない!
(取材・文/大貫未来)