《ホリエモン好みのボロボロ崩れるチャーシュー》
近年、飲食業界への進出が目立つ“ホリエモン”こと実業家の堀江貴文氏。冒頭は彼が'22年8月3日に北海道にオープンさせたラーメン店『堀江家』のキャッチコピー的文章(店内や各種SNSなどで掲げている)だ。
ラーメン業界でも“イノベーション”起こせるか
「寿司について“修行に何年もかける奴は馬鹿”と発言したり、日本の飲食店の値付けの低さに苦言を呈したり、堀江さんは飲食業についてさまざまな角度で語ってきました。
主張の論旨としては、“飲食業はムダが多すぎる”、“ネットや技術の革新等で多くの部分がイノベーションできる”といったもの。実際に和牛の世界展開を進める『WAGYUMAFIA』に関わるなど飲食業への関心は高いようです」(飲食業界紙記者)
そこで満を持して(?)進出したのが今回のラーメン店だ。
《家系ラーメン元祖堀江家やります。本気です。》
そうツイッターで宣言していた堀江氏。“家系ラーメン”とは、横浜市の『吉村家』を源流とするラーメンのジャンル。ざっくりいうと“濃厚とんこつ醤油ラーメン”だ。
自身の店・チェーンの“1店舗目”という意味だろうが、家系の元祖である吉村家がありながら、“元祖”を名乗ることに疑問を感じるかもしれないが本気らしい。
「今回、北海道にオープンさせた店を本店とし、10〜15席程度の小規模の店をフランチャイズ展開する考えのようですね」(前出・飲食業界紙記者)
これまで厳しい言葉で飲食業を“斬って”きた堀江氏。ラーメン店ではどのようなイノベーション(革新)がなされているのか。店は北海道・大樹町(たいきちょう)にある。北海道は十勝の南部に位置し、堀江氏がここ数年熱心な宇宙分野での実験や飛行試験を積極的に誘致している小さな町だ。'22年7月の発表によると人口は5,424人。
「北海道には家系のラーメン店は多くないですし、味は“万人向け”な優しい味なので良いと思います。一方で濃厚なスープを求めるマニアのような“家系好き”の人には物足りないかもしれないですね。注文はアプリを使ってオーダーする形。コロナ対策にもなりますし、人件費の削減にもなると思うので現代的ではないでしょうか。
値段はチャーシュー1枚にほうれん草、海苔が乗ったいわゆる家系のスタンダードな“普通”のラーメンが1000円とちょっと高めかなと。ライス食べ放題が付きますが。チャーシュー1枚のラーメンを『ホリエモン好みのボロボロ崩れるチャーシュー麺』とするのはどうなんだろうと思いました。“チャーシュー麺”って、チャーシュー1枚じゃんと(苦笑)」(訪れた客)
セントラルキッチンを嫌うのは“オタク”だけ
堀江氏は今回のラーメン店について、ツイッターで以下のように述べている。
《店で仕込むなんて職人依存的なことはしない。労基法守ろうとすると日本で売れる単価でクオリティ上げることは無理ゲー。個人店が労基法関係ないからやれてるんだよ。》
《DX化を進め人手不足をカバー、利益率も上げて味は落とさないためにセントラルキッチン。》
“セントラルキッチン”とは、店舗で仕込まず工場など別の場所で一括に調理し、店に運ぶスタイル。ラーメンに限らず飲食業において大手チェーンは基本的にこの方式が多いが、ことラーメンにおいてセントラルキッチンは嫌われがちだ。
「ラーメン好き、いわゆるラオタ(ラーメンオタク)と呼ばれるような人たちは、店で仕込まず外でまとめて作ったスープは“本物じゃない”というような考えで敬遠しますね。店で炊いていない“業務用スープ”のラーメンは偽物だと。セントラルキッチンで作られた家系ラーメンのスープは、似通った甘い味が多く、特に嫌われがちな印象です」(前出・飲食業界紙記者)
多くの外食チェーンがセントラルキッチンを採用する“理由”はいくつもあるが、その1つは価格の安さに繋がること。
しかし、前出の堀江氏のラーメン店を訪れた客によると……。
ラーメン1杯3000円も「高いと思ったら来なければいい」
「普通のラーメンが1000円で、チャーシューが複数枚にチーズやコーンがのった、海苔ナシの“全部のせ”みたいなラーメンもあるのですが、それは3000円でした。店によって価格が違いますが、とんこつラーメンチェーンの『一蘭』も普通のラーメンが1000円程度、替え玉が210円で、“高い”と評判ですが、ちょっとラーメン店では異次元の値段設定で驚きました」
調べてみると、どうやらそのラーメンは『まるごと北海道チャーシュー麺』というメニューのようだ。チャーシュー6枚にチーズ2種、コーンにバターが具材。これは“高い”のか。都内で複数店舗を構えるラーメン店オーナー店主は、堀江氏のラーメン店について次のように話す。
「まぁ値付けなんて経営者の自由ですからね。高いと感じたり嫌な人は行かなければいい。と、思いますが利益率は良いでしょうねぇ。セントラルキッチンのラーメンを嫌う人は一部の“マニア”。ラーメン店チェーンは大手はもちろん、有名店が展開するような中規模チェーンも含めて、ほぼすべてがセントラルキッチンで作られています。人件費の削減と、味を安定させるためです」(ラーメン店オーナー店主、以下同)
セントラルキッチンにするとなぜ人件費を削減できるのか。
「店でスープを炊くのであれば、火にかけたスープを見る人間が店の数だけ必要になります。セントラルキッチンであれば、基本的に1人でできる。セントラルキッチンと聞くとある程度大きい工場を想像する人がいますが、大規模チェーンを除けばそんなに大きな設備なんて必要ない。
また仕入れの一括化もある。すごく単純にいえば食材というのは1キロ買うより100キロ買うほうが安い。多店舗であれば大量に仕入れられるので、食材費を安くできる。工場での仕込みをどこまでにするか、店での調理がどの程度になるかにもよりますが、ほぼ温めるだけで済むなら店員の技術による“味のブレ”も少ない」
先日発生した“ほぼ生肉”の鶏チャーシューを使ったラーメン店での食中毒事件。店は業界で有名なラーメンプロデューサーの島田隆史氏が手がけたフランチャイズ店だったが、プロデュース側が“ほぼ生肉”での提供を指南するはずもなく、店員の技術や知識の無さから事件は発生したと考えられる。難しい“低温調理”が、安全な形でなされていなかった。
「味がブレないようにすることや店員の技術力は飲食店にとって重要です。セントラルキッチンによって生肉事件のような事故の多くが防げる。飲食業はどこも人手不足ですからね。“技術のある人”なんて少ないし、それを教える暇も手間もない。うちの店はセントラルキッチンにしていませんが、“レアチャーシュー”だけ外部に委託して作ってもらっています。正しく調理しないと危なく、それをアルバイトに任せることはできないので、外部のプロに任せる形です」
ホリエモンのビジョンにラーメン店主は“共感”
この部分でラーメン店オーナー店主は堀江氏の考えに共感する。
「“人の能力”で左右されない仕事を多くすることはラーメン店経営において大事です。ちょっとやり方を教えれば作れるシステムを構築することで、簡単に、そして安全となれば、非常に効率的。もちろんそれが“売れるか”は別の話で、客が求める味の構築や値段設定、店のコンセプトに内装・外装、提供の仕方などさまざまな要素が絡んでくるわけです。
ですが、“本当に美味しい店”はセントラルキッチンではなく、どこも店でスープを炊いていますね。強烈な煮干し味が有名なラーメン店は1店舗から始めて、現在は都内だけでなく海外にも支店があり、セントラルキッチンを採用していますが、本店“だけ”は店でスープを炊いているそうです。
ただ堀江さんは“本当に美味しい”なんて目指していないと思います。ラーメンオタクなんて相手にしない、“そこそこ美味しい”ラーメンチェーンでしょう。こだわったラーメンはそれこそ値段を高くしないと利益率が悪いし、技術が必要なので多店舗展開も難しい」
で、この3000円ラーメンは“高い”のか。
「飲食は“原価は3割”といいますが、それで言うとこのラーメンの原価は1000円。“ラーメンに1000円は高い”という意見も根強いなか、原価が1000円だとすればすごく高い。スープに何を使っているのか、チャーシューの肉はどの程度のものなのかわからないですが、おそらく原価は1000円以下か……まぁ良い商売なんじゃないですかね(苦笑)。
ただ、現状は1店舗のみでセントラルキッチンを採用しているわけです。セントラルキッチンは多店舗展開していないと利益率は良くない。設備投資もありますから。だから現時点では“儲けて”ないでしょう。どんなスープなのか、豚骨なのか魚介系中心なのかなどで変わってきますが、ラーメン店のセントラルキッチンは基本的には5店舗くらいないとはあまり意味がないと思います。逆に言えばそれ以上店があれば“良い”ということです」
また、“ホリエモンが関わっている”ということも当然ながら大きい。
「北海道の人口の少ない街からのスタートですが、堀江さんが関わっているから店に行く人も身内やフォロワーも多いでしょうし、フランチャイズ展開も“あの堀江さんなら”と加盟を考える人も出てくるでしょう。
これがうまくいくかはわかりませんが、影響力のある堀江さんだからできるラーメン店チェーンだと思います。それはそうと“ボロボロ崩れるチャーシュー”ってなんですかね。“ホロホロ”じゃないですかね(苦笑)?」
始動したホリエモンラーメンチェーン。ビジネスは上手くいくか。“ボロボロ”になる可能性は……。