秋はダニによるアレルギーの危険が1年のうちでいちばん高まる時季。夏にピークを迎えたダニは9月になるとフンや死骸が蓄積し、人体に悪影響を与えるのだ。よくやる布団の天日干しはイマイチ、叩くのは効果なしどころか、最悪!「病院清掃のプロ」が、徹底的にダニをやっつける方法を伝授。
秋こそ注意!ダニの死骸とフン
夏の間、家の中で人知れず繁殖しているダニ。実は、秋こそ注意しなくてはならない。
「今、日本の家に生息しているダニが、人間を噛んで害を及ぼすことはほとんどありません。本当に怖いのは、ダニのフンや死骸です」
そう話すのは、医療現場の清掃に35年従事している医療環境管理士の松本忠男さんだ。
「ダニの体長は0.3〜0.5ミリと比較的大きく、気づかず体内に取り込むことはありません。しかし、死骸やフンは違います。砕けて細かい粒子となり、空気中を浮遊。知らないうちに目、鼻、口などから体内に入り、アレルギーを引き起こすのです」とのこと。
生きているダニと死骸やフンの量を調査した株式会社 ペストマネジメントラボ代表 高岡正敏先生によると「たしかに生きているダニの量が多いのは8月ですが、アレルギー物質となるダニの死骸やフンは9月から10月にかけて増えることがわかりました。というのも、ダニの寿命は2か月ほどのため、繁殖のピークから2か月後である秋に増えるのです」とのこと。
現在アレルギー体質ではなくても、侮(あなど)ることなかれ。気がついていないだけのこともあるし、突然発症することだって十分にありうる。特に、この季節になると、なぜか咳(せき)やくしゃみが止まらない、鼻水が出続ける……などといった症状がある人は要注意。その原因、もしかしたらダニかもしれない。
では、どうすればダニアレルギーを防ぐことができるのだろうか?
「ポイントは、普段からダニを繁殖させないようにすることと、その死骸やフンが舞い散りやすい住環境を改めること。身の回りを清潔に保ち、一緒に健康も維持しましょう」(松本さん、以下同)
ダニから身を守る意外な鉄則
「ダニが好きな場所は暗い所、高温多湿の環境です。さらに、ダニはカビやホコリなどを食べて生きているので、これらが発生しやすい場所にも多く生息しています。死骸やフンも、カビやホコリのたまる場所にたくさんあると考えていいでしょう」
ダニだけでなく、ダニを発生させる要因ごと取り除く必要がある。そこで繁殖を抑えられれば、当然ダニの死骸やフンも減る。
「アレルギー被害を抑えるためには、アレルゲンを極力舞い上がらせないことも非常に重要です」
ホコリは普段、床や壁でじっとしているが、風が吹いて空気中を舞ってしまうと、吸い込みのリスクが跳ね上がる。さらに、舞い上がった汚れが宙を漂って部屋中に広がり、それをまたダニが餌として繁殖、なんてことも……。
そんな負の連鎖を生まないためにも、掃除の際には、できるだけホコリが舞い上がらないよう十分に気をつけたい。
ダニの温床、寝室のダニ対策
ダニアレルギー対策の本丸、それが寝室だ。熱がこもりやすく、寝ている間に人間がかいた汗を吸収している布団まわりは、ダニにとって最高の環境。特に上半身の胸から上が接している部分は、皮脂やフケなど、ダニが餌とする汚れが多い場所でもある。そんな布団のダニ対策。病室清掃のプロである松本さんはどうしているのだろう。
「ダニを繁殖させないためにやるべきなのは、とにかく清潔を保つこと。枕カバーやタオルケットなど、洗濯できるものはこまめに洗います。基本的なことですが、これが最も大切です」
頻繁に洗うのが難しいものは、汚れやすい部分にタオルなどを敷いておき、それだけ交換するのがおすすめ。簡単なことをこまめに続けてみよう。
アレルギー被害を抑える対策はほかにもある。「布団をたたんだり、整えたりする際、バサッと大きく動かさないこと。それだけで相当な数のアレルゲンが部屋中に舞い上がります。おすすめは、粘着クリーナーの使用ですね」
そのほか、ダニ対策で見落としがちな場所が、台所の隅や引き出しの奥。実は、料理に使う小麦粉などの粉類もダニの大好物。うっかりこぼしたままにしておくとダニの温床に。
実は誤解だらけ! 要注意なダニ対策
一方、よく聞かれるダニ対策の中には、あまり意味がない、または注意が必要なものもある。
まずは、布団の天日干し。「乾燥させて湿気を除く目的なら意味はありますが、天日干しの温度ではダニを“殺す”ことはできません。干した布団を叩くのはまさに逆効果ですね。そんなことでは減りませんし、ひたすらアレルゲンを舞わせることになり、アレルギー発症のリスクを自ら高めるだけの行為です」
掃除機による吸引は?
「布団やカーペットの奥に入り込んだダニは、掃除機で吸いきることはできません。また機種やかけ方にもよりますが、排気口から出る風でホコリが舞ってしまわないように十分に気をつけましょう」
さらに、布団乾燥機の使用も、実はダニの死滅を期待するのは難しい。乾燥機の熱によってダニを退治しようとしても、たいていの機種では、布団全体を一気に、そして均等に高温にできるわけではないので、比較的温度が低い場所にダニが移動するだけだ。
これらを踏まえて、松本さんは言う。
「ダニやダニのフンをすべて取り除くのは不可能です。ただ、きちんと対策をすれば量は減らせます。そして、ダニアレルギーのいちばんの対策は、アレルゲンを吸わないこと。正しく対策をすれば、ダニアレルギーの被害を受ける確率はグッと下がります」
もう怖くない!プロのダニ対策
家からダニを減らす&ダニ被害を抑えるために有効な、プロが教える3つの“攻め”をご紹介。
●水攻め
布団まわりのものは、こまめに洗濯を!
繊維の中に潜り込んだダニは水で洗い流す。ダニの死骸やフンに含まれるアレルゲンは水溶性なので、効果大。布団まわりで特に汚れやすいのは、人間の胸から上が接する部分。皮脂やフケなどもダニの餌になってしまうので注意しよう。
●粘着攻め
粘着テープでコロコロの習慣をつけよう!
ダニ繁殖のもととなる汚れやアレルゲンを取り除くのに役立つ。コツは、静かにゆっくり一方向に動かすこと。シーツなどはピンと引っ張るのも忘れずに。布が波立っていたり、乱暴に動かしたりすると、かえって汚れを舞わせてしまう。
●ツルツル攻め
床はツルツルのフローリングがおすすめ!
空気中の水分を吸うカーペットは敷かないのがベスト。子どもが走り回ったりすると、汚れやアレルゲンがそのつど舞い上がるのも悩ましい。
※どうしても敷きたい場合は断然、化学繊維のものを。水をはじくので、天然の繊維のものより圧倒的に湿度を低く保てる。
ダニアレルギーを招くやりがちNG行為
●布団の天日干しは効果イマイチ、叩くのは最悪
天日干しではダニは死なない!また、時間や気候によっては外の湿度が高く逆効果になることもあるので要注意。また、いくら叩いたところで、アレルゲンを取り除くことはできず、ただホコリを舞い上げ、体内への吸い込み量を増やしているだけ。絶対にNGだ!
●掃除機はホコリが舞う原因に……
暗いところを好むダニは布団やカーペットの奥深くに入り込んでいるため、掃除機で吸いきることは不可能。むしろ、排気の力で発生した風が、死骸やフンを巻き上げてアレルギーリスクを高めてしまうおそれも。
教えてくれた人……松本忠男さん ●病院を中心とした清掃現場に35年以上携わる掃除のプロ。“健康を守るお掃除士”として、衛生的な環境づくりのコツやノウハウを医療施設や清掃会社に発信。
〈取材・文/八坂佳子、大野瑞紀〉