保険会社の支払いは前年の12倍に……

《これまでの保険料の全額返金がないと納得できない》《外交員には自宅療養でも適用されます!と言われたのに……》

 9月9日、保険会社各社が新型コロナウイルスの入院給付金支払いの見直しを発表した。突然のことに、SNS上では戸惑いを隠せない利用者が相次いでいる。

「もともとは9月1日に、金融庁が見直しの方針を示したのが始まりです。それに合わせ、保険会社も9日に対応した内容を発表。感染者であっても、入院していない65歳未満の軽症者は給付金の対象から外すと発表したのです」(全国紙社会部記者)

支払われた保険金は前年の“12倍”

 現在の状況について、生命保険協会に話を聞いてみると、

「重症者の割合はこれまでと比べて低い水準であり、軽症・無症状の方の割合が高まっている」とのこと。

 日本生命や住友生命など、大手4社を含む多くの保険会社が変更を告知しているが、背景にあるのは、保険金支払額の急激な上昇だ。

生命保険協会に加盟している全42社が、今年6月に支払った保険金の総額は640億円以上。前年同月の約12倍です。ほとんどが病院以外の自宅などで療養する“みなし入院”者への支払い。加入後に意図的に新型コロナに感染して、陽性が判明したら保険金を請求してすぐ解約するという、不正受給も問題となっていました」(前出・全国紙社会部記者)

9日に日本生命が発表した、“みなし入院”範囲変更の案内(公式ホームページより)

 ファイナンシャルプランナーの風呂内亜矢さんは、これまでの支給様式が特別だったと考えている。

「医療保険の多くは、入院すると1日5千円や1万円などが入院した日数に応じて払われる契約になっています。コロナ禍が始まったころは、入院できずに家やホテルで療養せざるをえないケースが続出し、そのサポートのために、保険会社が入院給付金を出していました。ですが、入院していないのに支払っている現状のほうがそもそも特別対応だったのです。感染者数増と不正受給が相まって、保険会社の経営を追い詰めることになりました」

保険料が値上げされる可能性も

 感染者数の全数把握が簡略化されることを受け、保険会社が足並みをそろえ始めているようだ。

「今回の見直しは、約款としては誤りではありません。ただ、コロナ禍以降に、“みなし入院”の保険金に魅力を感じて契約した方は、割り切れないかもしれませんね」(風呂内さん、以下同)

 9月26日以降はコロナ陽性でも給付金がもらえないケースも出てくるが、考え方によっては今後のメリットにもつながる。

入院給付金が急増したことで、保険会社の負担が増えて、結果的に保険料が値上げされる可能性があります。そうなるよりは、適正金額で保障を得られるほうが消費者にも利益があります

 さらには、こんな将来の展望も。

これで、わざと陽性になる人が減るんじゃないでしょうか。感染者数が少なくなって、コロナの収束が早まる可能性もあります」(保険会社関係者)

“ゼロコロナ”に向けて、消費者も保険について考え直す時期が来ている。

風呂内亜矢 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 著書に『「定年」からでも間に合う老後の資産運用』(講談社+α新書)ほか多数