近年は秋キャンプも人気で、特に9月、10月はキャンプ場のハイシーズン。多くの人が集まる場所では、想定外のトラブルも……

 密にならずに楽しめるとしてアウトドアレジャーが注目されて久しい。中でもキャンプ人口は増加しているが、人気の一方でマナー違反が問題視されている。有料化することでマナーが改善した例もあるが、有料キャンプ場でも迷惑行為は後を絶たず……“トンデモ客”に効果的な秘策とは。

客増加に伴って“困った利用客”も

「この20年ほどキャンプ場の管理運営に携わっていますが、消灯後の騒音問題や、共用の炊事場を汚して帰る人、ゴミの放置などは、日常茶飯事です。

 なかには、キャンプ区画内で排泄をしてそのまま汚物を放置して帰っていくような常識のない人もいます。基本的なルールはチェックイン時にお伝えしますが、それでもマナー違反をする人がいなくなることは、まずないだろうと諦めている部分もありますね

 山梨県の私営有料キャンプ場従業員の矢部健司さん(42歳・仮名)は近年の利用客事情についてこう語る。矢部さんが働くのは、夏休みなどのシーズン中はほぼ予約がとれないほどの人気キャンプ場。

 通常のテント区画やロッジなどの宿泊施設のほか、気軽に豪華なキャンプ体験ができるグランピング施設も併設しており、ここ数年で利用客は増加の一途だ。ただし、キャンプを楽しむ層の多様化やキャンプ人口の増加に伴って“困った利用客”も増えたという。

「最近はカップルで利用される方も多いのですが、よくあるのがテントから漏れ聞こえる“深夜の喘ぎ声”問題。静寂に包まれる山の中だからこそ、ちょっとした声も思った以上に響いてしまうのですが、管理者としてはなかなか注意をしにくいですね。

 
また、遊歩道などにティッシュや使用済みの避妊具が捨てられており、野外で行為に及んだ痕跡が残っていることも……。子ども連れの利用者も多いため、こういったクレームはわりとありますね」(矢部さん)

 ほかにも、ゴミを場内に埋めたり、火の不始末でボヤ騒ぎを起こしたり、ペット不可のテントサイトにペットを連れ込んだり……キャンプ場でのマナー違反事例は枚挙に暇(いとま)がない。その中でも最も多いのが“騒音トラブル”だというが、最近はちょっとした変化がみられるという。

「深夜まで音楽を流しながら大騒ぎをするグループは、昔から一定の割合でいます。ただ、最近目につくのは、大学生などの若者グループがマナーを知らずに羽目を外しているというよりも、40代前後のいい大人たちが、山ではしゃいでマナー違反をしているという例ですね」(矢部さん)

意外に多い高年齢のトンデモ客

 もちろん、マナーを守って気持ちよく利用するユーザーがほとんどだ。ただし、泥酔してほかのグループの女性客に声をかけたり、テントサイトで嘔吐(おうと)をしたり、タバコの吸い殻がパンパンに詰まった空き缶を捨てて帰ったりという迷惑客は、意外にも高年齢の人に多い傾向が。

※写真はイメージです

特にレイブ(一晩中音楽を流して騒ぐ野外イベント)感覚で騒いだり、飲酒・喫煙ルールを守らずにトラブルを起こしたりするのは、中高年層の割合が増えていますね。

 多少のヤンチャが許された昔のキャンプの記憶をそのまま引きずってきているのかなという気もします。最近のキャンプブームで来るビギナーと思われるお客さんのほうがよっぽどマナーをわきまえていますよ……」(矢部さん)

 近年はコロナ禍などの社会情勢もあり、空前のキャンプブームだといわれている。密を回避しながら楽しめるレジャーとしてもアウトドアは人気を集めているようだ。公益社団法人日本キャンプ協会で事務局長を務める依田智義さんは、この数年のキャンプ人気を次のように分析する。

「第一次キャンプブームといわれる1990年代に育った世代が結婚・出産を経て、今度は自分のお子さんを連れて一緒にアウトドアを楽しんでいるという好循環が起こっています。

 また、近年はSNSや動画投稿サイトなどで有名人や一般人がキャンプを楽しむ様子が広く拡散され、アウトドアを題材にしたアニメ・マンガ作品などの影響もあって、若年層の間でもキャンプ人気が高まっています」

 大阪税関のデータによると、テントの輸入額は2020年に過去最高を更新。'90年代のオートキャンプブームをはるかに上回る129億円以上という輸入金額に達しており、近年のキャンプブームを数字の面でも裏付けている。

 一方、ゴミの放置や騒音トラブル、利用者の迷惑駐車など、オーバーツーリズム(観光公害)の問題が深刻化していることは、キャンプブームの負の側面だ。

 
実際に2019年度末には、伊豆諸島の神津島の無料キャンプ場2か所がユーザーのマナー違反の影響を受けて閉鎖される事態となった。このような状況を受け、公営のキャンプ場を管理する自治体やアウトドア用品の企業などは、キャンプマナー向上のために試行錯誤を繰り返している。

誰が汚したのか?わかる仕組みに

当協会も1966年の創設以来、キャンプ指導者の育成やさまざまな施策を通じて、キャンプの普及やマナー向上についての啓発に努めてきました。また、最近の事例では、茨城県のキャンプ関係団体が協力して『初めてでも安心 ルールとマナーがわかるキャンプの教科書』という本を出版していて、キャンプ初心者の方には非常に参考になる情報を提供しています。

 このように、キャンプ業界に関わるさまざまな企業や団体がさらなるマナー向上を図って奮闘しているところです」(依田さん)

 また、今春の大型連休には埼玉県・飯能河原のキャンプ場が、これまで無料だった施設を有料化する実証実験を行った。その結果、利用客のマナーが大幅に改善され、無料キャンプ場の有料化は今後も全国各地で広がりそうだ。

 この点について、前出の矢部さんは“有料化がマナー向上につながる”という効果には、やや懐疑的だという。

炊事場やトイレなどの共用スペースはトラブル多発スポット。勝手な「マイルール」は通用しないと心得て

「われわれのような有料キャンプ場にも、マナーの悪いお客さんは一定数います。中には“お金を払って使っているのだから、利用客が出したゴミの処理や、共用スペースの清掃などは、当然管理者がやるべきだ”といった声もありますし、有料だからこそ多少のワガママも許されると思ってしまう人は増えている気がします。費用負担ではなく、もっと根本的な部分でキャンプマナーを周知していく必要がありますね」(矢部さん)

 また、日本キャンプ協会の依田さんは“匿名性”とマナーの関連について指摘する。

「有料か無料かというよりは、“誰が使ったのかがきちんとわかる”という点がキャンプマナー向上につながるように思います。不特定多数の利用者がいて、汚したのが誰かわからないようなキャンプ場よりは、きちんと利用者登録を行い、誰がどのように使ったのかがわかるキャンプ場のほうが、利用する側としても“マナーよく使おう”という自制心が強く働くのではないでしょうか」(依田さん)

 とはいえ、開放的な自然の中で、無意識のうちにマナー違反をすることはあるかもしれない。気持ちよくキャンプ場での時間を過ごすためには、どんな心がけが必要か。

「夕食時にバーベキュー場でゴミを燃やして異臭騒ぎが起こったことも」とキャンプ場従業員の矢部さん

自然の中でつい忘れがちになってしまうかもしれませんが、たとえ野外の無料キャンプ場であってもそこが公共の場であるという意識を持つことは大切です。

 
また、多くの人にとってキャンプは非日常の体験だと思うので、安全のためにも事前準備は不可欠。細かいルールはキャンプ場によっても異なるため、何がマナー違反になるのかを事前に確認しておくことで、トラブルの多くは未然に防げると思います」(矢部さん)

 キャンプ場での対人トラブル回避のためには、ほかの利用者への配慮が最も重要。

近隣のテントの人や場内ですれ違う人など、他の利用客と顔を合わせたときにきちんと挨拶をしておくことは、些細なことですがとても有効です。

 
“こんにちは”というひと言を交わしておくだけでも、お互いに安心感が生まれますし、“何かご迷惑をおかけするようなことがあったら遠慮なく言ってくださいね”といった関係性が最初にできれば、より快適に過ごせると思います。利用者同士が尊重し合うことこそが、キャンプマナー向上への第一歩かもしれません」(依田さん)

 他人の目を意識しづらい自然の中だからこそ、他人を思いやる気持ちがより大切になるのかもしれない。

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〈取材・文/吉信 武〉