SNSの普及で1億総裁判官時代になった今、ネットの“正しい人”によって裁かれた人たちがいる。それが間違った情報だったら? 正義中毒の人に通報され、とんでもない目にあった“被害者”が語る実態とはーー。
近年、SNSを中心に自分の正義を振りかざし、その正義に見合わない行動をした相手を容赦なく叩きのめす、という風潮が蔓延している。「自分の主張が絶対に正しい」と思い込み、自分の考えに反する他の人の言葉を聞かず、許さない。彼らは攻撃的な発言をすることに快感を覚えるのか、攻撃対象を常に探している。ベッキー、渡部建(アンジャッシュ)、東出昌大……不倫した人間は犯罪者さながらに扱われ、その芸能人は干される風潮になってきた。
この風潮は芸能界に限らずその他社会的な出来事にも及び、さまざまな行為について“正義”を主張する人がいる。
いじめを主張したら虐待扱いされた
小学校の低学年でいじめにあった男子児童。しばらくたって学校へ行けなくなった。そのため、母親のAさんは学校や教育委員会に、いじめ相談のために連絡した。
「学校に電話した後なんですが、警察が家にきたんです。児童虐待の疑いがあるとの通報があった、と。誰が通報したのかはわかりませんが、“いじめなんかで学校に行けなくなるわけがない。きっと、あの家の母親が学校に行かせないだけ。虐待だ”というような通報内容だったそうです」(Aさん)
母親は警察の事情聴取を受けた。しかし、虐待の根拠がなく、すぐに疑いは晴れた。
しばらくすると、今度は、Aさん宅の郵便受けに「死ね。転校しろ」などと書かれた手紙が入っていた。
「いじめの加害者か、その周囲の人か、もしくは、いじめで不登校になることに違和感を覚えている人の仕業かなとは思います」(Aさん)
でも、手紙の主はどうしていじめで不登校になっていることを特定できたのだろうか。
「私はインターネットをしていないのですが、SNSをしている知人に話したことがあり、うちの話を書いてもらったことがあります。確証はないですが、そこの情報から推測して、第三者が特定したのかもしれません」(Aさん)
性風俗業は悪、と考える人
また、持続化給付金のニュースに反応した人も。国は、各事業者に対して、新型コロナウイルス感染症対策として、持続化給付金の支払いをした。しかし、性風俗事業者はその対象から外れることに。このため、性風俗事業者が「職業差別であり憲法違反」などとして、国を訴えた。東京地裁は、原告の請求を棄却したが、控訴した。
このニュースをめぐって、さまざまな意見が飛び交った。持論を展開し、事業者を批判する人たちも出てきた。彼らは口をそろえて、
“性風俗業は、売春であり、性的搾取だ。性を金銭取引すべきではない”
と、主張する。補足すると、性風俗は日本では売春ではなく、関連する法律を守れば、違法ではない。
しかし「性風俗=悪、と考える人は一定数いる」と性風俗業に勤めるBさん。
「他の仕事みたいに、表立って言えるような職業ではないかもしれません。でも、そういう主張を見ているだけで、自分が否定されていると思う気持ちが強まってしまいます。見ないようにしているんですが、気になって……。私はお店の名前でSNSをやっていますが、“コロナ給付金詐欺!”というDMが複数きました。私は一銭も給付金をもらっていないのに」(Bさん)
「死にたい人」への追い打ち
メンタルヘルスに悩みを抱えている女性たちが、SNSで「死にたい」という言葉をつぶやいたり、自傷行為をしている写真をアップすることは珍しくなくなってきている。こうした投稿をすることで彼女たちは、精神的なバランスをとっているようだが、それを見た男性と思われるユーザーCがこんな書き込みをした。
“どうせ、かまってちゃんだろ。死ぬ気もないくせに。そんなことをして誰かの気をひくつもりなんだろう?”
俗に、「死にたい」とつぶやくのは“かまってほしいから。本当に死ぬ気はない”という見方があったりする。確かにそうした人がゼロではない。しかし、厚生労働省は「自殺について語る人は自殺するつもりはない」という考えを「迷信」として、ホームページで紹介している。
書き込みをされた女性は、
「追い詰められると、どうしていいかわからなくなり、反論したくなる。だって、気持ちをわかってほしいから」
この女性は、やりとりを繰り返す中で、パニックになり、手首を切った。それに対してCは、
“本当は切っていないんだろう。気をひきたいだけ”
持論を繰り返し、カタルシスを得たのかCは、女性とのやりとりをやめた。
最近は、音声SNSでも、正義を振りかざす人が出没する。『クラブハウス』や『スペース』は文字のやりとりではなく、会話で交流する。正義を主張する際には声が大きく、時間を独占しがちになる。
ある男性は「ジェンダー」をテーマにしたチャットルームを開いた。男女差別の現状のほか、性的指向、性自認といった多様性について語っていた。そんな中、当初は静かに聞いていたユーザーが、途中から声を荒らげたという。
「最初は質問ばかりで、知識を得たいのかな?と思っていました。すると、きっかけはわからないのですが大声で“性別に多様性なんかない。男女だけ”と主張してきて」(ある男性)
チャットルームでは、同じテーマでじっくり話したいという人だけでなく、討論したいという人がいるのはたしかだ。その場合、一方的に、正義のマウントを取る形になりやすい。
「主張し始めると、こちらの話を聞かず、話が止まりませんでした。その人なりの正義はわかるのですが、チャットルームの趣旨と異なるので、そのことを説明しようとしたのですが、聞く耳を持ちませんでした」(ある男性)
こうして男は、正義の知識マウントを繰り返した。
その人なりの正義はあるものだが、押しつけることで相手を傷つける、そこまで押し通す正義はもはや悪でしかないのではないか。
“正義中毒”の人に叩かれた芸能人
●あびる優・才賀紀左衛門
テレビ番組での「万引き発言」以来、正義中毒から目をつけられていたあびる優。才賀と離婚し、才賀とその彼女の好感度との比較であびるの好感度が上がる現象に。才賀は度々児童相談所に通報されているという
●ベッキー
ゲスの極み乙女のボーカル・川谷絵音との不倫がきっかけで好感度は急落。その後結婚・出産したが、イメージは回復できていない
●渡部建(アンジャッシュ)
文春での不倫報道以来、2年ぶりにチバテレビでのレギュラー番組に復帰を果たした渡部。今でも番組や関係者のSNSに渡部へのクレームが送られているという
●東出昌大
好感度の高い女優の杏と婚姻中に不倫したことで評価は急落。会見での対応もさらに評価を下げた。地上波復帰への道は遠そう
取材・文/渋井哲也