自分が望む最期を迎えるために、元気なうちからお葬式やお墓のことを考えておくことはとても大切。こだわりのプランを公表する芸能人も増えてきたが、それらは実現できるのだろうか。問題点や必要な準備について、小金井祭典代表の是枝嗣人さんに教えてもらった。
オリラジ・中田敦彦は「小さくすませたい」
'18年に「終活を始めている」と告白したのは夏木マリ(70)。お葬式のイメージもできていて「会食のテーブルには、白と黒のストライプのテーブルクロスをかける」
「『オンブラ・マイ・フ』というクラシック曲が好きなので、それを流したい」とのことだが、好きな装飾や音楽に関する希望は通る?
「一般的な葬儀ホールなら、テーブルクロスなどについては特に制約がないので希望が通るのではないでしょうか。一方、寺院など宗教施設には禁止事項があることも。それに抵触する場合、実現が難しいかもしれません」(是枝さん、以下同)
次に音楽に関する希望については、著作権の問題があるという。
「トラブルを防ぐためにも一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)に連絡して、著作権の問題をクリアにしておいたほうがよいでしょうね」
音に関する制約はほかにあるのだろうか。みのもんた(78)は、'14年に『ノンストップ!』(フジテレビ系)に出演した際「お別れ会は自分で司会進行をしたい」と発言。「生前にナレーションを録音する予定」と語っていたが……。
「まったく問題ありません。みのさんの声で感謝の言葉や詩の朗読などが流れたら、親しい人はグッとくるのではないでしょうか。すてきな演出だと思います」
参列者に向けて自らのメッセージや映像を流したい、という声は一般の人からも聞かれるそう。
「スライドショーや自分史などの作成を請け負う業者もあるので、やってみたい人はプロに相談するのも手です」
近年は家族葬などお葬式を小さくすませたい、と思う人が増えている。芸能人でもオリエンタルラジオの中田敦彦(39)は、小さめのお葬式を志向。「予算は200万円。参列者は50人で『来てくれた人が主役になるような葬儀がいい』と希望したら、業者から『リビング葬』を提案された」と'17年、テレビ番組で語っていた。
「リビング葬とは自宅のリビングにいるような雰囲気の中で故人を見送る葬儀のこと。専用の会場もありますが、弊社では自宅で行うお葬式をおすすめしています」
感情を抑えなくてもよいことが自宅リビング葬の利点。
「ほかの家族に『ちょっと席を外してほしい』と頼めば、ひとりで故人に語りかける時間を簡単につくることができます。涙があふれて人前を避けたい場合も、浴室で顔を洗うなどで対処することも可能」
参列NGを実現させる具体的な方法は2つ
予算が安くすむのもリビング葬のメリット。
「例えば東京都内では、25~30人収容の式場の使用料は25万円程度が相場。これが自宅なら壁や家具を保護する養生や人件費などの実費はかかりますが、5万~10万円程度ですむことがほとんどです」
アパートやマンションの一室でお葬式をする人は、実際、増えている。
「自宅リビング葬は自由度が高いのもよい点。故人が好きだったレストランにケータリングを頼み、年代もののワインを開けて、家族と友人で花を手向けて、故人を送り出す、ということもできます」
参列者について言及していたのは、オードリーの若林正恭(43)。'17年放送の『オードリーのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)で相方の春日さんに「おまえは俺の葬式には呼ばない」と宣言していたが、これを実現させるには?
「まず親族、あるいは事務所関係者などお葬式を執り行う人に、その旨を伝えておく必要があります」
エンディングノートや遺言書に書くこともできるが、その場合、保管場所を周囲に知らせておくのを忘れないようにしたい。
「例えば3年後に仏壇のわきからエンディングノートが出てきて、そこに『●●を呼ぶな』と書いてあったのに、すでにお葬式に呼んで弔辞も依頼してしまっていたら、遺族は望みどおりにしてあげられなかったと後悔することに。これは参列者を呼ぶ、呼ばない、のことに限らず、終末期〜葬儀〜供養に関わるすべてのことがらに対していえることなので、気をつけましょう」
故人の遺志を見落とさないことが大事。なお、参列NGを実現させる具体的な方法は2つある。
「1つ目はその方にお葬式があることを知らせたうえで参列を控えるようにお願いする方法。2つ目はお葬式があること自体を知らせない方法。故人が多くの人の参列を望んでいるなら、特定の人だけに知らせないのは現実的に困難ですから、1つ目の手段をとることになるでしょう」
一般では2つ目の方法をとる人が今、増えているそう。
「家族葬という形でお葬式を終えた後に、それを周囲に報告するのはよく見かけます」
家族葬の場合、注意したいのが遺族間で呼ぶ人の範囲を意思統一しておくこと。
「例えば、会社や友人関係は呼ばない、ということになっていたのに、長女の親友が『すごくお世話になったから』という理由で参列していたら、ほかのきょうだいは『俺は友達を断ったのに』と不満をもつことも。その後には相続の話し合いなどもありますから、親族間でギクシャクするのは、できるだけ避けたほうがいいでしょう」
ペットと同じお墓に入ることはできる?
参列できなかった人への配慮もしておきたい。
「たとえ他人であっても、故人と親しければ喪失感で心にぽっかりと穴があいたような状態に陥るものです。そういった方にきちんとお別れの場を提供してあげることも家族の責任のひとつかと思います」
現代は「おひとりさま」で生涯過ごす人も多い。いとうあさこ(52)は'17年『ウチくる!?』(フジテレビ系)で「神奈川県の南葉山にある海が見えるお墓に、大久保佳代子さんと一緒に入りたい」と話していたが、実現できる?
「海が見えるとうたわれている墓所はたくさんあります。ただ中には、海沿いにある霊園でも、実際に海が見えるのは敷地内の一区画だけだったりもします。その点にこだわるなら、現地に行って、どの区画なら海が見えるかを確認する必要があります。
また一般的なお墓に親族でない人と入るのは、基本的には難しいと思います。お墓は『家』という単位でもつもの。特に税金で運営される公営墓地は、血族でないと納骨できません。1つのモニュメントの下に複数の人の遺骨を埋葬する集合墓なら可能ですが、その場合は赤の他人とも一緒になってしまいます」
しかし、数は限られるものの、血縁関係のない人同士でも一緒に入れる墓地が近年売り出されているという。
「東京都伊豆大島にある『千の風 みらい園』という墓所があります。ここは海が見え、血縁関係や婚姻関係がなくても、一緒のお墓に入ることができます」
では、愛するペットと同じお墓に入ることはできる? デヴィ夫人(82)は「愛犬たちと一緒に入るお墓の構想にすでに着手しているが、石やデザインなどで1500万円ほどかかると言われ、びっくり」と'18年のブログで明かしている。
「民間運営の霊園では、ペットと一緒に入れる区画が最近は増えてきています。ただし、同じ敷地内でも、ペット不可の区画もあるので、きちんと調べてから購入したほうがいいでしょう」
故人や遺族の思いに寄り添って、丁寧に送り出してくれる葬儀社や霊園は、探せば必ずある、とのこと。希望があるなら、あきらめずに相談してみては。
お話を伺ったのは是枝嗣人さん
クローバーグループ小金井祭典代表。グリーフ・ケアサポートの専門家。当事者の気持ちに寄り添い、数々の「唯一無二のお葬式」をコーディネート。ラジオ番組『是枝つぐとのおみおくり百科』出演中。著書に『日本一笑顔になれるお葬式』(扶桑社)
〈取材・文/中西美紀〉