「私は38歳なんですけど、そういうタイミングで何かが花咲いて、また頑張ろうって思えたりしますね」
と語ったのは、女優の松本若菜(38)。9月1日、「ビックカメラグループ」の記者発表会見での発言だ。彼女は今年4~6月期の連ドラ『やんごとなき一族』(フジテレビ系)で、ヒロインをいじめる兄嫁役を怪演。SNS上では「松本劇場」と呼ばれて、盛り上がった。
「この雨後のたけのこが! 人の家にずうずうしくのこのこのこのこニョキニョキニョキニョキタケノコタケノコニョッキッキーと生えてきやがって!」
と、早口言葉みたいにまくしたてたり、変顔や替え歌でイライラさせたり。おかげで街を歩いていても「きゃー」という声が上がるようになったという。本人は、「怖いほうの『きゃー』なのか、どっちなのかなと思って」
と言うが、まんざらでもなさそうだ。
遅咲き女優たち、苦労をバネに
そんな彼女、デビュー翌年にもプチブレイクを経験している。2008年「吉本芸人が全員一目惚れしたうなぎ屋の看板美女」として『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)に出演。実は地元の島根から上京して、演技の勉強をしながら、新宿にある吉本の劇場近くのうなぎ屋でアルバイトしていたのだ。
いきなり幸運にも恵まれたのに「遅咲き」となったのはなぜなのか。その理由のひとつに「顔」があるかもしれない。若いころから美人だったものの、大人びた顔立ちが災いしたのではないか。
そういう例は過去にもあり、浅野ゆう子(62)がそうだった。14歳のとき『太陽にほえろ!』(日本テレビ系)の「お茶くみ」役で女優デビュー。大人びた容姿ゆえ、役には合っていたが「中学生が警察で働くのはおかしい」とクレームがついた。このため、1年間の予定が3か月で降板するハメに。役柄が顔に追いつき、トレンディードラマブームで大ブレイクするのは、27歳になってからだ。
かと思えば「声」が原因でくすぶった人も。松本まりか(37)だ。
デビュー作はメインキャラのひとりを演じた連ドラ『六番目の小夜子』(NHK教育)。15歳で好スタートを切ったが、その後はオーディションで落ちまくる日々が続いた。ブレイク後に出演した『誰だって波瀾爆笑』(日本テレビ系)では、マネージャーとのこんなやりとりを振り返っている。
「『私何で仕事ないんですかね?』みたいなこと聞いたら『まぁちょっと「声がね……」って言われた』と。映像のプロデューサーさんに」
それでも、22歳のとき、その個性的な声でチャンスが訪れる。アニメ『シュガシュガルーン』(テレビ東京系)の主演声優に抜擢。原作者の漫画家・安野モヨコの強い推しによるものだった。
また、26歳のときには演技を学ぶためにロンドンに留学。スキルを磨いたことで、声も含めた個性を活かせるようになっていく。
さらに、彼女の場合、性格も幸いしたようだ。ネット記事の著者に対し、SNSで感謝を伝えたり、フォローしたり。何を隠そう、筆者もこれでますますファンになった。こういう人は業界内でも好かれるものだ。
そんなさまざまな努力が実を結んだのが、33歳のとき、ヒロインの夫と浮気する役を演じた『ホリデイラブ』(テレビ朝日系)。彼女も「怪演」と評された。
遅咲き女優の場合、こうした「怪演」がブレイクにつながることが多い。長年のくすぶり時代に、売れるためのスキルアップを続け、脇役中心に経験を積み上げたことが、振り切った芝居を悪目立ちせずにできる能力を身に付けさせるのだろう。そのため、彼女たちの多くは「遅咲き」への感謝を口にする。
怪演を機にブレイク、人生経験が武器に
女優を夢見て上京したものの、いったんあきらめて地元に帰り、24歳で本格デビューした桜井ユキ(35)もそうだ。当初「もう少し早く始めればよかった」と焦りも感じたというが、
「演技は人間力によって培われていくのだと思うようになりました」
として、デビュー前の人生経験が芝居に活かされていると振り返った。
また、モデルから転身した吉瀬美智子(47)も「32歳新人女優」という立ち位置のおかげで成功できたという。
「幸い『色っぽい』とか『クール』というイメージを持ってもらえたのもあり、両方持っていることを強みにできるかもと考えました。あれ、このポジション空いてるのかな? だったらここに入ろうって(笑)」
自分の売りと業界の需要を俯瞰的に見られたのは、キャリアのたまものだろう。
一方、舞台で経験を積んでからドラマ・映画という映像の世界に進出した吉田羊でも、
「遅咲きであることは、むしろラッキーだったと思うんです」
と語っている。「オーディションに落ち続け」ても、舞台女優としての自信がある分「次への原動力」にできたというわけだ。
吉田は数年前、バラエティー番組の『オモクリ監督』(フジテレビ系)でビートたけしと共演。大御所にも動じずに振る舞う姿が、年季を感じさせた。
さらに、遅咲きながら80代まで活躍した赤木春恵さん(享年94)のような人もいる。若いころには「私は40歳で女優として認められるようになればいい。そのほうが気持ちが焦らなくて楽」だと話していたという。
転機となったのは、48歳で出演したNHKの朝ドラ『藍より青く』と55歳から出演した『3年B組金八先生』(TBS系)。こうした国民的人気ドラマは、遅咲き女優が世に出るには格好の場だ。
遅咲き女優たちの活躍に期待
キムラ緑子(60)は52歳で出演した朝ドラの『ごちそうさん』、高畑淳子(67)は41歳からレギュラー入りした『3年B組金八先生』でその実力が広く知られるようになった。
かと思えば、50歳で芸能界に飛び込んだ人も。竹原芳子(旧芸名・どんぐり、62)だ。証券会社や裁判所で働いてきたが、織田信長が好んだ舞に出てくる「人間五十年」という一節に触発され、若いころの夢だった芸人を目指した。
「信長だったらもう死んでる。え、私このままでええんか?」
と、吉本興業の養成所に入り、ピン芸人をやったあと、55歳で芝居の勉強を開始。映画『カメラを止めるな!』で一躍注目されたのは、58歳のときだ。
ただ、竹原をはじめ、遅咲き女優には脇役タイプが目立つ。昨年、勢いを買われて『SUPER RICH』(フジテレビ系)に主演した江口のりこ(42)も、ドラマのヒットにはつなげられなかった。今年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』の序盤で、源頼朝の浮気相手をコミカルに演じた姿のほうがしっくりくる印象だ。
彼女たちのクセの強い芝居は脇役向きで、苦労した分、自分が自分がと前に出る感覚が希薄なのかもしれない。
それでも、高島礼子(58)のように、アマチュアレーサーからレースクイーンを経て女優になり、主演クラスにまで上り詰めた人もいる。また、すでに触れた浅野ゆう子は、時代を象徴する女優となったし、赤木春恵さんは88歳にして映画に初主演。「世界最高齢での映画初主演女優」としてギネス世界記録に認定された。
「人間五十年」とはあくまで昔の話。「人生百年」ともいわれる今なら、50歳でもまだ折り返しだ。遅咲き女優たちはますます活躍していくに違いない。