15日木曜日。待ちに待った給食の時間、献立は子どもたちの好きなカレーだった。児童が寸胴のフタを開けると、強烈な刺激臭が鼻をついた。
「先生、カレーがくさい。プールの消毒のにおいがする!」
教師が確認すると確かに臭う。しかし、ほかのどのクラスのカレーにも異常はなく、調理した給食センターが他の学校に問い合わせたところ、やはり問題はなかった。
学校側の聞き取り調査に対し、
「私がカレーに漂白剤を入れました」
と犯行を認めたのは、昨年度まで現6年のそのクラスを担任していた埼玉県富士見市立水谷東小学校の半澤彩奈教諭(24)。翌16日、カレーに塩素系漂白剤を混入した威力業務妨害容疑で県警に逮捕された。
当該クラスの児童はだれひとりカレーに口をつけず、健康被害はなかった。
担任を続けたかった
「事件前から上司や同僚に“担任を続けたかった”と話していた。警察の取り調べに対しても、“担任を続けられなかったのが悔しくてこのクラスのカレーに漂白剤を入れた”などと犯行動機を述べており、主張は一貫している。犯行の最中に事の重大さに気づき、子どもたちが間違って食べないよう、あえて漂白剤を全部入れたとも供述しているようだ」(全国紙社会部記者)
山形県出身でマンガと食べることが大好き。漫画を原作とする大ヒット映画『翔んで埼玉』をもじって自己紹介するなど明るい性格で、2年前にこの学校で教師生活をスタートさせた。1年目に4年生、2年目に5年生と持ち上がりで同学年のクラスを受け持ち、今年度は別の学年のクラス担任をまかされた。卒業まで見届けたかったのだろう。
市教委によると、問題があって担任をはずれたわけではなく通常の人事異動という。
どんな教師なのか。
学校職員に話を聞こうとすると、
「捜査中ということで何も話せないんです。ごめんなさい」
と口を閉ざす。
代わりに児童の保護者が人物像を明かす。
「子どもを楽しませる雰囲気づくりが上手で若いのに責任感がある。子どもたちはみんな半澤先生が大好き。だから余計にショックだった」
学級だよりには自分の似顔絵を描き、性格を《超優しい》と綴っている。
《みなさんが良い方向へ成長していく姿は、私のいきがい》
《愛してるよ》
などと子どもたちへの愛情をためらいなく文字にしていた。
子どもたちに人気があっただけでなく、保護者の信頼も厚く、教職員仲間からもかわいがられていたという。
別の児童の保護者はこう打ち明ける。
「ものすごーくいい先生。児童にいつも寄り添っていて“子どもたちをハグしてあげたいけど、コロナでそれができないのが辛い”と話していたって。そんなことで悩む20代なんてそうそういないですよ」
先生の逮捕を知った多くの児童は泣いたという。
「先生は悪くない」「先生は悪くない」
また事件翌日から6年生は日光へ修学旅行に行く予定だったが延期に。それでも児童は恨みごとを言わず、「先生は悪くない」「先生は悪くない」と必死にかばうのだという。
担任を続けさせてやるわけにはいかなかったのだろうか。
市教委関係者は、こう話す。
「教員の希望をすべて受け入れていたら学校運営は成り立ちません。学年が変わるごとに担任が交代するのが一般的で、むしろ2年続けて同学年を担任できたのが稀なんです。いいクラスを受け持って担任を続けたくなる気持ちはわかりますが、それでは教師として成長できない。またイチから子どもや保護者との関係を築いていくことで力をつけられるんです」
教師の道を歩き始めたのだから、問題児を受け持つかもしれないし、教育方針を理解してくれない保護者とぶつかるかもしれない。世の中、思い通りにいかないことなど多々ある。それに直面したときの言動をみるかぎり、子どもたちのほうがよっぽど大人びていた。