「将来介護が必要になったときに、介護者が楽だから」という「介護脱毛」という概念も挙げられている(写真はイメージです)

 ムレない、生理の際に楽、下着からはみ出ない……などといったメリットが多いと、関心が高まっているVIO脱毛。これに加え「将来、介護されるようになった際のために」という理由で実際に行おうと考えている人も増えている。しかし、介護従事者たちの実際の声は──。

VIO脱毛を“してよかった”という人が多い

 実際にVIO脱毛を済ませた50代女性はこう語る。

思った以上に快適で、本当にやってよかったです。デメリットといえば、それなりにお金と時間がかかること、話していなかった家族や友人にビックリされることと、鏡を見ると自分の年をとって貧相になったアソコがダイレクトに目に入ること(苦笑)。毛の役割ってこれだったのかな、なんて思います(笑)。

 あと、『どうして脱毛したの?』と聞かれて面倒くさいとか。そういうときは『介護脱毛』と答えるようにしています(笑)

 アンダーヘアを永久脱毛する、いわゆるVIO脱毛をする人が男女問わず増えてきている。

VIO脱毛をした人たちから聞こえてくるのは満足の声がほとんど(写真はイメージです)

「毛が濃いのがコンプレックスだったし、特に夏場はムレるのがいやだったので、試しに剃ってみたらとても快適だった。においも気にならなくなった」(30代女性)

 といったように、VIO脱毛をした人たちから聞こえてくるのは満足の声がほとんど。

 ところで、VIO脱毛に関心が集まる理由のひとつに、冒頭の50代女性が話したように、「将来介護が必要になったときに、介護者が楽だから」という「介護脱毛」という概念も挙げられている。

 しかし、この介護脱毛だが、多くの介護士や看護師といった介護従事者たちからは、「必要ない」「毛があることは介護の際に大した問題ではない」「ていのいい理由づけにモヤッとする」といった声が上がっているのをご存じだろうか。

“介護のためのVIO脱毛”は不要

アンダーヘアがないから介護が楽なんて、思ったことはありません。髪の毛と同じように下の毛も、年齢とともに少なくなってしまうもの。脱毛をしたい、と考える時期と同じ毛の量ではなくなっているんです。たくさんのご高齢者の排泄の介助をしてきている身としては、苦労でもないですし、迷惑だとも思いません」(介護職員・40代)

髪の毛と同じように下の毛も、年齢とともに少なくなってしまうもの(写真はイメージです)

毛があってもなくても介護の手間は変わらないです。毛よりも、皮膚のたるみ、特に男性の場合は陰茎が縮こまって垢がたまりやすく、それがかゆいと掻いてしまう人が多い。また、アンダーヘアより男性はヒゲを脱毛してほしい。食事の介助が大変だし、ヒゲのせいで表情が読み取りづらいことも」(介護職員・40代)

『親の介護の際、アンダーヘアがあって大変だったから』ということで、ご自身の介護脱毛に踏み切る理由にされる方もいますが、あなたもご自身の介護を家族に押しつけるつもりですか、という点でモヤッとします。

 私もVIO脱毛をしているのですけれど、個人の快適のためでいいではないですか。きれいごとや建前にすり替えないでほしいです」(介護職員・30代)

 また、こんな声も。

『介護は高齢者になってからのもの』という概念にも違和感を覚えます。若くても不慮の事故や、若年性アルツハイマーで介護が必要になる人はいます。そういう場合はアンダーヘアもまだまだしっかりされている状態かもしれない。

 ただ、そんな明日に起きうるかもしれない可能性を踏まえて、施術に何年もかかる脱毛をする人はいませんよね。また、『親や介護される側が将来の介護を見据えて脱毛をしておいてくれたから、介護が楽だった』というケースは、今のところありません」(看護師・50代)

『親や介護される側が将来の介護を見据えて脱毛をしておいてくれたから、介護が楽だった』というケースは、ほとんどない(写真はイメージです)

 医師で医療ジャーナリストの森田豊さんも、こう見解を述べる。

「介護のための脱毛への関心は高まってきていて、おむつ交換時の清拭が楽になったり、毛根周囲の湿気(ムレ)が減り皮膚ケアの手間が少なくなるだろうと考える人も多くなってきました。

 しかし、介護従事者側から、脱毛をすすめたりすることは基本的にはないのが現状であることから考えると、脱毛の有無と介護の負担はほぼ無関係です。脱毛により介護者の負担が著しく少なくなるわけではありません。

 本人の衛生感や精神的満足感につながる例はありますが、費用面なども考え慎重に判断していただきたいです」

 金銭や時間に余裕があり、現段階の自分の快適のためにVIO脱毛をしたいのならばすればいい。そのほうが身体も心もアクティブになれるだろうし、結果的に介護とは無縁の状態でい続けることができるのではないだろうか。

お話を伺ったのは……

森田 豊さん
もりた・ゆたか 医師・医療ジャーナリスト。1963年、東京都出身。近著は『医者の僕が認知症の母と過ごす23年間のこと』(自由国民社)

取材・文/木原みぎわ