9月25日にさいたまスーパーアリーナで行われた格闘技イベント『超(スーパー)RIZIN』で総合格闘家・朝倉未来(30)とプロボクシング元世界5階級制覇王者のフロイド・メイウェザー(45)がボクシングルールで激突した。しかし、話題になったのはその勝敗よりも、試合前の花束贈呈式で起きた事件だった。
なんと、メイウェザーに花束を渡すはずだった『ごぼうの党』の奥野卓志代表(48)が手渡さずにそのままリング上に投げ捨てたのだ。メイウェザーは何も反応せずにそれを拾うという紳士的対応をみせるも、日本人からは怒りの声が収まらない。ツイッターのハッシュタグ『日本の恥』がトレンド入りするほどのネガティブな反響を巻き起こした。海外出身のタレントのフィフィは、今回の件が起きた背景について「これは奥野さんだけでなく、日本人全体の課題」と考える。(以下、フィフィの発言)。
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マナーは人それぞれですが、今回の奥野さんの花束を投げるという行動は言語道断、失礼を通り越して暴力行為に近いです。
驚いたのは今回の花束贈呈の人選について、『RIZIN』の運営サイドが彼を指名したというわけではなく、オークション形式で権利を販売していたチケットの特典だったということ。つまり、お金を積めば誰でもリングに上がり著名人と接触することができた。これは危険すぎると思います。
日本はセキュリティー面に甘い
過去に握手会傷害事件(2014年)などあったAKB48をはじめとした“会えるアイドル”も当時から危ないと思っていました。ファンだから距離を近づけても何もしないという理屈にはならない。海外では「お金を積めば著名人と接触できる」といったシステムはみかけません。今回の『RIZIN』の運営がどうやってお金を集めようというのに目が眩んで、危険性の部分に考えが回っていないというのは非常に危険。日本はこういったイベントごとのセキュリティー面に関してすごく甘いなと思います。
先日も安倍晋三元首相の銃撃事件(7月8日)があった直後にも関わらず、8月にはYouTuberのヒカキンさんがゲームイベントで背後から不審者の身体に手を回されるというアクシデントが起きました。いったいどこからステージに侵入させてしまったのか……。私はこれまで著書を2冊出しているのですが、まさにこの“危険性”の観点から一度も本のサイン会などのイベントはやっていません。怖いから。ファン以外にもどんな人が集まってくるかわからない。
メイウェザーだからこそ起きた「日本の恥」のムーブメント
また、今回花束を投げた奥野さんは試合後にインタビューを受けて《炎上するなというのは、やる前から分かっていた。それでもごぼうの党を知ってくれたらいいなという気持ちでやっている》(東スポWeb)と答えています。
先日も炎上商法で知名度を上げた人が国会議員になるケースがあり、なりふり構わず知名度を上げれば当選できるという前例ができてしまった。奥野さんもそれに倣って売名のために「花束を投げ捨てる」行動に出たのでしょうが、それを面白がる社会ではいけないと思います。
掲げる政策を何も見ずして「名前を知っているから」「面白そうだから」という理由だけで一票を投じる人がいるから、このような低俗な行動が後を絶たない。政治はエンターテインメントではありません。このままだと日本のモラルはどんどん下がるばかりでしょう。
今回の一件でひとつ“不幸中の幸い”、ある意味運が良かったと思えることがあります。それは、奥野さんの炎上商法に巻き込まれたのが、海外からのゲストであるメイウェザー選手だったということ。それによって「日本の恥」というムーブメントが起きたことです。
もし仮に日本人同士の戦いであれば、「やってくれてスカッとした……」といったようにファン同士の議論など、炎上が別の方向が向いてしまい、この問題が流されてしまった可能性もあるかもしれません。世界50か国超で配信された番組で、メイウェザー選手というリスペクトされるべきレジェンドボクサーにこのような行動をとったからこそ“日本人として恥ずかしい、ごめんなさい”、という話になった。
メイウェザー選手には申し訳ないですが、日本人が目を覚ますきっかけになったのではないでしょうか。野放しにしてきた炎上商法──日本が抱える課題がダイレクトに突き刺さった。
YouTuberの迷惑行為もそうですが、売名したもん勝ちの世の中で本当に良いのか──。これまで見過ごしてきたものを考える良い機会になったのではないでしょうか。私はそう考えます。
フィフィ '76年、エジプト・カイロに生まれ。テレビ、ラジオ、ウェブメディアで活躍中。2歳のときに家族で日本へ移住、中京大学情報科学部卒、卒業後渡米し、帰国後に日本の音楽関連企業に就職。その後、ニックネーム「ファラオの申し子」としてタレント活動を開始。'11年の「アラブの春」に際して綴ったブログで注目を集め、以来、国内外の社会問題について鋭い発言を続けている。