「ヤバい女になりたくない」そうおっしゃるあなた。有名人の言動を鋭く分析するライターの仁科友里さんによれば、すべてのオンナはヤバいもの。問題は「よいヤバさ」か「悪いヤバさ」か。この連載では、仁科さんがさまざまなタイプの「ヤバい女=ヤバ女(ヤバジョ)」を分析していきます。
衛藤美彩

第76回 嫉妬のメカニズム

 西武ライオンズ・源田壮亮選手の妻で、元「乃木坂46」のメンバー・衛藤美彩がSNSで誹謗中傷されており、裁判所に発信者の開示請求したところ、“犯人”は同僚である山田遙楓選手の妻だったと『週刊文春』が報じています。

 野球選手とアイドルのような人気商売は、多数のファンに支えられています。ほとんどは善良な人でしょうが、一方的な思いを暴走させてしまう人がいないとは言い切れない。故に人気商売の人がこういう嫌がらせを受けると、なんとなく「顔も知らない誰か」の犯行であると思いがちですが、蓋をあけてみたら、犯人はまさかの「知っている人」なのでした。

『週刊女性PRIME』の9月22日配信記事では、スポーツ紙・野球担当記者のコメントを紹介しています。源田選手はスターとして活躍し、お子さんにも恵まれ、妻である衛藤美彩もSNSで人気者だそうですが、一方の山田選手はなかなかレギュラーとして定着せず、年俸も伸び悩んでいた。その格差を逆恨みしてこのような行動に出たのではないかと。

嫉妬とは何か、どんな時に起きるのか?

 持たざる者が持つ者に嫌がらせをするとき、その動機は“嫉妬”とされるのが一般的です。

 今回の事件がそうだと決めつけるつもりはありませんが、嫉妬した部分が全くないとは言えないでしょうし、本稿をお読みのみなさんも嫉妬に悩まされた経験は一度くらいあるでしょう。

 それでは、嫉妬とは何か、どんな時に起きるのかを考えたことはありますか? おそらく、多くの人が「自分より恵まれている人を見た時」と答えることでしょう。確かにそういう面もあります。しかし、先日亡くなられたエリザベス女王は、文字通り女王さまだったわけですが、「エリザベス女王はいっぱい土地を持っているから、嫉妬しちゃう」という声を私は聞いたことがありません。つまり、嫉妬とは「恵まれている人がされる」という単純なものではないのです。今回はあまり知られていない嫉妬について、心理学が証明していることをいくつか書いてみたいと思います。

(1)嫉妬は人間にとって当たり前の感情である

 下の子が生まれると、上の子が赤ちゃん返りしてしまったということはよくありますが、これも嫉妬です。子どもは親からもらえる愛情が減ってしまうと、自分の生存に関わるからです。人は成長すれば、親に面倒を見てもらわなくても自分で生きていくことができるようになりますが、自分の恋人に必要以上に親しげに振る舞ってくる人や、上司にゴマをすって、かわいがられようとしている(ように見える)人など、自分の生活や立場を脅かそうとする人に嫉妬を感じることには変わりありません。嫉妬心は年齢や性別を問わず誰にでもあるものであり、「嫉妬するのは、私がヤバいからだ」と自分を責める必要は全くないのです。

大谷翔平選手に嫉妬する人がいない理由

(2)嫉妬は「同じ」ことから生まれる

 ジョージア大学のエイブラハム・テッサーは、自己評価維持モデルという理論を提唱したことで知られています。私たちの自己評価というものは、他者との比較で変わってきます。たとえば、クラスメイトと同じ大学を受験し、自分だけ落ちてしまったら、「私ってダメだな」と落ち込んで自己評価は下がってしまうでしょう。それでは、あるクラスメイトが大学を受験せず、役者を目指し、何年か後に大ブレイクしたとしたらどうでしょうか。人気者となったかつての同級生を見て、あなたは嫉妬したり、自己評価を下げることはなく、「すごいな、がんばったな」とむしろ相手を高く評価することでしょう。場合によっては、「今人気の俳優は、同級生だったんだ」と人に言って、自分の“箔付け”に使う人もいるかもしれません。

 結局、「成功した人に嫉妬する」のではなく、自分と「同じ」かどうかがポイントになるわけです。ということは、嫉妬は同じ環境(学校や会社)、同性、同じ年、同じ職業などで生じやすくなるということ。今回の件も、夫同士が同じチームだからこそ、年俸などの格差を必要以上に気にしてしまったのかもしれませんし、誹謗中傷をしたとされる山田選手の妻は元タレントだったそうです。妻同士が「同じ職業」だったことも、悪い嫉妬心に拍車をかけたのかもしれません。

(3)嫉妬は「自分より下だ」とみなしている人に抱く感情である

 メジャーリーグで大活躍する大谷翔平選手に対して、「嫉妬する」という人はほとんどいないでしょう。これを上述した(2)の理論を使って解釈するなら、多くの人は野球選手ではないために、彼の業績を素直にほめたたえられると見ることができますが、もう一つ見逃せないのが、嫉妬というのは、自分より下だと思っている人にいいことがあったときに起きる感情だということです。

 たとえば、婚活中の女性から、友達の結婚が喜べない、友人の幸せに嫉妬してしまうという話を聞くことがあります。自分が恋人と別れたタイミングで、友達の結婚を聞かされたりすることもよくある話ですから、その気持ちはわからないでもありません。しかし、上述したとおり、嫉妬は「自分より下だと思っている人」に対して持つ感情ですから、実は「私は友達を下に見ていますよ」と言っているのと一緒なのです。

 恋人はいない、結婚願望もないと言っていた友達が突然結婚することになったと言ってきたら、嘘をつかれていたショックなども相まって、嫉妬心を持つかもしれない。しかし、そうではなく、交際相手の存在も知っていたなら、カップルがなんらかのきっかけで結婚することは、不思議でも何でもありません。それでも消えないモヤモヤがあるなら、友人を下に見て、「自分より先に結婚するなんてありえない」と思っていなかったか、振り返る必要がありそうです。

 人を下に見る人と言えば、みなさんの周りに「〇〇でいいな」が口癖の人はいませんか? こういう人は嫉妬深い可能性があります。「あの子は顔がかわいくていいな」「実家がお金持ちでいいな」という発言をする人は「人をうらやましがる人」とみなされるでしょうが、私に言わせると嫉妬深い人です。なぜなら、「あの子は顔がかわいい」「実家がお金持ち」いう言葉には「自分がイマイチなのは、自分のせいではない、自分が悪いわけではない」という自己正当化が隠されているように思うからです。「あの子は運がいいだけ。実力だけで比べるなら、私のほうが上なのに」と相手を下に見ているからこそ、愚痴りたくなるのだと思われます。

 反対に会話の中でブランドアピールが多い人も、嫉妬深いと思います。「能ある鷹は爪隠す」ということわざがあるとおり、本当に認められている人、自分に自信がある人は「私はあなたより上」だとひけらかす必要はありません。ニセモノの自信で自分をアピールする人は、「人を下に見たい人」であり、嫉妬深いと言えるのではないでしょうか。

目的を持って生きると「自分は自分、人は人」と思える

 私は嫉妬が必ずしも悪いものだとは思いません。恋愛で言えば嫉妬はスパイスになりますし、勉強や仕事では「負けるもんか」という起爆剤になって、思いもよらないがんばる力につながることもあるでしょう。けれど、今回の件のように、人に迷惑をかけたり、自分が消耗してしまって何も手につかないというヤバい域まで行ってしまったのなら、嫉妬との付き合い方を一度考える必要があると思います。

 基本は人を下に見ないこと。人を下に見ると、その人に何かいいことがあったときに、ダメージがより大きくなり、激しい嫉妬に悩まされるようになります。同じ場所にいる人は、こちらに危害を加えてこない限り、仲間もしくは自分にチャンスを与えてくれる人だと考えてみたらどうでしょうか。

 また、人を下に見ないためには、ある程度の目的を持って生きることも必要になるでしょう。仕事に自分の人生を賭けるのか、それともほどほどでいいのか、結婚や出産はしたいのかなど、目的があると「自分は自分、人は人」というスタンスが定まってくるはずです。私の経験で言うと、人生に対して受け身な人ほど文句も多いし、嫉妬深いと思います。

「出る杭は打たれる」ということわざは日本独特の考えであり、日本人の嫉妬深さを表しているとも言われますが、嫉妬は人を勝手に下に見ることから生まれるわけですから、嫉妬は「嫉妬する側」の内面の問題であり、嫉妬される側に非はないのです。自分をヤバくするのは、自分です。他人を嫉妬し過ぎず、嫉妬されることを恐れず、どうぞ人生を楽しんでいただきたいと思います。


<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」

西武ライオンズ・源田壮亮選手と衛藤美彩(公式インスタグラムより)

 

ママになった元乃木坂46の衛藤美彩(公式インスタグラムより)

 

ママになった元乃木坂46の衛藤美彩(公式インスタグラムより)

 

ママになった元乃木坂46の衛藤美彩(公式インスタグラムより)