「私も給水に来た住民の車に、警察が駐車禁止のキップを切ったという噂話は聞きましたね。でも、それがどこの給水所かまでは知らないけど……」
静岡県静岡市清水区三保で給水に来た70代の夫婦はそう話した。
9月24日、台風15号の接近で静岡市に記録的な大雨が降った。死者、行方不明者、ケガ人は出なかったが、29日までに同市では床下浸水およそ500世帯、床上浸水およそ800世帯を数えた。断水は約6万3000世帯にも及び、その半数はいまだに復旧していない。
とくに甚大な被害を受けたのが清水区。巴川が氾濫した清水銀座近辺は、道路の脇に水浸しになって使用不能になった冷蔵庫、テレビ、ベッドなどの粗大ゴミが山積になっている。
「川があふれて床上浸水したのは、1974年の“七夕豪雨”以来。それを機に家の土台を高くしたんですが、今回はそれでも浸水してしまったね」(近所の主婦)
水はけのいい砂地のため浸水被害はほとんどなかったが、いまだに断水が続いている冒頭の三保地域。給水所が約6か所に設置されたのだが、
給水に来た車に駐禁キップを切ってゆくお巡りさん
《給水車が来ても大行列、そのうえ貰えるのかもわからなく、諦める人続出。三保では給水に来た車に駐禁キップを切ってゆくお巡りさん…清水、絶望だよ…》
《給水場所に停車を取り締まるパトカーはバカじゃないの》
などとSNSに複数の書き込みがあり、瞬く間に拡散された。
もし警察が本当に駐禁キップを切っていたなら、断水に苦しむ市民に対して非情な所業と言えるだろう。真相を確かめるべく、清水署にあたってみると……。
「それは三保の市民サービスセンターに設けられた給水所で起きたトラブルですね。近隣住民から“給水に来た車が路上だけなく、歩道にも駐車していて、大混乱になっている。自宅から車を出せない状態になっているので、なんとかしてほしい”という要請がありました。そこで交番の駐在員、本署の交通課など6人が出動して交通整理にあたったのです」(清水署広報担当者)
同センター職員によると、
「駐車場は満杯。周辺の道にずらっと車が縦列駐車で並び、最大で5時間待ちといった状態でした」(同センター職員)
確かに警察と住民が揉める一幕も目撃したという。
「言い合いになっていたので、駐車違反をとられたんだと思っていました。災害時ですし、給水に長時間並んでうっぷんが溜まっていたのでしょうが……」(同・職員)
「けしからん」清水署にクレーム電話100件!
だが、警察は“1枚たりとも駐禁キップは切っていない”と断言する。
「このウワサがたちまち広まって、“けしからん”“弱者いじめにもほどがある”などクレームの電話が100本以上ありました。取り締まりはしていないと釈明しても、“ウソをつくな!”と……。通常の業務に支障をきたすほどで、今も鳴り続けています」(清水署)
前出の書き込みをしたいくつかのアカウントに連絡をとってみるも返答はなく、給水所近辺で駐禁を切られた人を探すも見つけられなかった。
この災害には、SNS上でもうひとつ、疑惑が生まれていた。
《おかしい。清水区の被害状況が報道されない》
《9月27日の安倍首相の国葬があるから、報道規制が入っているの?》
清水出身の著名人を中心にまことしやかに囁かれていたが、実際はどうなのか。静岡市の行政関係者はこう話す。
「約50年ぶりの大災害だったので、現場は災害対応に追われていて、情報発信が追いつかない状態にあったというのが正直なところです。国葬といっても、現場は“えっ、今日だったの?”といった具合で、それどころではなかった」
いずれも、混乱が生んだ“デマ”だったようだ……。