「ビールは太るが、ウイスキーは太らない。それは真実ではありません。お酒の糖質量はそれぞれですが、太る原因はズバリ“おつまみ”なのです」
健康おつまみはお酒によって違う
そう指摘するのは、日本内科学会認定総合内科専門医で、秋津医院院長の秋津壽男先生だ。秋津先生は、医学部に入る前に大学の醗酵工学科でお酒の醸造を学び、ソムリエ資格も持っている正真正銘のお酒好き。
「おつまみにフライドポテトや唐揚げばかり食べていれば太りますし、脂質のとりすぎになります。また、今はコロナ禍の影響で買い物を減らすよう、冷凍餃子や缶つまなど保存の効く食品を買う傾向が増えているかもしれません。それらは手軽でおつまみにピッタリですが、塩分の強いものが多いので注意が必要です。カット野菜でもいいので、生野菜を追加するようにしましょう」(秋津先生、以下同)
また、お酒の種類に合わせておつまみを選ぶのも大事だという。例えば、ビールのおつまみには餃子が最適。というのも、豚肉に含まれる栄養素が悪酔いを防止してくれるのだ。
もちろん、ワインに餃子を合わせても構わないが、せっかくならおいしさ倍増の組み合わせがおすすめだ。ぜひ、お酒に合わせたおつまみで、今夜の晩酌を楽しもう。
ビールの最強おつまみ
アルコールは体内に入ると、肝臓で分解(代謝)されて体外に排出される。その分解のときに大きな役割を果たすのがビタミンB。ビタミンBが不足していると、アルコールの分解がうまくいかなくなり、悪酔いや二日酔いを引き起こす。
悪酔いを防ぐ!【餃子】
「そうならないためにはビタミンBを多く含む食材をおつまみにするといいですね。例えば餃子。餃子に使われる豚肉には、ビタミンBがたっぷり含まれています」
うなぎやたらこなどにも含まれているが、豚肉が全食材のなかでトップクラスだ。
そのビタミンBの吸収を促すのが、ニラやにんにくに含まれるにおい成分のアリシンだ。アリシンによってビタミンBの吸収は約10倍もアップするので、アルコールを効率よく分解するには豚肉とニラとにんにくが入っている餃子がぴったりなのだ。
また、にんにくにもビタミンBは豊富なので、多少のにおいは気になっても、やはり餃子にはにんにくを加えたい。
肝臓を元気に!【枝豆】
「とりあえず、ビール!」と一緒に、まず注文することが多い枝豆。枝豆はお通しの定番でもある。秋津さんによると、これも理にかなっているという。
「枝豆には良質のタンパク質が含まれています。タンパク質は私たちの身体をつくるもと。アルコールを代謝する肝臓も、アルコールを分解する酵素も、そして肝臓の調子が悪いときに修復するのもタンパク質です。ですから、お酒のおつまみでも良質なタンパク質を積極的にとりましょう。
枝豆はいちばん手軽にとれるタンパク質といえますが、お通しで出てくる程度の量はちょっと少ない。効果を期待するなら、2人でお皿に山盛りの枝豆を食べるぐらいがいいでしょう」
実際に「ビールに枝豆」という組み合わせは秋津先生も意識して実践しているとのこと。ちなみにタンパク質というと肉のイメージがあるが、唐揚げや串カツなどの揚げ物の取りすぎには要注意だ。
ワインの最強おつまみ
ワインといえばチーズ。もちろんそれもいいが、秋津先生が健康面からすすめるのは、ワインにもよく合うナッツ類だ。
中性脂肪減!【ナッツ】
「ナッツ類にはオメガ3脂肪酸が含まれています。アルコールは体内で中性脂肪に変わりやすいので、お酒を飲むと中性脂肪の値が高くなりがちですが、オメガ3脂肪酸は、中性脂肪の上昇を抑えてくれます。
ただしナッツ類には、塩分も多く含まれているので注意してください。最近では無塩にこだわった素焼きナッツも販売されているので、そうしたものを選ぶのもおすすめです」
ちなみに秋津先生がいちばん好きなお酒というワイン。
「すぐに1本空けちゃうんで(笑)ボトルのワインを開けたら350mlなどの小さいペットボトルに、すぐに約半量を移し替えています」
口すれすれまで注き、すぐにキャップを閉めるのが酸化を防ぐポイントで、冷蔵庫に入れておけば1週間はおいしく飲めるそう。
代謝アップ!【カプレーゼ】
女性に人気なのが赤ワイン。アンチエイジングにつながるポリフェノールが含まれるからだが、相性がいいのがカプレーゼだ。トマトとモッツァレラチーズ、バジルの3つを彩りよく合わせたイタリア発祥のサラダである。
「トマトは、ヨーロッパには『トマトが赤くなると医者が青くなる』という言い伝えがあるほど健康にいい食べ物。さらに近年、トマトはアルコールの代謝にも効果的なことが、研究によって明らかになってきました」
トマトでアルコール代謝アップ!
トマトジュースとお酒を一緒に飲んだときと、水とお酒を一緒に飲んだときを比べてみると、トマトジュースを飲んだときのほうが体内からアルコールが消失する時間が早くなることがわかった。
お酒を飲んでいるときにトマトを食べると、体内のアルコール濃度の急激な上昇を抑えられるので、酔いの回りが緩やかになり、悪酔いしにくくなるという。
ワインにぴったりのトマトと良質なタンパク質を含むモッツァレラチーズ、さらに、免疫機能を正常に保つ働きがあるβ-カロテンたっぷりのバジルの組み合わせは、健康的なおつまみとしては最強だ!
ハイボールの最強おつまみ
女性の間で人気上昇中なのが、ウイスキーをソーダで割ったハイボール。糖質ゼロで、プリン体もないからだが、飲み口がサッパリしているので、おつまみにはこってりしたカロリー高めのものが食べたくなるのが玉にきず。そんなときにおすすめなのが納豆オムレツだ。
乳がんリスク減!【納豆オムレツ】
卵は良質なタンパク質のほかビタミン、カルシウム、鉄などが含まれた栄養食。オムレツにひき肉の代わりに納豆を入れれば、カロリー控えめでありながら満腹感が得られる。糖質ゼロのハイボールのお供にすれば、満腹感が得られるうえにヘルシーさが保てて最高だ。
しかも納豆には女性にうれしい健康効果が。女性は飲酒によって乳がんにかかるリスクが高くなってしまうことがわかっているが、国立がん研究センターの調査によると、大豆を発酵させた納豆やみそなどの食品を多くとると、乳がんになるリスクが低くなるのだ。
みそ・納豆で乳がん減少!
45~74歳の女性約4万8000人を追跡調査したところ、発酵大豆食品の摂取量が多いと、進行乳がん(リンパ節転移や隣接・遠隔臓器への転移あり)の罹患リスクが低くなることが判明。
「みそや納豆などをうまくアレンジしておつまみに取り入れるといいですね。もちろん日本酒に合わせてもおいしいので、女性は特に意識して食べてみて」
日本酒の最強おつまみ
日本酒と相性がいいヘルシーおつまみは揚げ出し豆腐だ。
胃を守る!【揚げ出し豆腐】
「揚げ出し豆腐は、その名のとおり、豆腐に衣をつけて揚げ、だし汁で味をしみ込ませたもの。揚げてあるので適度な油分があって温かく、胃の粘膜を保護してくれます。アルコール度数の高い日本酒から胃を守るのに最適なおつまみといえます」
揚げ出し豆腐や天抜きがおすすめのワケ
〈1〉適度な油分で胃を守ってくれる
〈2〉温かいので胃にやさしい
サッパリした冷ややっこもいいが、健康面を考えるなら、揚げ出し豆腐に軍配。
また「そば屋で一杯」というときにぜひチャレンジしたいのが「天抜き」。日本酒を飲んでいる間にそばがのびないよう、天ぷらそばからそばを抜いたものだ。
濃いめのだしにつかった天抜きは、適度な油分が胃をアルコールから守ってくれ、味覚的にも日本酒と相性バッチリ。少し背伸びして頼んでみてはどうだろう。
塩分排出!【青菜のおひたし】
日本酒好きは、ついついしょっぱいおつまみを食べがちだ。そうでなくても日本人は塩分のとりすぎが指摘されている。
厚生労働省の資料によると、食塩摂取の目標値は女性の場合は1日6・5グラム未満だが、実際に摂取している平均の食塩量は9・3グラム。塩分のとりすぎは高血圧を招き、胃がんや脳卒中、慢性腎臓病などを引き起こすリスクを高めてしまう。
塩分のとりすぎを防ぐには「カリウムを含む野菜を食べるといい」と秋津先生。カリウムは食塩を体外に尿として排泄させる働きがあるからだ。
カリウムを多く含む野菜は、ほうれん草やモロヘイヤ、小松菜などの青菜が代表的なので、これらの青菜のおひたしをしょうゆ控えめでつまむといい。
なお、腎臓病の人、高齢者で体力が低下している人は、カリウムのとりすぎに注意が必要なので医師に相談を。
教えてくれた人
秋津医院院長。テレビ東京『主治医が見つかる診療所』では、「何でも解決スーパー町医者」として初回からレギュラー出演。出版物や講演、テレビ出演など多数。
取材・文/江頭紀子