人生100年時代、定年退職後の長い年月をどうやりくりするかは切実な問題。
「夫婦2人で暮らすのに必要なお金は、月27万円といわれています。総務省のデータによると、いまや65~69歳男性の3人に2人が働く時代。退職前から働くことを視野に入れておいたほうがいい」と話すのは、経済エッセイストとして活躍するファイナンシャルプランナーの井戸美枝さん。
シニアも働く時代お金の枯渇を防ごう
定年後の就職には、今の会社で継続して働く、または転職して働くという2つのパターンがある。
「いずれの場合も定年前より収入が減る可能性が高いです。でも、それをカバーするためにさまざまな給付金制度が用意されていますよ」(井戸さん、以下同)
例えば、今の会社で継続して働く人の月収が30万円から18万円に下がった場合、それを補う「高年齢雇用継続基本給付金」が最大162万円支給される。
転職する場合には、再就職を支援する「高年齢再就職給付金」を最大65万円受け取ることが可能だ。そのうえ、再就職先で6か月以上継続して雇われれば、「就業促進定着手当」を最大日額5004円受給することができる。
ただし、再雇用の給付金は2025年以降、段階的に減額されることが決まっている。
雇用保険加入でもらえるお金増
働いているうちに定年退職後に何をしたいか、考えておくことも大事になってくる。
「雇用保険に入っている人は、定年前にスキルアップを支援する最大120万円の『教育訓練給付金』を受けることができます。資格を取れば再就職に有利になることもあるので、賢く利用を」
雇用保険は失業したときの保険だと思われがちだが、加入者なら誰でも使える便利な制度だ。
「家族の介護で仕事を休むときの休業給付なども受けられます。パートやアルバイトの人でも使えますよ」
定年後をどう過ごし、制度をどう活用するのか。夫の定年が近い人は、早いうちから夫婦で話し合ってみては。
あなたももらえるかも!?もらえるお金チェックリスト
□1週間で20時間以上働いている正社員、パート、アルバイトとして勤務している
□学生ではない
□雇用保険に加入している
全てにチェックが入ったあなたは雇用保険の給付対象!
スキルアップを目指すときにもらえるお金
〜再就職に有利!最大120万円〜
講座の受講で費用の一部が戻ってくる『教育訓練給付金』
自分で費用を負担して厚生労働大臣指定の教育訓練を受講して修了した場合に、その費用の一部が支給される雇用保険の制度。今の職場でのキャリアアップにもなるが、働きながら介護士や保育士などの資格を取っておくと、定年退職後の転職で有利に。
一般教育訓練、特定一般教育訓練、専門実践教育訓練の3種類があり、それぞれもらえる金額の上限も異なる。給付には雇用保険に加入している期間や、以前この制度を利用したことがある人は、それから1年以上が経過しているかなどの条件がある。自分が給付対象かはハローワークで確認を。
(1)誰がもらえる?
雇用保険に1年以上加入している人
(2)いくらもらえる?
【一般教育訓練】
教育訓練受講費の20%(上限10万円)
【特定一般教育訓練】
教育訓練受講費の40%(上限20万円)
【専門実践教育訓練】
教育訓練受講費の50%(上限120万円)
(3)申請先は?
ハローワーク
対象となる教育訓練講座一例
●看護師 ●助産師
●保健師 ●介護福祉士
●保育士 ●美容師
●理容師 ●栄養士
●歯科衛生士 ●はり師
●あん摩マッサージ、指圧師
●作業療法士、ほか
今の会社で働くともらえるお金
〜再雇用で支給!最大162万円※〜
(※定年前の賃金月額30万円の人が18万円になった場合)
下がってしまった賃金を補ってくれる『高年齢雇用継続基本給付金』
現在働いている会社で、退職後も引き続き働く人を支援する制度。
「再雇用で働く場合、賃金が下がってしまうことが多いので、その減った金額を補う給付金です。60歳以降の給与が60歳時点の75%未満に下がった場合に支給されます」
過去5年以上同じ会社に勤めていることや、60~65歳で雇用保険に加入していることなど、一定の条件がある。
「給与が大きく下がった人ほど多く支給されるので、61%以下になると定年後の賃金の15%が支給されます」
定年後に大きく減った収入を補う心強い制度だ。
(1)誰がもらえる?
●60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者期間が5年以上
●60歳以降、毎月の賃金月額が定年前の75%未満かつ支給限度額未満
(2)いくらもらえる?
【給与が60歳当時と比べて】
●61%以下……支払われた給与額×15%
●61~75%未満……支払われた給与額×0~15%
(3)申請先は?
勤務先、ハローワーク
別の会社に転職するともらえるお金
〜転職しても安心! 最大約65万円※〜
(※定年前の賃金月額30万円の人が18万円になった場合)
早めの再就職+賃金減を支援『高年齢再就職給付金』
定年退職後、失業保険の基本手当受給中に、再就職が決まるともらえるお金。
「賃金が以前よりも下がり、基本手当の支給期間が100日以上残っていることなどが受給の条件です」
60歳時点での賃金の61%以下になると、定年後の賃金の15%が支給される。
雇用保険には「再就職手当」もあるが、この給付金と同時にもらうことはできない。
また、支給期間が200日以上残っている場合は、最長2年間、65歳になるまでもらうことができる。早めに再就職できるとお得だ。
(1)誰がもらえる?
●60歳以上65歳未満で、雇用保険の被保険者期間が5年以上
●失業保険の基本手当を受給中に再就職した
●再就職前日に基本手当の支給が100日以上残っている
●60歳以降、毎月の賃金月額が定年前の75%未満かつ支給限度額未満
●再就職後に雇用保険に入っている
(2)いくらもらえる?
【給与が60歳当時と比べて】
●61%以下……支払われた給与額×15%
●61~75%未満……支払われた給与額×0~15%
(3)申請先は?
ハローワーク
〜最大日額5004円〜
再就職先で6か月以上雇われると対象に『就業促進定着手当』
安定した職業に就いてもらうことを目的につくられた。雇用保険の再就職手当を支給され、再就職先の賃金が以前の会社よりも低い状態で6か月以上働く人が対象。
「以前の会社で長く働いた人ほど、再就職先の賃金との差が大きくなりがち。この差を補うことで、職場への定着を促すための手当です」
再就職手当の追加手当のような位置づけだ。しっかり活用して、新しい職場で新たなキャリアを築こう。
(1)誰がもらえる?
●再就職手当の支給を受けている
●再就職手当の支給を受けてから同じ事業主に6か月以上雇われている
●所定の算出方法による再就職後6か月間の賃金の日額が以前の会社の賃金日額を下回る
(2)いくらもらえる?
60~65歳の場合、最大日額5004円×6か月分
(3)申請先は?
ハローワーク
再就職で苦戦して生活に困ったときは
仕事が決まらず、生活が本当に苦しいときは公的支援を頼ることも検討を。「住むところがなくなったり、住む場所を失うおそれが高い人に、実際の家賃額を3か月間支給してくれる住居確保給付金があります」(井戸さん)。家計を支える人が退職後2年以内で、世帯収入合計額や預貯金が規定以下になった家庭が対象となる。相談は各自治体の窓口へ。
教えてくれたのは……井戸美枝さん ●CFP(R)、社会保険労務士。経済エッセイストとしてテレビ、雑誌、新聞、WEBなどさまざまなメディアで活躍。近著に『お金がなくてもFIREできる』(日本経済新聞出版)。
〈取材・文/後藤るつ子〉