この夏に猛威を振るった新型コロナ感染拡大の第7波も、ようやくピークアウトを迎えた。7月14日に1000万人に達した国内の累計感染者数は、この2か月弱のあいだに倍増。
9月末の時点で延べ2000万人を超え、第7波は流行の規模も過去最大となった。現在、新規感染者数は減少傾向にあるものの、この先懸念されているのが“コロナ後遺症患者”の急増だ。
“コロナ後遺症患者”が急増
「主に倦怠(けんたい)感などを訴えて来院される方が、この7月ごろから格段に増えました。
コロナ罹患(りかん)後、長期にわたって症状が続いていたり、回復して数か月たってから新たな症状が出現して苦しんでいるという方もいます。第7波の爆発的な感染拡大を受け、こういった患者さんは今後さらに増え続けると考えられます」
そう語るのは、新見正則医院(東京都・千代田区)院長の新見正則先生。コロナ後遺症だと診断される症状は多種多様で、咳(せき)、不眠、身体中の痛み、脱毛、味覚や嗅覚の障害を抱える人もいれば、頭にモヤがかかったようなブレインフォグの状態や、ひどい物忘れに悩む人もいるという。
「特に多い症状は倦怠感で、なかには重力に逆らえないほど身体が重く感じ、起き上がることもできないという強い症状を訴える方もいました。
日常生活に大きな影響を及ぼすだけでなく、こういった症状が長引いたり慢性化することで“もう死んでしまいたい”と精神的に追い詰められてしまうケースもあるため、たかが倦怠感だと侮ることはできません」(新見先生、以下同)
あらゆる症状が見られるコロナ後遺症だからこそ、その診断は難しく、現場の医師たちを悩ませている。
「コロナ後遺症の特徴として、検査をしても異常が見つからないということが挙げられます。そもそも、コロナ後遺症というのは定義もあいまいで、確定診断が非常にしづらいんです。
ほかの病気の可能性はないかをひとつひとつ検討し、それでもなお原因が見つからない場合に、最終的にコロナ後遺症と診断されます。
症状によっては、うつや更年期障害との見分け方も難しいため、非常にやっかいだといえますね」
WHO(世界保健機関)の定義では、新型コロナの罹患後症状は「新型コロナウイルスに罹患した人に見られ、少なくとも2か月以上持続し、ほかの疾患による症状として説明がつかないもの」と説明している。
ところが、コロナ後遺症と診断された人のなかには、そもそもコロナに感染した覚えがないという人も。東京都に住む松尾重弘さん(35歳・仮名)もそのひとりだ。
「8月上旬ごろ、首のリンパの腫れと身体中の痛み、倦怠感があり、近所の病院で診療を受けました。身体に熱っぽさは感じましたが、検温では熱は出ておらず、抗原検査とPCR検査でも陰性。その後、血液検査などを受けたものの特に異常は見当たらず、とりあえずそのまま様子を見ることになりました」(松尾さん)
症状は4日ほど続いたあと、自然に回復。しかし8月下旬に同じような症状が再発し、再度受診することとなった。
「より詳細な検査を受けましたが、そこでも異常は見られず、原因は不明のまま。ただ、同居する家族が7月にコロナに感染していたことを問診で話すと、そのときに無症状で私もコロナに感染していたのでは……ということになり、そのままコロナ後遺症と診断されました。
あまり釈然としない診断で、治療も漢方薬を処方されたのみ。ほかには有効な治療法がないと言われてしまい、途方に暮れています」(松尾さん)
松尾さんはその後も回復と発症を繰り返しており、原因がわからないコロナ後遺症を抱えて不安な日々を送っている。コロナ後遺症は治療法も確立されておらず、医師たちも手探りの状況だ。
「コロナ後遺症を専門で診る医療機関も少しずつ増えてきていますが、まだ治療法のエビデンスを積み重ねているような状況。
コロナ後遺症に対しては“Bスポット療法”という治療法をとる病院も多いです。上咽頭に塩化亜鉛などを塗布するという内容ですが、これも有効性が確定しているわけではなく、やってみないと効くかどうかはわかりません。もちろん対症療法でできることは手を尽くしますが、そもそもの根本的な治療法がなく、正直お手上げという医師も多いのではないでしょうか」(新見先生、以下同)
明らかになっていないことの多いコロナ後遺症
一方で、コロナ後遺症の治療の選択肢として、漢方への注目も集まっているという。
「当院では、その人の症状に合う漢方薬を処方し、予後を見ることにしています。漢方は大きな副作用もないため、リスクを負うことなく試すことができるのが利点です。西洋医学でもまだ治療法が明らかになっていないような病気においても、漢方薬は患者さんにとっての“納得解”になりえますし、現在とることのできる有効な選択肢のひとつだと考えています」
原因や治療法など、いまだ明らかになっていない部分が多いコロナ後遺症。もし自分に疑わしい症状が出た場合、どう行動すべきだろうか。
「近所にコロナ後遺症外来があるかどうかをまずは調べてみてください。専門機関のリストを作成している自治体もありますし、実際に医療機関に電話をして“コロナ後遺症の倦怠感を診察してもらえますか”と確認するのもよいでしょう。
医師にとってもまだ知見が十分に積み重なっていない分野なので、治療に意欲的で、親身になって寄り添ってくれる医師に出会うことがとても重要です」
近隣にコロナ後遺症外来が見つからない場合、オンラインで診療を受けるというのも選択肢のひとつだ。
「最近ではオンラインでの遠隔診療に対応している保険診療の漢方医院もあります。私は『出雲漢方クリニック』という漢方専門医院をおすすめしていますが、自宅で診察を受けることができ、処方薬もすぐに宅配してもらえるのでとても便利です。
この先医療機関の逼迫(ひっぱく)が考えられるなかで“後遺症難民”にならないために、こういった選択肢があることも覚えておくとよいでしょう」
気温や湿度が下がるこれからの季節は呼吸器系のウイルス感染症が流行しやすい。この冬に第8波が起きる可能性も高く、コロナとインフルエンザの同時流行も考えられる。そこにきて、1000万人以上もの感染者が出た第7波の後遺症患者が急増するという最悪のケースも想定しておかなければならないだろう。
「不幸中の幸いというわけではありませんが、現在のところコロナ後遺症が直接の原因で亡くなった方はいません。唯一あるとすれば、コロナ後遺症によって心を病んでしまい、自死に至ってしまうケースです。
つらい症状が続き不安な気持ちになってしまうこともあると思いますが、まずは心を健やかに保ち、前向きに治療にあたることが何より大事だと感じています」
コロナ感染は、重症化のリスク以外に後遺症のリスクも伴う。この冬も十分な感染予防を怠ってはならない。
【コロナ後遺症の代表的な症状】
●疲労感・倦怠感 ●関節痛
●筋肉痛 ●咳
●喀痰 ●息切れ
●胸痛 ●脱毛
●記憶障害 ●集中力低下
●不眠 ●頭痛
●抑うつ ●嗅覚障害
●味覚障害 ●動悸
●下痢 ●腹痛
●睡眠障害 ●筋力低下
厚労省は『新型コロナの罹患後症状』についてのガイドラインを発表している。原因や治療についてはいまだ明らかになっていない
教えてくれたのは……新見正則先生 ●新見正則医院院長。オックスフォード大学医学博士。外科・免疫学・漢方の知見をもとに、セカンドオピニオンの第一人者としても活躍。世界初の抗がんエビデンスを獲得した生薬フアイアの啓発も行っている。
新著『フローチャートコロナ後遺症漢方薬 あなたも今日から診療できる!』
(3190円/新興医学出版社)は10月13日発売。
〈取材・文/吉信 武〉