椎名林檎

《揚げ足を取っていただいた》

 椎名林檎はかつて自身の“炎上”、そして批判をしてきた人に対し、そのように語っていた。赤地に白十字、白地に赤十字……。それぞれ街で見かける『ヘルプマーク』と『赤十字マーク』のデザイン構成だ。

「椎名林檎さんが11月30日にリリースするオフィシャルリミックスアルバム『百薬の長』の特典グッズが、『ヘルプマーク』『赤十字マーク』にソックリだとして大炎上。所属レコード会社であるユニバーサル・ミュージックは10月10日、対応を協議していると発表しました」(レコード会社関係者)

愛車にヒトラーと名付けたことも

《多くの皆さまから頂きましたご意見を踏まえ、弊社内で協議しております》というグッズは、まだユニバーサル・ミュージック公式販売サイトに掲げられている。特典は【UNIVERSAL MUSIC STORE限定盤】にのみ付けられる。白いマスクケースには赤十字が施され、赤いカードケースには白十字が施されている。カードケースはヘルプマーク“まんま”と言える。

 ヘルプマークは、東京都福祉保健局により作成されたピクトグラム。《義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう、作成したマーク》である(東京都福祉保健局ホームページより)。

 他者への思いやりのためのマークを“イジる”ような行為に批判が殺到することは当然といえる。しかし、彼女が赤十字を掲げたのは初めてのことではない。

「'00年にリリースしたライブDVD・ブルーレイ『下剋上エクスタシー』のジャケットも白地に赤十字のデザインでした。ネットやSNSが今ほど広まっていない時代だったせいか、炎上の声は基本的に聞かれませんでした」(前出・レコード会社関係者)

 しかし、時代が下るにつれ、彼女の“個性的”な行いは批判をたびたび呼んできた。

「ライブで旭日旗を模したような旗を観客に振らせたり、愛車にヒトラーと名付けるなど、その行動にはこれまでも疑問や批判の声が少なくありませんでした」(同・レコード会社関係者)

 そのような椎名を見続け、むしろそのやり方を好んでいるためか、ファンの一部には今回の騒動について「今さら椎名林檎に綺麗事を求める方がおかしい」という声もある。

 椎名林檎はデビュー以降、センシティブな案件の間際をスレスレで通過するような演出を続けてきた。それは歌詞も同様だ。しかし、ときにそれは人によってはスレスレとは思われない。超えるべきではない線を超えている、と。

「'14年のサッカーワールドカップブラジル大会のNHK番組で使用された楽曲『NIPPON』は、戦争を想起させる、右翼的だと批判を集めました。最初に書き上げた歌詞はNHK側によって“放送にふさわしくない”と修正を依頼されたそうです」(同・レコード会社関係者)

生命についての理解を語っていたが…

 具体的な批判は以下のようなものだ。

・歌詞の“混じり気のない気高い青”が、『純血主義』を想起させる。
・“不意に接近している淡い死の匂い”など、死を連想させるものは応援歌にふさわしくない
・特攻隊を思わせるPV

 冒頭は'14年に雑誌『SWITCH』にて、楽曲『NIPPON』についての批判に対して反論したインタビューでの彼女の弁だ。まず批判に対し椎名は《貧しいなあと。》とバッサリ。“死”については、《死の匂いを感じる瞬間は日常にあると思います。だって死は生と同じく、みんなおそろいのものだから。我々が必ず迎える局面を過剰に忌み嫌いすぎ。》とした。

 そして批判をしてきた人たちに対し、《『お耳を汚して失礼しました。毎度あり!』って感じですよ》《ゲテモノに見えるんだったら、わざわざお越しいただかなくて結構ですもん》と伝えている。

『下剋上エクスタシー』ジャケット

 同インタビューで椎名は“他者”について次のように語っている。

《三十歳を過ぎた頃から、自分の生命についての理解であり、他者の生命との関係性やその軋轢への理解が自然と深まってきたように思います。》

“他者の生命との関係性やその軋轢”を理解しているはずなのに、他者の生命に密接な関係のある赤十字やヘルプマークに酷似したグッズを製作するのか。

 インタビューは以下の言葉で締められている。

《自分がやったことは忘れちゃうの。でも人からやられたことは忘れません》

 彼女自身、何か“狙い”があったのかもしれないが、困る人がいる以上、今回は“自分がやったこと”は忘れてはならないだろう。

 

学校の前で親友とポーズをキメる中学生時代の椎名林檎

 

特典グッズ01ヘルプマークカードケース(ユニバーサル公式販売サイトより)

 

特典グッズ02赤十字マスクケース(ユニバーサル公式販売サイトより)

 

赤十字マークのような柄がついたマスクケース(UNIVERSALMUSICJAPAN椎名林檎「百薬の長」特設サイトより)