柴崎春通さん(本人のYouTubeより)

「こんにちは、柴崎です」というあいさつから始まるYouTubeチャンネル『Watercolor by Shibasaki』の柴崎春通さんは御年75歳。

登録者150万人超えの“おじいちゃん”YouTuber

水彩画家として個展を開催したりと精力的に活動する一方で、おしゃべりしながら水彩画やクレヨンを使って仕上げる超絶技巧の絵と動画が“すごい!”とネットで話題に。いまやチャンネル登録者数が150万人を超えた人気YouTuberだ。

柴崎さんの水彩画がフジ系ドラマ『PICO』第1話台本の表紙に採用された

 白いひげをたくわえ、ニコニコした笑顔と癒しのトークが評判を呼び、“おじいちゃん先生”という愛称で親しまれる柴崎さんは、放送中の吉沢亮主演の月9ドラマ『PICU 小児集中治療室』の台本表紙イラストも提供。

 きっかけは柴崎さんの絵に惚れ込んだフジテレビプロデューサーからの「やわらかでやさしい繊細な画風に惹かれました。ドラマのテーマにピッタリです。ぜひ先生に絵を描いてほしい!」という熱烈ラブコールだった。

 今作は、駆け出しの小児科医・志子田武四郎(吉沢亮)が先輩医師らとともに、重篤な病状の子どもを受け入れる小児専門の集中治療室(PICU)を北海道に立ち上げようと奔走するヒューマン医療ドラマ。このストーリーに合わせて、北海道の雄大な大地をやさしく包み込むような風景を水彩画で描き下ろした。テーマは「大地に生きる」。

「小児集中治療室のお話だというのを聞いて、北海道の大地のような生命の息吹を感じながら描きました」(柴崎さん、以下同)

 実は柴崎さんは心臓の手術をして入院したことがある。

「ベッドで横になりながら命について考えたこともありますし、お医者さんや看護師さんにはとてもお世話になり、みなさんの大変さも間近で感じられたので、絵のイメージを広げていくことができました」

フジ系ドラマ『PICO』第1話台本の表紙に使われた柴崎さんの水彩画

 そもそも柴崎さんがYouTubeを始めたのは息子さんからのすすめ。

「若いころ、通信の美術学校の講師をやっていて、生徒さんの絵を添削する動画撮影があったので、撮られることに抵抗はありませんでした。でも編集はできないので、息子にやってもらってます(笑)」

 そして'17年に動画配信をスタートさせる。だが、YouTubeを始めたからといってすぐに注目はされなかった。フォロワー数が伸びなくて、“何がいけないんだろう?”と悩んだこともあったそう。

 しかし、視聴者からのコメントを励みに試行錯誤しながら続けると、始めて1年でフォロワーが10万人を突破。

「寝落ちに使ってます」というメッセージもうれしい

「うれしかったですね(笑)。でも10万人と聞いてもピンとこなくて。家内とふたりで『国立競技場は7万人収容できるそうだから、客席が埋まる人数だよ』と言ってイメージを確認し合ったりしました(笑)。

 10万人のときにYouTubeから銀の盾、100万人で金の盾をいただいたんですけど、まさかこんなに早く超えるとはと、自分でも驚いています。10万人のときに家内から冗談で、『100万人のときは死んでるね』って言われていたので(笑)」

YouTubeのチャンネル登録者100万人を超えた証の「金の盾」と柴崎さん

 柴崎さんのファンは、国籍問わず、10代から70、80代まで老若男女さまざま。コメント欄も、日本語や英語、子どもから高齢者までたくさんのメッセージであふれている。

「孫くらいの年齢の子からの『僕のおじいちゃんだったらいいのに』『美術の学校の先生になってほしい』という書き込みを見るとうれしくなります。

 お仕事をしている方からは、『疲れて帰ってきて柴崎さんのYouTubeを見て癒されてます』とか『申し訳ないけど寝落ちに使ってます』などいろいろいただいて(笑)。

 絵だけじゃなくて僕がしゃべることで気持ちが和むこともあるんだなと思って、やりがいにつながっています」

 海外では、CNN(1億世帯が視聴するアメリカのニュースメディア)に取り上げられて人気に火が付いた。アメリカの世界最大掲示板サイト『レディット』で話題となり、放送を見た人たちからメッセージが殺到したことも。

「そのときに“バズる”という言葉を知ったんですけど(笑)、僕の動画には英語の字幕もついているので、それを見たアメリカの方が『日本のボブ・ロス(アメリカの有名な画家)を見つけた!』と書き込んでくれて、世界中のみなさんに知っていただくようになりました」

 柴崎さんは40代のころ、世界40か国をバックパッカーで旅をしながら絵を描いていたことがある。その経験から「言葉は通じなくても絵で理解し合える」という確信があった。

絵は言葉もいらないし説明もいらない。こいつは何者かというのがひと目でわかる表現方法なんです。海外では道端に座ってひたすら絵を描いていました。そうすると、人々が集まってきて家に呼んでごはんをごちそうしてくれるんです(笑)。そういう意味で、僕の中には日本だからとか海外だからという垣根はありません」

 やさしい語り口調と和みの低音ボイスに癒されるのだが、動画を頻繁に上げる姿には、秘めた情熱やエネルギーが伝わってくる。パワフルに活動できるのは、

「自分の好きなことをやっているから」

 と、自己分析してくれた。

好きに生きている。だから穏やか

「人に言われてやってるわけじゃなくて、好きなことを自分のためにやってるだけなんですよね。好きなことだから、あれもこれもとどんどんアイデアが浮かんでくる。その時間がいちばん楽しいです」

 そして、「僕は自分の好きなことしかしない、わがままな人間なんですよ(笑)」と、いたずらっぽく笑った。バックパッカーだったことでもわかるように、若いころからずっと自由人だったようだ。

「学生のころから“自分にとって楽しいか、楽しくないか”ですべて選択してきた気がします。そうしたら、ここにたどり着きました(笑)。つねに自分がおもしろく生きるための人生なんです。

 僕にとっては絵を描いたり、車でドライブしたり、実家が農家だったので畑で野菜や果物を育てているときが楽しいんです。自分が好きに生きている。だから、いつも穏やかな気持ちでいられるのかなあと思いますね。それに付き合わされてる家内は大変かもしれないですけど(笑)」

女優の杏ともコラボ。杏は柴崎さんのレクチャーを受けながら愛犬じろうの水彩画に挑戦した(本人のYoutubeより)

 自分は自由気ままに生きていると言いながらも、子どもたちへの未来を見つめる姿がそこにはあった。

「これからもYouTubeでいろいろな可能性を発信していきたいし、オンライン講座も開いて絵を描きたい方たちとの交流をもっと広げていきたいです。あとは、小さなお子さんのまだやわらかな心を、創作や絵を描くことで人生をより豊かにするお手伝いができればいいなと思っています」

 目を輝かせながら語る“おじいちゃん先生”の夢は、まだまだ尽きない。