かもめんたる・岩崎う大が、近々話題になりそうなお笑い芸人を予想する連載企画。今回の芸人はビスケットブラザーズ。
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第2回『ビスケットブラザーズ』
大会史上最高の接戦といわれたキングオブコント2022をみなさんはご覧になりましたか? そして見事キングに輝いたビスケットブラザーズという、コンビで似たような体形の2人組を。
恥ずかしながら、彼らの優勝を僕は予想できていませんでした。個人的には大好きな芸風のコンビですが、賞レースでは、優勝する組は良い意味でまとまっていることが多いです。構成がきれいで無駄がなく、洗練されていて、それが視聴者や観客には安心感として伝わる。それは後に風格と呼ばれるものへと変化していく類いのものだと思います。
その点で、ビスケットブラザーズは、まだ若いということもあり、自分たちの「おもしろ」を追求するあまり、お客さんを置いていってしまう危険があるという印象でした。
レストランで例えるなら、「これめっちゃうまいですよ」と笑顔で料理を出してくれるけど、その料理がのってるテーブルがちょっと汚れてる、そんな印象です。「味はめっちゃうまいから、テーブルもうちょっときれいにしたら?」と言っても、「ああ。気づきませんでしたわ~」と笑って返され、次に行くと、なぜか味が進化してて、テーブルが汚れたままみたいな。
賞レースにおけるテーブルの清潔さの重要性が身に沁みるのにまだ時間がかかりそうなコンビだと思っていました。しかし、あの日彼らはテーブルの汚れはそのままに、圧倒的にうまい料理を出して優勝していました。やりたい放題やって優勝するといういちばん気持ちの良い勝ち方で。当日、僕はYouTubeでキングオブコントの生配信実況をしていました。
特にやりたい放題だった1本目のコントのとき、視聴者からのコメント欄での評価はそんなに高くありませんでした。しかし、結果はあの松本人志さんが「満点でもよかった」というほどの高評価、東京03の飯塚さんも、バイきんぐの小峠さんも最高得点をつけるという圧倒的な結果。現場では何が起きていたのでしょう? 恐らく、みんなが「いっぱい笑った」、これに尽きると思います。審査員として、呼ばれたあの場所でその役割を忘れてしまうほど「いっぱい笑った」のだと。
汚れたテーブルの上で食べるからうまい料理
1本目のコントでは、ボケの原田くんがセーラー服にブリーフ姿の大学生として登場しますが、これを出オチとして消化してしまうとあのコントの本当のおもしろさにはたどり着けないと思います。コントが進むにつれて、あの男が別にふざけているわけでもなく、彼なりに社会に適合しようとしている姿が見えてきます。言うことはいちいちおもしろおかしいのですが、当の本人は何にもおもしろいことをしようとしていないその姿が神々しくすら見えてくる、そうなるとあなたはもうあのコントの虜です。
そして、2本目のコントは、仲の良さそうな女性2人の一方が「紹介したい男性がいる」と言って、目の前でその男性になっていくというものでした。この展開には度肝を抜かれました。コント史に残る展開だったと思います。映画でも、演劇でもなくコントだからこそ成立する素晴らしい発明でした。
忘れてはならないのは、両方のコントでのきんくんのツッコミにならないツッコミ、被害者の声とでもいうべき「切なる訴え」が世界観を引き立てていたことです。あれが普通のツッコミだと、コントももっと普通になってしまっていたはずです。
終わってみれば、僕も彼らの料理は汚れたテーブルの上で食べるからうまいんだと、気づかされていました。テーブルの汚れすら風格としてお茶の間に受け入れられるのも近い未来だと今度は自信を持って予測します。