「自分のつたない経験で言うのもアレですけど、ミュージカルってだいたい歌がしんどいか、芝居がしんどいか、どっちかなんです。でも、両方トップクラスにしんどいと思いますね(笑)」
主演ミュージカル『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』 はルードヴィヒ・ヴァン・ベートーベンを取り巻く愛と影、喪失、そして運命を描き、歌い上げる。
ネガティブな「しんどい」とは異なる
「しんどいっていうのはネガティブなイメージじゃなく、表現者としての熱量を放出しないといけない。慟哭や葛藤などの表現は一辺倒になりやすいからすごくテクニックがいる気がしていて。そのあたり、頑張らないといけないなと思っています」
演出を手がけるのは、鬼才・河原雅彦。過去4作の舞台をともにしているが、最初は'09年『真心一座 身も心も 流れ姉妹~獣たちの夜~』だった。
「河原さんに呼んでいただいて“こんな面白いことがあるぜ!!”と見せてくれた感じがあって。それがなかったら多分、自分の人生において、半分くらいは損していただろうなと思うくらい。知らないことを教えてくれた、大きな大きな出会いでした」
その舞台を見た演劇人から、別作品に声がかかり……。数珠つなぎのようにキャリアを重ねていく。
楽してる自分はなんかムカつく
「ご存じのとおり、かつての僕は仕事がなかったものですから(笑)。どの作品でも数シーンの出番しかもらえず。それは自分の実力不足なんですが、そんな鬱屈している若手時代に演劇は、生きていく支えになりました。その道を開いてくれたのは間違いなく、河原さん。その人が新たなチャレンジをするうえで“一緒にやろうぜ”と言ってくれるなら、しんどそうだと思いながらも、やるっきゃない。本当は超・楽して生きていきたいんですけどね(笑)」
取材は『石子と羽男-そんなコトで訴えます?-』のクランクアップ3日後。10月28日からは『仮面ライダーBLACK SUN』(Amazon prime video)の配信も控えている。そして、現在は本作の稽古の真っ最中。その忙しさは想像に難くない中、決して楽なほうを選ばない理由を聞くと、
「なんかムカつくじゃないですか、楽してる自分って。役者、芸能人、エッセイスト……とにかく人前で何かしらをさらす中村倫也って、何て言うんだろう? 屋号だと思っていて。僕個人は楽したいですけど、コイツ(中村倫也)に楽させて、ダサいなと思わせるわけにはいかないので。だから、やる。それだけです」
緩さと柔らかさをまといつつも、芯にはブレることのない毅然とした哲学が。
やりたい人とやりたいことを
河原とのタッグは7年ぶり。当時との変化を尋ねると、
「僕が売れたこと(笑)。あのころは“売れなかった反動で売れるわけじゃないし。そんなことよりも役者としての能力を伸ばすことのほうがカッコいい”と思っていました。でも河原さんに“企画会議で倫也の名前を出しても通らない。一緒にやりたいから、早く売れて”って言われて。
やりたい人と、やりたいことをやる。それを成立させるためには、売れることは必要条件なんだ、と。ちゃんと腹が決まりました。いくつかある僕のターニングポイントの確実なひとつです。
ただ、今は河原さんに“売れすぎだ”って言われているんですけどね(笑)」
MUSICAL『ルードヴィヒ〜Beethoven The Piano〜』
演出:河原雅彦
出演:中村倫也、木下晴香、福士誠治 ほか
10月29日~11月13日、東京芸術劇場プレイハウスにて。その後、大阪、金沢、仙台公演あり