紫苑さん

 生活費が上昇し続ける厳しい状態が続いている。乗り越えるには「食費」をミニマルに抑えるのが効率的。「食べすぎないから健康的」「作りすぎないから自由時間が増える」など節約以外のメリットもいろいろ。賢者の知恵で家計を守れ!

「切羽詰まって始めた食費1万円でしたが、やってみると快適でした」

69歳から始まった遅咲きの節約生活

 笑顔で話すのは月5万円の年金だけで豊かに暮らす様子をつづったブログが話題の紫苑さん。現在71歳、都内でひとり暮らしをしている。

 紫苑さんが節約に目覚めたのはコロナ禍になってから。65歳から年金を受給していたが、フリーで仕事もしていたので、さほど節約は気にしていなかったそう。けれどもコロナ禍で仕事がなくなり、収入は年金のみに。

「そこで初めて年金振り込み通知書を穴があくほど見ました。何度見ても増えないんですが、金額の少なさにあらためてショックを受けてしまって……(苦笑)」

 にわかに危機感を覚え、夜も眠れないほどだったという。

「嘆いていても何も変わらないし、とにかく自炊でどこまで食費が抑えられるか挑戦してみたんです」(紫苑さん、以下同)

 その時69歳。遅咲きの節約生活がスタートする。とはいえ節約を気にして身体を壊しては本末転倒なので、“栄養がある食事”は絶対条件。

 また元来、数字が苦手で節約という言葉も嫌いだったので、細かく予算決めをするというより“安くておいしく、栄養のある食事作り”に意識を向けることにした。

「これに気をつけると、安くておいしい食材って旬のものと気づいたんです」

旬の食材であれば、物価高も気にならない。値段も安く栄養価も高い(写真はイメージです)

 紫苑さんの買い物スタイルはこうだ。近くのスーパーで、1つ100円前後で売られている旬の野菜を3種類ほど購入する。次にメインとなる食材。

よく買うのはアスリートの常備食材といわれるタンパク質が豊富な鶏胸肉や、良質な魚の油がとれる鰯、鉄分補給にいいレバー。これらを買って1000円ほど使います」

 さらに週の途中で卵や牛乳、豆腐などを買い足し、1週間分の買い物は終了。

 週1回の買い物が1000円で月4000円、途中で買う牛乳類が月1000円、米代が月1000円で、合計6000円。残った予算でエビやカキ、ぶどうなど、少し値は張るが買いたいものを買うのだそう。

「メインの食材を焼いたり、蒸したり、揚げたり。組み合わせる野菜を変えることで、意外と食卓は豪華です。節約は大切だけど、おいしくなくては続かないですからね」

節約のおかげで今がいちばん健康な毎日!

 節約を続けるためのもうひとつの秘訣は、頑張りすぎないこと。

「焼き野菜や蒸し野菜などシンプル調理で、手間をかけないことが多い。その代わり調味料をちょっといいものにするとリッチになります」

 例えばグリルで焼いた野菜にオリーブ油とバルサミコ酢をかける“焼き野菜”や、鰯をオリーブ油で煮るだけの“自家製オイルサーディン”、マスタードをきかせた“鶏肉のマスタードソースがけ”などだ。

鶏肉などを入れたドリア。ドリアはご飯が少し余ったときなど便利。チーズも入れてタンパク質もしっかりと

 さらに紫苑さんの食生活のいいところは、体調が良くなったこと。

「疲労感がなくなり、毎朝すごく快腸で身体が軽くなりました。朝に起きられないタイプだったのに今はパッと起きられるんです。あと持病だった過敏性大腸炎もいつのまにか改善。健康診断でも問題点は一切なし! 明らかに若いころより健康に、若返っていると思います」

 シンプル調理と旬の食材を楽しむ食生活が心地よく、今では市販の惣菜などは味が濃すぎて食べられないという。

ひき肉ははんぺんと混ぜて、しょうが、みりん、しょうゆ、オイスターソースを隠し味にお団子に。仕込んでおけば、あらゆる料理に使える

 自炊のうえで活躍する調味料は?

「塩麹は便利ですよ。傷みやすい鰯は塩麹に漬けておくことで数日は保存が効くし、パサつきがちな鶏胸肉も漬けるだけでしっとりします」

 ほかには豆腐や厚揚げ。豆腐はサラダや炒め物に、厚揚げは煮物にと使い回しがきくという。

「カルシウム補給にジャコもよく食べます。小腹がすいたらパンにかけてチーズをのせて焼くと栄養満点のおやつに。ほかにも炒め物や蒸し野菜など、なんにでもパラパラかけてます」

■月1万円以下を叶えるおすすめ食材【ベスト5】
〈鶏胸肉〉
 低コストで栄養価は抜群。塩麹に漬けるほか、砂糖、塩の順で擦り込みしばらく置くとしっとり食感に。
〈鰯〉
 8尾100円ほどで買えることも。DHAやEPAなど認知症予防になる栄養が豊富、骨にいいカルシウムもたっぷり。
〈さば缶〉
 片栗粉をまぶしてポン酢をかけたり、卵とじにしたり。米で炊いてさば飯にしてもおいしい。
〈豆腐〉
 高タンパクで何にでも合うので、よく使う食材。冷凍し自然解凍すると高野豆腐のようになり、また違う食感が楽しめる。
〈トマト缶〉
 カレー、パスタ、オムレツ、ドリアなど汎用性が高い。さば缶と合わせてもイタリアンな一皿に。

節約を加速させるため、菓子とパンは買わない

 素材を活かしたシンプル調理で年金不安を吹き飛ばした紫苑さんだが、節約当初は1万円で収まらないことも。

「原因の第1位はお菓子。以前はスイーツ中毒みたいなところがあって、駄菓子がやめられなかったんです」

 お菓子をつい食べすぎて食事がおろそかになることも多々。そのせいでお腹を壊すが、欲望に勝てずまた食べるという悪循環。

「クッキーやせんべいなど、ちょっとしたお菓子を買うとすぐに500円ほどになります。500円あれば鶏胸肉や野菜など十分な食材が買えると思って、少しずつ減らすように心がけていきました」

 さらにやめたのが市販のパン。紫苑さんはベーカリーのパンが好きだったので、1回の買い物で1000円近い出費だった。

「でもパンは好き。だからパン焼き器を買って自分で作るようにしました。お菓子も、市販品よりぐっと砂糖を減らして作っています」

簡単なお菓子やパンは作るようにした。砂糖もぐっと減らせて、添加物もなし

 こうして市販のお菓子とパンをやめると月4000円近くが浮くようになったという。浪費につながる食習慣も断ち切り、見事に節約と健康を手に入れたのだ。

「年金でも十分やっていけると自信がついた今、気持ちも穏やかだし、人生でいちばん体調がいいと感じています。節約しているとお金をどんなふうに使うかをじっくり考えるので、頭の体操にもなりますよ(笑)」

■【紫苑流食費節約ポイント】
〈1〉旬の安い食材を買う
 季節など関係なく買いたいものを買うと、割高に。旬の食材であれば、物価高もなんのその! 値段も安く栄養価も高い。
〈2〉お菓子やパンは買わない
 意外とコストがかかる。食べなくなれば次第に「買いたい」という気持ちも薄れる。
〈3〉「安ければいい」で食材を選ばない
 健康によくておいしいことも重要なので、添加物の多い市販品は極力さける。体調が良くなれば「もっと頑張ろう」と前向きになり、節約も人生もうまくいく。
〈4〉貧相な食事はしない
 食事は木製の盆にのせ、いただきますと手を合わせて食べる。ささやかな食事でもきちんとした儀式にするとプチプラ食生活も格段に豊かに。

お話を伺ったのは……

紫苑さん
2020年からブログで発信しはじめた節約生活が話題となり、多数メディアで取り上げられる。著書に『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(大和書房)。

取材・文/樫野早苗、松澤ゆかり