ただひたすらに熱いお茶づけをかきこむ。食べてる途中で黒電話がけたたましくベルを鳴らしても、その手は止まらず「ただいまお茶づけ中」の紙を張り付ける。
余計な説明もなくお茶づけを爆食するだけというスタイルが大きなインパクトとなり注目を集めた永谷園の看板商品『お茶づけ海苔』のCMが流れたのは1997年のこと。
若い世代にも響いた25年前のCM
お茶漬けを食べる男性に「あれは誰?」との声が殺到して話題となり、その正体が広告代理店勤務の一般男性で、プレゼン用に演じたさまがよすぎて、当時の社長の判断でそのままCM出演となったというエピソードも衝撃だった。
25年の時を経て、突如としてそのCMがそのまま9月より放映され、当時を知る世代には「懐かしい!」若い世代にも「なんか美味しそう!」と、再び話題を集めた。
2022年は永谷園の『お茶づけ海苔』発売70周年にあたる。
《それまでの弊社CMのイメージをガラッと変えるほど、お茶の間に強烈なインパクトを与えた本CMを当時のまま放映することで、令和になった今だからこそ感じられる懐かしさや目新しさなど“お茶づけの魅力”を改めてお伝えしてまいります》(永谷園プレスリリースより)
25年たった今でもやはりインパクトは抜群、ネットなどで、見た人たちによる大きな盛り上がりをみせている。
「その食べる音が当時は“不快”という声も一部ありましたが、今でいう“ASMR”(聴覚や視覚への刺激によって感じる心地よい反応や感覚のこと)ですよね(笑)。CMで食欲がわくという効果は時代が変わっても普遍なものだと感じます」
と、あるテレビ関係者は言う。
「ちょうどいま、有吉(弘行)さんの番組『有吉クイズ』で、有吉さんが食事ロケで実食中にコメントやリアクションを全くせず、無言で黙々と食らうというスタイルが、逆に美味しそうに見えてくると話題を集めています。ある意味、今っぽいのかもしれません(笑)。ただただ食べるという映像の魅力、そしてお茶漬けのりという昔も今も変わらない愛されるアイテムというところがよかったのかと思います」(同)
宮沢りえはリメイクで登場
永谷園のようなかつての名作CMをそのまま流すというスタイルは珍しいかもしれないが(そのためかつての画面サイズの4:3の比率のままである)、その昔、人気を集めたCMのDNAを継ぐ最新CMは少なからず存在する。前出のテレビ関係者は言う。
「英会話スクールNOVAの、『♪いっぱい聞けて、いっぱいしゃべれ~る』の歌で人気を博したNOVAうさぎが、久しぶりにCMに帰ってきています。湖池屋『スコーン』も、『♪スコーン、スコーン、おいしいスコーン』という耳に残るフレーズとキレキレのダンスが印象的なCMが、Sexy Zoneの中島健人さんによってアップデートされ、現代によみがえりました」
ほかにも変則パターンでの復活系CMはある。昨年話題になったのは、TOKIOの城島茂、国分太一、松岡昌宏が出演するネスレ日本の『ネスカフェ ゴールドブレンド』だ。1970年の「違いのわかる男」キャンペーンを思い起こす、あの「ダバダ〜♪」の音楽を10年ぶりに復活させている。
さらに、誰もが懐かしいと思ったのは宮沢りえの『三井のリハウス』ではないだろうか。
「宮沢りえが娘を連れて、『ママもあなたくらいのときにはじめてリハウスしたの』と語りかけ、懐かしいCMの一場面が挿入されるというつくりです。背景は全く違いますが、コロナ禍で不要不急の外出を控えるため放送されていなかったJR東海の『そうだ、京都行こう』も復活しました。一時期控えられていたパチンコ機のCMも気づけば復活しています」
そんななかでの永谷園の“そのまんまCM”は斬新だ。時代に合わせてリメイクするのではなく、当時のをそのまま流すのは大胆な戦略といえる。あるマーケティング関係者が語る。
「それだけの自信もあったのではないでしょうか。今のタレントさんや俳優さんで『マルコメ坊や』や『リハウスガール』のように受け継ぐ形での復活でも全然よかった気もしますが、それだと“2代目”という話題のみで終わってしまい、インパクトは得られなかったかもしれませんね」
製作費ゼロというある種のメリットもあるこの手法。過去の人気CMがそのまま復活する可能性について「お色気や暴力など、今の基準で流しづらいもの、肖像権の許可が取りにくいもの」(同前)を除けば、十分にあり得るかもしれないという。
あなたがもう一度見てみたいCMは、なんですか?
〈取材・文/渋谷恭太郎〉