渋谷区代々木上原の閑静な住宅街にビルを構えるJASRACとヤマハ音楽教室

「音楽教室で『練習のために』弾いたり歌ったりするものから、使用料をもらいたいと思ったことなどない」

 かつて『残酷な天使のテーゼ』の作詞家・及川眠子がTwitterで呟いたことでも話題になった、“レッスン演奏で使う楽曲は著作権使用料を払わなければならないのか”について是非を問う裁判。長い論争の末、10月24日にようやく決着がついた。結果、「生徒の演奏に対しては徴収できない」とし、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)の上告を棄却したのだ。

 ことの発端は2017年、音楽教室事業者らがJASRACを相手取り“音楽教室での音楽著作物の演奏利用について、JASRACが請求権を有しないこと”を確認するために訴訟を起こしたことから始まった。

 簡潔にいえば、「レッスンで使用した楽曲については、音楽教室からJASRACが著作権料を徴収しますよ」といった内容である。果たしてレッスン中の生徒の演奏を音楽教室による楽曲利用とみなされるかが争点となっていた。

2019年の“潜入調査”も批判の的に

 2017年当時もSNS上では大きな話題に。

「音楽は音を楽しむモノなのに、金の音しか聴こえない」

「素人の練習に著作権使用料が発生するなら、他人が歌っている処に俺がハモっても使用料が発生すると言う事なのか…なんでも徴収すればいいってもんじゃない」

「著作権保護も大切だが音楽教室での練習の為の演奏に著作権料を払うのはやり過ぎだと思う」

 とJASRACに対して批判が殺到。宇多田ヒカルも《もし学校の授業で私の曲を使いたいっていう先生や生徒がいたら、著作権料なんか気にしないで無料で使って欲しいな》(2017年2月2日)とツイートで言及するほどであった。

 また、2019年にはJASRACの職員が、音楽教室の内情を探るべく“主婦”と偽り、約2年間にわたって“潜入調査”をしていたことも報じられた。こちらについても、「音楽の普及にはマイナスでしかない。自分たちの食い扶持を増やすことしか考えていない」と大炎上していた。

JASRACに苦言を呈した宇多田ヒカルのツイート

 そんなネットの声が届くことはなく、2020年に東京地方裁判所は音楽教室事業者らの訴訟を退けJASRACの主張を正当とした。音楽教室事業者らは直ちに控訴し、2021年に少し譲歩した形で知的財産高等裁判所が“教師は徴収対象、生徒の演奏は著作権料不要”という決定をくだした。今回の最高裁は“生徒の演奏に対しては徴収することができない”という二審の判決を不服としたJASRAC側の上告を棄却。

「日本の音楽産業が衰退する」

 長年の闘争を繰り広げて来た著作権料問題。教師と生徒の演奏から著作権料を徴収しようとしていたJASRACにとっては事実上“敗北”となるが……。

 この結果に、SNS上では「銭ゲバすぎる」といった声のほかに、

「当たり前。司法はまともな判決をしたね。JASRACはえげつなく儲けようなどと考えるべきでは無い」

「音楽教室のビジネスが教えてナンボの世界であり、楽曲そのものは単なるツールに過ぎない。そこまで著作権料をむしり取ろうとするのは権利の逸脱ではないかと思う」

「生徒たちの中には将来、音楽の道へ進む子もいるはず。彼らから使用料を徴収することは、音楽振興の立場に反すると思う」

「講師が著作権料を支払わなければならないのなら、その費用が生徒の授業料にプラスされ値上がりするだろう。結果、日本の音楽産業は衰退の一途を辿っていくことになると思う」

 と賛否両論。JASRACの無慈悲に著作権料を徴収しようとする体質に困惑の声もあがっている。

 JASRACは過去にも、BGMを利用する美容室などの店舗に対して全国一斉に法的措置を行うなど「著作権の保護」に力を注いでいたようだ。さらに、バンドの生演奏やカラオケ楽曲の無断利用で著作権を侵害したとする飲食店に対し、約480万円の損害賠償を求める訴訟を起こしたこともあった。

 事業目的のなかに「音楽文化の発展に寄与すること」を掲げているJASRAC。世間の目からはそのようには映っていなかったようだ──。