10月21日、女優の三田佳子さんの次男・高橋祐也氏が覚醒剤取締法違反容疑で逮捕されていたことが判明。5度目の逮捕となり世間の耳目を集めている。
高橋容疑者はすでに40歳を過ぎているが、未成年の頃から犯行を繰り返し、その度に三田さんは会見を開いて世間に謝罪してきた。芸能人だからといって、成人した子の犯罪が起きる度、親が出てきて謝罪するのはいい加減、終わりにした方がよい。謝罪の責任は親ではなく、犯罪者本人にあるのだから。
いまだに続く親・三田佳子へのバッシング
高橋容疑者が最初に逮捕されたのは未成年のころで、親が多額の小遣いを与えていたことが報道され、過保護であると世間からバッシングされた。成人してからも事件が起こる度、親による息子への過度な経済的援助が取り沙汰され、今回も同様の動きを報じるメディアもある。格差社会が進む中、経済力のある家族でなければできないことであり、嫉妬も相まって批判されているが、こうした報道が事実であるならば、親による経済的援助が続く限り、高橋容疑者の更生は難しいのではないかと感じる。何より、三田さん自身のためにならない。
筆者のもとには、子の問題に悩む社会的地位の高い親からの相談も多々寄せられる。子が罪を犯した場合、社会的地位が高ければ高いほど親の社会的責任が厳しく問われる日本では、家族は世間体を気にして問題を隠す傾向があり、社会的孤立を招いている面もある。本稿では、子が事件を起こした加害者家族の中で、経済力を持つ親ならではの問題と葛藤について迫りたい。
世間から嫉妬され、誰も助けてくれない
「甘やかしていると親ばかり責められますが、世間は助けてくれないし……。犯罪者となった息子でも、親が助けてあげるしかなかったんです」
淳子(仮名・70代)は美容関連の会社を経営しており、地域では名の知れた人物だった。離婚した夫との間に息子がふたり。長男は問題なく成長したが、次男は高校の頃から薬物に手を染めるようになり、逮捕を繰り返していた。
成人し、逮捕が実名報道されると、淳子のもとには批判も殺到したが、「息子さんの力になりたい」と支援を申し出る人々が寄ってきた。正体は新興宗教や占い師など、目的は金だった。
高額な費用のセミナーに参加させられたり、本を買わせられたりしたが、息子の再犯は止まらず、淳子は弱みに付け込まれ、騙された経験から社会不信になっていった。
前科者の次男を雇う会社などないと、周囲の反対を押し切って自分の会社の社員にしていた時期もあった。ところがトラブルを起こすばかりで仕事は長続きせず、40歳を過ぎた次男は4度目の逮捕に至った。
夫と会社を経営している直子(仮名・60代)の長男もまた、10代から金銭トラブルが絶えず、詐欺罪で逮捕されていた。
「幼い頃からお金をあげていたので、お金で人を支配することを覚えてしまったんです」
直子と夫は仕事が忙しく、息子に構う時間がない罪悪感から、小遣いを与えすぎていたことを後悔していた。お金は悪い仲間を呼び寄せる。親の目の届かないところで、息子は次々と悪事に手を染めるようになり、20代で初めて逮捕され服役もしたが、出所後も定職に就かず、起業すると言っては家族から多額の援助を受けてきたが、事業が軌道に乗ることは一度としてなかった。
親の援助は更生を妨げる
前科者や刑務所を出た人々の社会復帰を支援する組織は、十分とはいえないまでも全国に多数存在しており、加害者本人が求めれば、助けてくれる人々はいる。しかし、淳子や直子のように、親に経済力のある加害者たちが社会的支援につながることはない。本気で更生を支援する人々であれば、加害者の我儘を受け入れることなどないからである。それに比べて親は甘く、手厚い援助をしてくれる。厳しい環境に行くより、温室にいた方がいいに決まっているのだ。
そのような親子関係下で、再犯は繰り返されている。ターニングポイントがあるとすれば、親の資金が底をついた時である。淳子も直子も20年以上、息子のために資金をつぎ込んできたが、経済的な限界を迎えてしまった。息子たちは、自分の力で生きていく他、選択肢がなく、社会的支援につながり、ようやく更生の兆しが見え始めている。
家族の縁を切るのは難しい。しかし、親子関係にお金が介在しているとするならば、金の切れ目が縁の切れ目になるはずである。
阿部恭子(あべ・きょうこ)
NPO法人World Open Heart理事長。日本で初めて、犯罪加害者家族を対象とした支援組織を設立。全国の加害者家族からの相談に対応しながら講演や執筆活動を展開。著書『家族という呪い―加害者と暮らし続けるということ』(幻冬舎新書、2019)、『息子が人を殺しました―加害者家族の真実』(幻冬舎新書、2017)、『家族間殺人』(幻冬舎新書、2021)など。