京都府警の最重要案件に掲げられてきた『餃子の王将』社長射殺事件。犯行から8年10か月を経た今、京都府警は北九州市の特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部の田中幸雄受刑者(56)が関与した疑いが強まったとして、殺人と銃刀法違反の疑いで逮捕状を取った。
「本部長が代わるたびに現場に手を合わせに行っていた」
そう話すのは、元大阪府警刑事の犯罪ジャーナリスト・中島正純氏。通常、事件が迷宮入りすると捜査本部は解散するものだが、
「規模は縮小しても、本部は継続させて捜査の手を途切れさせなかったのが今回の逮捕につながった」(中島氏、以下同)
事件は13年12月19日の早朝、中華チェーン店『餃子の王将』の同府山科にある本社前で発生。同社の社長・大東隆行さん(当時72歳)が駐車場に車を止めて降りると、胸や腹部に計4発の銃弾を受け大東さんは現場で失血死した。同日7時ごろ、出勤してきた社員が倒れている大東さんを発見して通報している。
中島氏は、警察関係者から執念としか言いようのない捜査の詳細を聞いていた。
「4発すべてを命中させているので、銃の扱いに慣れている人物と判断し、京都府警は暴力団関係者を中心に捜査していました」
9年前、防犯カメラはまだ少なかった
今では防犯カメラは町じゅうに設置されていて、画像が証拠として活用されることが多いが、
「9年前はまだまだ少なかった。しかも『餃子の王将』本社には1台もなかったといいます。だが、隣の会社には防犯カメラがあったのでチェックすると、走り去るバイクのヘッドライトが映っていた」
ただし犯行時間が夜明け前だったため、バイクのナンバーを特定できるほどの鮮明な画像ではなかった。だが、その映像から北側に逃走したことが判明する。
「そこからは防犯カメラのリレー捜査をしたようです。要は、犯人が向かった方角に設置された防犯カメラをしらみ潰しにチェックしていく地道な捜査。それで、ようやく大手ファーストフード店の駐車場でバイクに乗った犯人と軽自動車に乗った仲間が落ち合う姿を確認できた」
その後、犯行に使われたバイクが発見され、ハンドル部分に残った硝煙反応があった。証拠は揃ったように思えたが、
逮捕できても有罪にできない
「検察から“これでは逮捕はできても否認されたら有罪にもっていけない”と言われたそうです」
今回、報道では現場付近に残されたたばこの吸い殻に付着したDNA型が田中受刑者と一致したことで逮捕に踏み切ったとあるが、
「15年の時点でDNA型の結果は出ていたが、それでも検察は首を縦に振らなかった。なぜなら、DNA型の一致だけでは現場にいた証明にはならないから。誰かが田中受刑者を罠にハメめるために、現場に吸い殻を置いていった可能性がゼロではないと」
目撃者もゼロ、証拠もなし。八方塞がりとなった府警が考え出したのが、新たな鑑定法“たばこの燃焼状況”だった。鑑定すると、「湿った路面で消されたもので、その場所は犯行現場と推定できる」という結果が出たのだ。
「私は燃焼鑑定なんて、聞いたことない。知人の警察官に聞いても同じ反応でした」
事件から9年という月日が経ってしまったが、
「府警はひとつの区切りとしてご遺族の方々に逮捕のご報告ができたのではないでしょうか。また、本件に携わった刑事も定年退職で1人抜け、二人抜け…と聞いていました。彼らの思いも報われたのでは」
今回の逮捕で、事件の全容解明が期待される。